■ ■ ■

「瑞希ちゃん!ほんっとに!ごめん!」
「へ?」

出会い頭、廊下のど真ん中で勢いよく頭を下げた八代くんに呆然とする。心当たりが全くない。
すれ違う人がギョッとしていて慌てて顔を上げるように言う。最近にもこんなことがあったような。

「この前のBプロのニコ生で瑞希ちゃんと江口さんが付き合ってるって最初に口滑らしたの俺で!すごい騒ぎになっちゃったから、」

「ああ、それか。気にしなくていいのに。どうせ悪乗りしたのは豊永さんと花江くんでしょ?」

顔を真っ青にする彼をみて、血相を変えて謝ってきたあの日の江口さんのことを思い出した。

まあ大丈夫だよ、なんてお気楽に考えてたら電話越しでうちのマネージャーに笑われた。江口さんはものっすごく怒られたみたいだけど。

戦々恐々としてたら一部のファンからは「瑞希ちゃん恋愛に興味あったんだ」と書き込まれていて思わず吹き出したくらい。

わたしが言わなくてもきっとだれかが零すんだろうなとは薄々思ってたのだ。
江口さんは「瑞希に迷惑かけたくないから」といろんな人に釘を刺していたらしいけど、1番言いたかったのは江口さんなんだろうなって。
連絡をくれた小野さんは「江口の猛アタック、みてて面白かったんだよ」と笑われるくらいなんだから。

隠し事は苦手だった。後ろめたさをもったまま器用に仕事するのが苦しかった。

だからむしろ八代くんには感謝してるんだ。

「や、でもほんと、ごめんね。大変だったよね?別れたりしない?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「よかった〜!安心した、、」

"別れたりしない?"

心配そうな彼をみて、少し胸が痛くなった。

大丈夫、大丈夫、そう心に言い聞かせる。

江口さんとなら、大丈夫。こんどこそ器用に、上手にやるんだ。