◎ポメの恩返し


「とりあえずお風呂沸かしてあるので入ってきてはどうですか?身体が温まれば考えもまとまるかもしれませんよ?」

とイケメンさんに言われたので久しぶりに湯船に浸かってさっきの出来事を振り返る。

帰ったら褐色金髪のイケメンが台所で私のエプロンして料理してた。

いやいやいやいやまてまてまてまて考えがまとまるもなにも原因はあのイケメンじゃねぇか。なに勝手なこと言ってくれてるんだ。不法侵入か、泥棒か、空き巣か!イケメンだから何しても許されるとか思ってるのか!大概許されるけどな!犯罪はならんよ!

「ってわけで私もついてくので大人しく自首して下さい!」
「貴女がどんな考えをまとめてきたのかは大体想像がつきますがそれ全部間違ってますからね。僕をここへ連れてきたのは貴女じゃないですか。」
「え、うそ私記憶ない間にイケメン連れ込んだの?!」
「間違いではないですが意識はしっかりしてたと思いますよ。」

んんんんん?理解できないんだけど。どゆこと?
私がしっかりしてるときにこの家に連れ帰った。最近何か変わったこと、

「私ポメラニアンしか連れてきてない。」
「それですよ。」
「それ?」
「僕は先日助けていただいたポメラニアンです。」

思考が固まる。この人日本語喋ってるよね?もしかして残念がつくイケメンだったのだろうか。

「ポメの恩返し?」
「いや、あれは鶴が人間になってきてましたが僕は元々人間なので少し違いますね。」

なるほど。分からん。仕事疲れすぎてるのかな。
そーいやポメの声が聞こえない。絶対ガサガサしてたり私帰ってきたら吠えると思ってたんだけど。
お兄さんの前を離れてリビングの方を覗く。あれいない。もしかして本当にお兄さんがあのポメ?
ちらりと見ると目があってニコリと微笑まれた。ありえない。あのポメがこんな風に笑うわけない。笑うならもっと悪役みたいな笑い方でしょ。

「証拠はありますか?」
「そう言われると難しいのですが…。貴女の昨日の下着の色でも当てましょうか。」
「覗きですか!危ないやつだ!おまわりさーん!!」
「はーい呼びました?」
「世も末だ!!」

こんな意味不明なやつがおまわりさんとか日本大丈夫かよ!いや、本当に警察かわかんないじゃん。嘘ついてる可能性もあるもん。

「仮に、仮にあなたがあのポメだとしましょう。
なんで人間が犬になるんです?しかも拾った時あなたは泥だらけでした。なにがあったんですか?」
「それを説明するには時間がかかります。先に夕飯を食べましょう。冷めてはせっかくの料理が勿体無い。」

いつの間にか盛り付けをした料理を持ったイケメンはリビングを指差した。
何これめっちゃ美味しそう。じーっと見ていると鶏肉めっちゃ香ばしく焼いたやつを菜箸でとって目の前に差し出す。匂いにつられて思わず反射で食べてしまったが何これめっちゃ美味い。

「お兄さん早くご飯にしましょう!」
「急がなくても夕飯は逃げませんよ。
それより食材を勝手に使ってしまってすいません。」
「何をおっしゃいますか!私が適当な料理を作るよりお兄さんが作る美味しい料理になる方が食材も本望というものです!」

お兄さんと机に向き合って座る。誰かがいる食事は久しぶりだなぁ。

「いただきます!」
「はい召し上がれ。」

やっぱりどれも美味しかった。この人プロなんじゃない?ってくらい美味しかった。うわー自分の作った料理しばらく食べれないや。

「ごちそうさまでした。とーってもとっても美味しかったです。」
「お粗末様でした。では僕は先に片付けしてきますね。」
「片付けは私がしますよ。だからさっきの続きをしましょう。お兄さんはどうしてあそこで倒れてたんですか?」
「どうしたんですか?さっきまであんなに疑ってたのにやけにあっさりしてますね。」
「あんな美味しい料理を作る人に悪い人はいません。」

お兄さん呆れたような馬鹿にしたような目でため息をついた。
今の顔私を見るポメにそっくり。やっぱ本人だから?

