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俺の飛鳥に対する第一印象は、薄いの一言に尽きる。細身で肌が白くて目も茶色くて、そう、あれだ。今で言う、透明感ってやつ。儚げで、風が吹いたら飛んで消えてしまいそうなイメージだった。
別に俺だってここまで飛鳥と親身になるとは思ってなかったよ。
「……茜、さん?」
それはとあるイベントでのこと。当時の俺にとっては貴重で重要なイベントで、有名な先輩たちも登壇するイベントだった。緊張のさなか廊下を歩いていると、あまり使われていないような薄暗い階段に座り込んで息を整える女の子がいた。
それが、茜飛鳥。
前から気になっていた女の子。
飛鳥も同じイベントに出演するのは知っていた。何度も収録だって一緒になってるし、今回だって、そうだった。
「…内田さん」
「え、だ、大丈夫?苦しそう、だけど…」
「ん…大丈夫です」
「そ、か。ならいいけど」
軽く目を逸らした飛鳥に、そっとしておいてほしいのだろうとも思えたが、なんだか1人にしておくのは気が引けたため少し間を空けて隣に座ってみた。横目で見た飛鳥は何も言わない。呼吸音だけが辺りに響いていた。
「あー……体調悪い?」
「……」
「あ、言いたくないならいいよ」
「いや……そうやって落ち着いて話せるんだなって思って」
「茜さん俺のことどう思ってるの」
そりゃあ、たしかに面倒なテンションで話しかけることのほうが多いけど。
「……子供のとき、体があまり強いほうではなかったんです」
「あー、なんかわかるわ。そんな感じする」
「そう、ですかね」
「うん。体育とかしょっちゅう見学してそう」
「それは……はい。図星です」
「お、当たった」
クラスに1人はいる体の弱い子。まさにそれに該当しているとは、なかなかに俺の勘も捨てたもんじゃない。なんて、見ればわかることだけど。
「だからたまにこうなっちゃうんですよ。少し休めば大丈夫なんですけど」と胸に置いていた手をおろした。
「今はもう全然元気ですよ。すいません、心配おかけしてしまって」
「そっか。よかったあ……」
安心してへらりと笑った俺に飛鳥は目を伏せて口を開いた。
「……内田さんってもっと軽薄な人だと思ってました」
「い、いまのはさすがにグサッときたぞ……」
「すいません。でも、本当は優しくて真面目な方なんだなあと思って」
「変なこと言ってますね私」と照れくさそうに笑ったその瞬間に、あ、この人は俺が守っていかなきゃいけないんだという思いが駆け巡った。今思えば、我ながらかなり意味がわからない。どんな使命感だよ。
俺なんかより前からこの業界にいて、経験だって実力だって俺より明らかに上なのに、それでもただの女の子なんだと自覚させられた。
「……茜さん!」
「え、あ、はい」
「なんか困ったこととかあったらなんでも言って!俺がんばるから!」
「が、がんばる……?」
「あ、飛鳥って呼んでもいい?そっちのほうが呼びやすいわ」
「うーん……まあ、好きにしてください」
このときから既にウザがられてたのは後で知ることになるのだけど、当時の俺は浮かれすぎててそこまで考えていなかったのである。
結果的に内田雄馬の粘り勝ち、なんて多々言われることがあるけど、飛鳥だってちゃんと俺のこと好きだと思う。
自惚れ?いやあこれは自惚れるでしょ。
「あ、すいません。その日は雄馬とドライブなんで無理です」
だって彼氏でもない俺を優先してくれるんだぜ?これをドヤ顔しないで何になるよ。
「あ、雄馬さんが勝ち誇った顔でこっち見てる」
「うわー!むかつく!」
「ははは、何とでも言ってくれ」
「茜さん、また今度行きましょうね!?」
「あはは、考えときますね」
「それ絶対行かないやつ」
「茜さん……!!」