■ ■ ■

「なっちゃんーでておいで〜」

微妙に開いた非常扉の向こうに見知った背中を見つけた。階段の下を覗き込んでいる彼女は俺に全く気づいてない。

「なにしてんの」

ゆっくり振り返って「なんだ、花江くんか」と頬を緩める。

「ネコ。なっちゃんっていうの」
「なっちゃんて」

俺のことじゃないの、と言いかけてやめた。

「大分前からこのスタジオに住み着いてるんだ。壮馬くんとみつけたんだけど、そのときはすっごく細かったから、だからなっちゃん」
「よくわかんないけど今は元気そうだね」
「うん、よかった」

ゴロゴロと喉を鳴らして寄ってくる茶色い猫。随分と人間に慣れていた。





「花江くん、わたしね、江口さんと一緒にいたいのかもしれない」


掠れた、消えるような声だった。

膝に埋めたままの表情はなにも見えない。

「瑞希ちゃんは瑞希ちゃんらしくしてなよ。そうしたいとおもったことを、すればいい。

僕はなにがあっても味方だよ、それだけはずっと、この先も変わらない」


背中が小さく揺れた。