「では話しましょう。全てノンフィクションですよ。」

僕の所属は警察庁警備局警備企画課、所謂公安警察というものに属しており、とある組織に潜入調査をしていました。まぁ紆余曲折ありながらも仲間と共に組織を壊滅まで追いやりました。しかし組織も一筋縄では終わらず、ボスが捕まる前に起爆スイッチを押し、アジトは大爆発を起こしました。ボスを追い詰めていていた僕と後2人はその爆発に巻き込まれ、気がついたらここにいて、しかも犬になっていたという訳です。

「どうです?」
「考えたストーリーとしては出来すぎてますね。じゃあ拾った時に真っ黒だったのは泥じゃなくて爆発の煤だったのか。
でもなんで犬になってたんですか?」
「それは僕にも分かりませんがもしかしたら組織にそういった薬を飲まされたのかもしれません。」
「そんな薬ありえるんですか。」
「高校生が小学一年くらいまで身体が縮んでしまう薬を作るような組織ですからね。あり得なくはないでしょう。」

まじかよ。そんなあり得ないことがこの世で起こってるのか。世界はまだまだ不思議だらけなんだなぁ…。科学の力って怖い。

「私の知らない世界の鱗片を覗いてしまった…。」
「それがそうでもないんですよ。重要なのはここからです。どうやらここは僕がいた世界とは違うみたいです。」

世界が違う?言い方的には住む世界が違うってレベルの違うではなさそう。じゃあ何?小説のような違う世界の人間がトリップしてくる、みたいなこと?それこそあり得ない。

「貴女はベルツリータワーってご存知ですか?鈴木財閥が総力をあげて完成させた観光名所で高さは635メートルあります。」
「いえ、聞いたことないです。私が知らないだけかもしれないけど。」
「なら検索をかけていただけますか?」

スマホにポチポチ入れて見るがそれらしきものはヒットせず。代わりにヒットするのはスカイツリーばかり。どゆこと?

「そう、貴女がいない間にテレビで情報を集めたところ僕がいた世界とはとても似ていますが建物の名前や、住所が少しずつ違いました。」

まさか本当にそんなことありえるのだろうか。でもこの人が嘘言ってるわけではなさそうだし…。

「じゃあ貴方はどうやってこっちにきたんですか?世界をまたぐってそれこそ魔法でもないと、」
「それも分からないんです。だから帰れるまで僕をここに置いてもらえないでしょうか?
今の僕に戸籍なんてないし現在地すら地名を見ても分からない。しかもこの近辺で僕が倒れていたなら帰れるのもここなのではないでしょうか。
家事全般は得意です。働く事は出来ませんがそれ以外は役に立ってみせます。どうですか?」

この人自分が頼んでる側なのになんでこうも自信たっぷりなんだろ…。
まぁ拾ったの私だし、最後まで飼わないとって言うしね。1人くらいなら……、色々切り詰めないと。それに管理人さんになんて説明しよう。

「分かりました。拾ってきたんですから最後まで責任を持ってお世話しますよ。
私は苗字名前。貴方は?」
「僕は安室…、いや降谷零です。」

ん?なんで自分の名前言い淀んだんだろ。潜入捜査とか言ってたしその辺色々あるのかもしれない。

「今から貴方は私の家族です。兄です。敬語も無しにしましょう。」
「恋人でもいいのでは?」
「私が恋人とか街歩いたら視線で殺される。それにその胡散臭い笑顔も無しにしましょう。」

きょとりと首をかしげる。うわある程度の大人がして可愛いとか!イケメンはほんとずるい。この人と恋人とか演技でもできないわ…。

「胡散臭かったですか?女性には受けがいいんですが。」
「ポメのときそんな性格じゃなかったでしょ。
潜入捜査とか言ってたから貴方にもいろんな事情があるんでしょうけどここには貴方を知る人は誰もいないんだから素のままでいればいいんじゃないですか?」

降谷さんは驚いた顔をしたが初めてちゃんと笑った気がした。

「あぁ、そうだな。ありがとう。これからよろしく、名前。」
「よろしくお願いします零お兄ちゃん。毎日美味しいごはん期待してます。」

その日は降谷さんにはお客さん用の布団を出して寝てもらった。はずだった。

「うぁぁ。ほんとだったんだ。」
『なんでまた犬になってるんだ!!』
「何言ってるか分かんないけどこの方がお金かからなくていいよ。』

あぁでも毎日美味しいごはん食べたかったな。



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