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終演のアナウンスが流れて、余韻に浸りたい気持ちを押し込めてスマホで時間を確認しようとすると、いきなり着信画面に変わる。

「もしもし」
「瑞希!お前!絶対に絶対に楽屋に顔出せよ!」
「、早く退室しなくていいんですか」
「うるせえ!絶対だぞ!」

うるさいのはそっちの方でしょ、と心の中で大きなため息をつく。この人、周りにバレたらどうするつもりなんだ。

それでも結局楽屋に足を運んでしまうわたしも相当甘い。

「お疲れ様です、」

「あ〜瑞希ちゃん!ありがと〜」

賑やかな楽屋に恐る恐る顔を出せば、1番最初に気づいてくれたのは、廣瀬智紀くんだった。爽やかな笑顔に思わず小さく頭を下げる。

「ごめんな〜こんな格好で。タイミング悪〜」
「宮野さんは?」
「呼び出した張本人?いま向こうにいるからちょっと待って」
「あと10秒で帰りますって伝えて」
「ゆっくりしてってよ、ひろきくんもすぐくるから」

わたしとひろきくんが仲がいいの知ってる人、そんなにいなかったはずだけどなあ。智紀くんのゆるさに流されて端っこによる。

「瑞希〜〜愛しの瑞希〜〜!ツンデレ瑞希ちゃん〜〜!ありがとう〜〜!」

後ろから響く大きな声に思わず本日2度目のため息。楽屋でみる宮野真守先輩はやはりでかい。舞台映えはするが、サイズはでかい。

「さっきまであんなにかっこよかったのに」
「えっかっこよかった?俺?」
「いちばんよかったのは霧丸です。」
「瑞希さん!お久しぶりです!松岡です!」
「お前ほんとすごいな、極妻感が。何人舎弟がいるんだよ」
「ひどい」
「テニミュんときお世話になってたんでもうそりゃあ!2nd出演者は瑞希さんのこと知らない人いないです」
「ちょこっとお手伝いしただけですよ..」

懐かしい顔に顔がほころぶ。
よかったです、と伝えて帰るつもりだったのに気づけば長居をしてしまった。

そろそろお暇しよう、と声をかけようとした瞬間、「あっ、瑞希ちゃん」と声をかけられる。声でわかる、ひろきくんだ。わたしが返事をする前に宮野さんがひろきくんに声をかけた。

これは、やばい。

何もやましいことはないけど、なんとなく本能的にそう思った。
だがときすでに遅し。宮野さんが構えたカメラに咄嗟に顔を隠すことしかできなかった。



「来てくれると思わなかった」

せっかくだから一緒に帰ろうよ、とその場から逃げるように、ひろきくんを待っていたタクシーに乗せられた。

何を話せばいいのかわからずに、目線を窓の外に逸らす。

最初に沈黙を破ったのはひろきくんだった。

「ひろきくんの舞台、わりと観に行ってると思うんだけど」
「ほら、年末の忙しい時期じゃん。刀剣乱舞は行くの?」
「うん。荒牧くんと納谷くんが招待してくれたし、一応関係者的なやつで」
「小夜的には観て欲しいもんなあ、今回は特に」
「そうみたいね。楽しみなんだ〜」

窓の外に流れていくネオンを眺める。ひろきくんがどんな気持ちで一緒に帰ろうといったのか意図が読めない。タイミングがあっただけの、ただの気まぐれなんだろうか。

「彼氏さんとは、うまくいってる?」
「珍しいね、ひろきくんから」
「だって瑞希ちゃんはそういうの、言ってくれないでしょ」
「そうだね」
「そうだよ」

「もしかしたら、この人と本当に結婚するのかもしれないなって少しだけ思ったりしてる」

「そっか」

瑞希ちゃんが幸せでいてくれればそれでいいよ、ひろきくんはそう微笑んだ。

呪いのような言葉だけど、なぜかすごくその言葉が嬉しかった。