◎チャンス到来


「あれ、もしかして苗字さん?」
「え?あ、福井さん!」

振り向くとにこにこと微笑むいつぞやの福井亮太さんがいた。いや、いつぞやって言っても2日前のことなんだけどね。再開早すぎない?しかも社内でって。

「苗字さんここで働いてたんですね。知らなかったです。」
「福井さんは営業ですか?社内で見てたら覚えてるはずなんですけど…。」
「そうなんですよ。外に出てること多くて。」

そうだったのか。なんたる偶然。こんなことってあるんだなぁ。

「もしかしてお昼ですか?」
「はい。天気悪いし社食でお弁当食べようかなって。」
「よかったらご一緒させてもらってもいいですか?」

友達は仕事が立て込んでいて1人で食べる予定だったからちょうどよかった。最近1人で食べることないからちょっとさみしいなぁと思ってたんだよね。

「唐揚げ定食ですか。ここの唐揚げ美味しいですよねー。」
「僕もここ来るといつもこれ食べちゃうんですよ。苗字さんの弁当は手作りですか?美味しそうですね。」
「今日のは、従兄弟が作ってくれました。自分の分のついでだって。私が作ったらこんなに美味しそうに作れないですよ。」

今日は降谷さんが作ってくれたサンドウィッチのランチボックス。さすが降谷さん。見た目からして美味しそうに見えるし実際ものすごく美味しい。あーほんと、みんなずっと人間のままいてくれたらいいのに。まぁそうなったらいつまで養えるかわかんないけど。

「へぇ…。随分料理が上手な方なんですね。」
「いやほんと、プロ並みの腕持ってますよ。最近弟子入りして教えてもらってるんですけどね、なかなかうまくならないんですよね。」

ちなみに昨日は赤井さんのビーフシチューをポットに入れて持ってきた。これまた美味しいのだ。

「その従兄弟の方々とは一緒に住んでらっしゃるんですか?」
「今ちょっと訳ありで一緒に暮らしてます。家事全部やってくれるんですごく有難いですよー。」
「その人は、男ですか?」

瞬間、辺りの温度が下がった気がした。え、福井さん急にどうしたの…?

「え、えぇまぁ。そうですが、…?」

福井さんはそうですか。と言って下を向き小さく何か呟いた。が、何事もなかったかのように笑った。

「その方のこととっても信用されてるんですね。なら僕にもまだチャンスはあるかな。」
「チャンス?」
「なんでもないです。では僕はそろそろ失礼しますね。良かったらまた一緒にご飯食べませんか?」
「え、えぇ是非。」
「やった!じゃあまた連絡しますね!」














「って出来事があったんだけどどう思う?これは人生初めてのモテ期かな?!」

お迎えの赤井さんに今日あった事を話した。なんかいい感じじゃない?なんて同意を求めてると赤井さんは顔をしかめた。

「俺はあまり勧められないな。」
「なんで?いい人だったじゃん。」
「俺には……、いや何でもない。名前が本当にいいと思うなら俺は応援しよう。」
「そんなーまだそこまでいってないよー!」

浮かれていた私は赤井さんがある方向を睨んでいたことに気づいていなかった。



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