義勇は、お前が悲しむのを一番恐れている。お前が泣いた時のあいつの焦りっぷりったらない。自分が泣かせたわけでもないのに、精いっぱいお前を笑わせようとするのだ。不器用なやつだから、ほぼ空回っているけれど。それでも、お前が笑った時、喜んだ時、一番嬉しそうにするのはあいつなのだ。

義勇は、あなたが悲しむのを一番恐れている。あなたが悲しそうにした日は、彼もその日一日の調子がすこぶる悪い。いつもは仏頂面の男が、ただ一人の女の子のために心を砕き、眉を下げることがあるなんて。私はそれが少しだけうらやましい。あなたを拾った鱗滝さんより、あなたを一番かわいがっている私や錆兎より、彼が一番あなたを大切に思っているのだから。


男は、私が悲しむことを一番恐れていた。だからこそ、帰ってきてまず私に頭を下げたのだ。義父に鬼殺隊の入隊を果たしたことを報告するよりも先に、額を地につけて、私に謝った。
「すまない、依子」
俺が不甲斐ないせいで、錆兎と真菰を死なせてしまった。今にも泣きだしてしまいそうな、震えた声だった。泣けなかった。二人の死が悲しくないわけではない。私の悲しみを恐れるあまりに自分の悲しみさえ抑えて、ただ頭を下げた男に、私は何を言っていいのかわからなかった。

俺は、女の悲しみが一等恐ろしかった。それがお前の弱さだと散々錆兎に言われたが、弱さは弱さのまま、治せそうになかった。どんなに泣いた依子を忘れようとしても、忘れてはならないとばかりに脳裏に貼り付いて離れてくれないのだ。
だからこそ、俺自身が依子を悲しませることなど、以ての外だった。それは二人が死んだことを伝えることも、例外ではなかった。お前を悲しませることを許してくれと、頭を下げた。依子が膝をついたのがわかった。
「義勇、」
依子の声が震えていた。彼女の震えた手が、俺の手に重ねられる。俺が顔を上げると、依子は泣きながら笑っていた。
「おかえりなさい」
そう言って、依子は俺を抱き締めた。お前は好きな時に好きなだけ泣けばいい。そう言われているようで、途端に涙が溢れて止まらなかった。錆兎が死んだ、真菰が死んだ。今まであんなに恐ろしかった依子の悲しみが、今では些事に思えた。おかえりなさいと繰り返した依子の声が、ただひとつの救いのような気がした。