◎毛玉拾いました

その日は気まぐれにいつもは自転車で駅まで行くところを歩いて行って、ふらりと立ち寄ったコンビニで見つけた新作のスイーツが美味しくて、仕事もサクサク進んで、明日の休みに浮かれつつスキップしそうな勢いで退社して、帰り道にまたコンビニに寄ってチューハイを買って、さぁもうすぐ家に着く!ってところで、

「なんじゃこりゃ。」

泥だらけの毛玉を拾いました。

とりあえずマンションの管理人さんに確認をとってOKをもらい家に連れ帰る。持ってたタオルで包んだがやっぱり服は泥だらけになってしまった。漂白剤で落ちるだろうか…。
しかし泥だらけ過ぎて小型犬ってこと以外犬種すらわからない。いや、犬だよな?猫じゃないと思うんだけど。首輪はしてないようだけど野良だろうか。とりあえず風呂だ風呂だ。
自分も服のまま風呂場に入ってわんこの泥をぬるま湯で落としていく。石鹸使っていいか分かんないけど落ちないからだいぶ薄めて泡立てる。すると何ということでしょう。綺麗なクリーム色をしたポメラニアンが姿を現したではありませんか。
うわーこれ絶対野良じゃないじゃん…。後で近辺で検索してみよ…。ツイートされてないかな。てかこいつ起きないなぁ。息してるのは分かるけど体調悪いんだろうか。あまりにも起きなかったら明日病院連れてってみよう。管理人さんが飼ってるわんちゃんのとこ教えてもらお。
ひとまずポメをバスタオルで包んで脱衣所に置き、自分もささっとシャワーを浴びてしまう。
終わって出てもポメはまだ包まれたまま寝ていた。心なしか表情は柔らかくなった気がするけど、やっぱちょい体温低いかも。
バスタオルのまま抱えてリビングに向かいテレビをつけ、胡座をかいた上にポメを置いてチューハイを開ける。空いてる片手で撫でてみると暖かいのかすり寄ってきた。おぉ、初めてちゃんと動いた。可愛いじゃないか。
チューハイを置いてスマホをとり自分の住所とポメラニアン、と検索する。ヒットしたのは数件で近所にいるポメラニアンの写真が出てきただけだった。しかもそのどの子とも一致しない。もしかしたらこの辺の子じゃないのかもしれない。いやでも首輪してなかったし、もしかしたら捨てられた?まてまて、首輪がすっぽ抜けただけかもしれないし。でも普通に逃げただけであんなに泥だらけになるだろうか。それこそ必死で逃げたのかも、もしかしたら何かに巻き込まれたのかも。

「まぁなにもないけどここではゆっくり休んでね。頑張って飼い主さん探すから。」

返事はないけどまたすり寄ってきた気がした。
そのまま私が眠たくなるまで撫でて、なんかあった時の為に枕元に置いて私もベッドに入った。

「おやすみ。」

明日は元気になってるといいね。


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なんて思ってた私が馬鹿だった。
次の日起きてみればまぁ部屋はめちゃくちゃでその中心にはあのポメが凶悪な顔でこっちを睨んでいるではないか。なにこれ昨日すり寄ってきたポメはどこに行ったの全然可愛くない!
飼い主さんを探すために外に連れ出そうとしてもまず抱っこさせてくれないしおまけに思いっきり噛まれるし!血出たし!
そんなわけでこの土日はポメとの攻防戦で終わってしまった。こんなに凶暴だとは思わなかったよ騙された!
今朝も行ってきますと言っても無視するし!鼻で笑われた気がするし!あいつ絶対人間の言葉理解してるよ。でないとあんな馬鹿にした顔できるわけない。
あぁこのドア開けるのやだなぁ。中どうなってるのかな…。

「ただいまぁ…。」
「あぁ、おかえりなさい。」

静かにドアを閉じる。あれ、部屋間違えたかな?お隣は空き家だから階間違えたかな?いやでも表札あってる。じゃあ幻覚かな?もっかい開けたら消えてるかも。では気をとりなおして、

「ただいま!」
「おかえりなさいなさい。」

………まだ消えてなかった。やばい相当疲れてるよ私。それともいつの間にかヤバイ薬キメちゃった?とりあえず三度目の正直!

「ただ「いつまでやってるんですか。」まじかよ。」

帰ったらイケメンおった。



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