※ エセ方言


私は勝生夢子。
長谷津一の温泉旅館、ゆ〜とぴあかつきの看板娘☆

同姓でフィギュア男子スケーターを連想した貴方は大正解、私は勝生勇利と双子なんです!
男女の双子ながら、容姿はパッと見『勇利に似てる』ってよく言われるけど、私の方がお姉ちゃんだから「勇利が私に似てる」なのだ、そこを間違えちゃノンノン。
性格はあんまり似てないって言われる、そうかなぁ。
確かに勇利はネガティブでナイーブかつヘタレだけど、結構似てると自負してるんだけどな。

そんな愛すべき片割れが、本日5年振りに帰って来てくれた。
画面や電話越しでない勇利の声に、机拭き用のフキンを放り投げ、思いっきり駆け出してその胸に飛び込む。


「ゆうりィィ! 我が半身よーー!!」
「ぶへらッ!」


ぽよんと弾力のある身体で受け止められると同時に、子豚の如し奇声が胸元で弾けた。
おっとコイツァあかんでよ。
勇利の隣にミナコ先生が居たのを見逃さなかった私は、早々とバレるであろう勇利の弛みっぷりに内心、合掌。
しかし5年振りだ、感動の再会に免じて私からは何も言い出さないでおこう。

にしても、思いっきり抱き着いたにも関わらず、転ばずにちゃんと抱き留めてくれる勇利は流石だ。
久方振りに触れ合う片割れの存在が嬉しくて嬉しくて、年甲斐もなくはしゃいでしまう。
外気で冷え切った彼の頬を温めるように自分の頬をすり寄せて、髪をぐしゃぐしゃに撫で続けていると、タンマの声を上げる勇利。
お母さんが『あらあら、仲良きかねぇ』と、私たちの様子を和やかに言い表していた。


「ゆうり、勇利だ。ゆうり〜ほっぺ超冷たい〜」
「ま、待って。落ち着いてよ、夢子ッ」
「ゆーうーりぃー」
「こら、夢子。勇利が潰れるやろー」
「ばってん、お父さん! 勇利が帰って来たけんね、嬉しかよ〜!」
「後で話せばよかばいね。勇利も疲れてるだろーに、ぞーぐいすっちいかん。こんな所でみたんなか」
 ≪――。勇利も疲れてるだろうし、はしゃぎ過ぎない。こんな所でみっともないだろう≫
「うぅっ。……ごめんなさい。
 勇利、ごめんね。重くなかった? 痛くない?」


お父さんの穏やかだけど誡めるような口調に、頭がすーっと冷えていく。
勇利の体調も鑑みないで姉失格だ、お客様の目に付く玄関で燥ぎ過ぎたことも含めて反省しなきゃ、しょんぼろふ。

親猿にしがみ付く子猿よろしく、抱き着いていた両腕両足を名残惜しくも離し、改めて勇利を真正面から見つめてみる。
案の定ぽっちゃりとしている、私とよく似た、それでも男子らしい面貌は、私の猛攻で疲弊したのか真っ赤だ。
勇利は決まりが悪い視線を私の胸元で右往左往させ、数秒のちようやく顔を上げて視線を合わせてくれる。

頼りないと評される彼の素面。
しかしどこか憔悴したような、迷っているような感情が含まれていることに、私は勘付ける。


「勇利……大丈夫?」
「えっと……平気だよ」


問いかけには、へらりと眉を垂れさせた曖昧な微笑が返された。

(勇利の、嘘吐き)
数年前だったらハッキリと口にしていた言葉を、どうしてだか憚られる。
5年間、勇利は私の知らない所で、きっと大変な苦労をしてきただろう。
勇利たちの影響で触合えたとはいえ、詳しく知らないフィギュアの世界について、私がアドバイスしても何の役に立つのか。

一変して、不気味なほど静かになった私を、勇利はどうしてか申し訳なさそうに見つめ返してくる。
一卵性双生児によくある以心伝心さとかはないけれど、私たちはお互いの感情などに敏い方だった。
勇利の力になりたくてもなれない、私の無力感を悟られてしまったのかもしれない。


「ありがとう、夢子」
「ごめんね、勇利」


もう一度謝る私の頭を、勇利は優しく撫でてくれる。
こういうところ、私より大人っぽく振る舞ってて、ずるい。
私が子供のままみたいじゃない、けれど長らく感じられなかった懐かしい掌の温もりに甘えてしまうんだ。





想定通り、勇利の立派な弛みに、ミナコ先生が悲鳴を上げて憤慨している。
今の勇利は、ちょっとふくよかなお母さんと並ぶと、本当にそっくりだ。

ミナコ先生の嘆きを端目に、お母さんが勇利に色々と世話を焼きたがっていた。
5年振りに帰ってきた愛息子だ、お母さんっぷりを発揮したくなるのもよくわかる。


「外は寒かったろう? 温泉、入ってこんね」
「あ、うん」
「勇利、一緒に入ろう!」
「はえっ?! むむむ無茶言わないでよ! こんな歳にもなって、」
「昔はよく入ったのに……お姉ちゃん、さみしい」
「何年前の話をしてるのさー!」


半分冗談のつもりで誘ったのに、そこまで拒否しなくてもいいじゃないの。
姉さんは寂しいぞ、勇利のぽよんぽよんとしたお腹触って遊びたかったとかそんなことはないぞ、姉心だよ。

何故だか、再び私の胸元をいささか凝視して真っ赤に上気する勇利を見て、いつも通りの笑顔が浮かべられた気がする。


2016.11.02
勇利姉はブラコン。
再会の際、勇利くんの顔に胸を押し付けても気にしない。


− 5 −


prevreturnnext


ALICE+