ある日、風邪をひいてしまい1日だけ学校を休んでしまった。屋上庭園の花たちは大丈夫だろうか。ちゃんと決まった時間にお水をあげていたのに。蓮二に屋上庭園の花たちの水やりを頼むメールを送ったけれど、そんなことは彼女である苗字に頼めと返事がきた。だから俺は諦めてその日はゆっくりと身体を休めたのだ。

「あれ…?」

翌日、学校の屋上庭園へ向かい、すぐに花たちの元へ急ぐ。そこには普段と変わらない元気な花たちが。キラキラと輝いていて一昨日よりも綺麗に見える。誰かが水をあげた形跡があるから、きっと誰かがしてくれたのだろう。もしかして蓮二…?いや、蓮二にしか頼もうとしなかったのだから彼以外有り得ない。そう思うと居ても立ってもいられず、俺は屋上庭園を後にして蓮二の居るクラスへと足を進めた。

「俺はしていないが?」
「じゃあ、誰が…」
「苗字じゃないか?」
「まさか。あんな乱暴な物言いをする苗字さんがまともに花の世話なんて出来るはずないだろう?」

そう。まさかあの苗字さんが。そう思って再び屋上庭園に足を進めた。そろそろ水やりの時間だから。そっと屋上庭園のドアを開ければ先客が居て俺は思わずドアを開ける手を止め、屋上庭園に入ろうとする足を止めた。その先客というのは先ほどまで噂をしていた例の苗字さんで、花たちに水やりをしていたのだ。

「今日も晴れだよ〜。太陽の光をいっぱい吸って綺麗な花を咲かせてね?」

俺には決して聞かせないその優しい声で、彼女は花たちに声を掛けていた。そっと花壇の前に座り込んだかと思えば、元気のない花に手を添えている。

「君も心配?大丈夫、幸村くんはすぐ元気になるよ。」

見たことのないその儚い笑顔。優しい表情のまま苗字さんは小さく謝り、雑草たちを丁寧に抜いていった。自分の手が汚れるのとか、そんなことはお構いなしに。女の子は自分の手を汚すのを嫌うと思っていたから少し意外だった。そして彼女のそんな姿に惹かれないわけがなく、俺はただただその姿を魅入っていた。

「ちょ!幸村精市!来てたんならそう言いなさいよコラァ!!」
「ああ、ごめんごめん。風邪はだいぶ良くなったんだ。」
「何笑ってんの?きっもちわる!」

後に廊下で会うと、散々文句言われたけどね。