男の人が苦手だ。原因は分からないけれど、とにかく私は男性が苦手だった。女子校に行こうと思ったら片道2時間はかかるし、それでも高校には行きたかったので、仕方なく地元の高校に入学した。ものの、さっそく不運である。
「やあ、おはよう、アニータ。いい朝だね」
名簿番号は男女混合で、1番から2人ずつ週番を決めていて。私とペアになったのは、イライ・クラークという名前の男の子だった。目の病気なのか知らないけれど、ずっと目隠しをしていて、ぱっと見不気味な人だけれど、実の所はフレンドリーで話しやすくて、紳士的な人━━と、友人が言っていた。
おはよう、と聞こえるかどうかも分からないくらいの声で返して、自分の席にバッグを置く。「あとは日誌を取りに行くだけだから。一緒に取りに行こう」彼はそう言いながら窓を開けた。夏にしては涼しげな風が吹き込んでくる。
「全部、やってくれたの…?」
「ああ。早く君に会いたいと思っていたら、かなり早く着いてしまってね」
少しだけ、胸の奥がきゅうっとなった。あなたに苦手意識を持っている私に、早く会いたかっただなんて。顔に熱が集まってくる気配があって、泣きそうになった。こんな風になったのは初めてだった。
「ど、どうしたんだい、アニータ」
「何でもないわ、平気」
カーディガンの袖で目元を拭うと、手を掴まれた。初めて触れたイライの手は、大きくて温かかった。
「アニータ」
「な、なに……?」
「…うん、やっぱり君はかわいい」
私の手を離して、イライは目隠しを取った。きれいな青色の瞳が見えて、吸い込まれてしまいそうだと思った。「アニータ」直視できなくて目をそらした私を、彼の声が優しく叱った。こちらを向いてと言われて彼と目が合うと、青の内側に熱を見た。前にもどこかで見たことがあるような気がする熱。不快ではなかった。
男の人は苦手。どうして苦手なのかは分からないし、思い出せない。昔男の人になにかをされた記憶はなく、いっそ前世の私が何かそんな体験をしたのではないかと思うほど。けれど、イライ・クラークという男だけは、苦手とは思えなかった。私の腰を引いて、頭を抱いて、キスをする。男の人とキスをしたのは初めてだったのに、何だか懐かしい気がした。