◎初めてのお買い物


ドーベルマンさんを拾った次の日、残念ながら人間にはならなかった為キーボードを使って名前を赤井秀一さんと教えてもらった。そのかわり、

「犬の姿とは無様だな赤井秀一!!」

人間に戻った降谷さんは絶好調だ。自分も犬だったじゃん。
犬の時から仲悪そうだなぁと思ってたけど間違ってなかったみたい。
赤井さんが来たことでもう一人の仲間、江戸川コナンさんもこっちに来ている可能性が高くなった為、私が休みなこともあり少し遠くまで散歩に出かけることにした。降谷さんはあんなに抵抗したのに赤井さんはすんなり首輪とリードを受け入れてくれた。

「降谷さんとは大違いです。」
「普通は抵抗するだろ!」
『郷に入っては郷に従え、というものだ。』

降谷さんにリード持たせたら大変なことになるのは間違いないので私が持つ。赤井さんには悪いけど私は大型犬を飼うのが夢だったのでちょっと嬉しい。

「何鼻歌なんか歌ってるんだ。」
「いや、二人が大変な状況なのに申し訳ないんだけどちょっと楽しいなぁって。こっち出てきて友達と遊ぶ事とかほとんどなかったから。すいません。」

さぁ行きましょう、と玄関を開けるとリードを持った手にグリッと赤井さんが頭を押し付けた。慰めてくれてる?そのまま頭を撫でるとパタリと尻尾を振った。なんだか笑ってくれた気がする。

「ありがとうございます、赤井さん。」
「いちゃいちゃしてないでさっさと行くぞ。」

ついでに降谷さんや赤井さんの日用品も買おうと少し遠くのショッピングモールまで歩く。降谷さんは犬から人間になった時、作戦時に着ていた服のままだったみたいで少し煤けていた。洗濯はしたみたいだけど一応他の人の分も人間になった時の為買っておくに越したことはないだろう。
道すがらこの世界のことを話したり降谷さん達の世界のこと、ここに来た経緯などを話しながら目は周りをキョロキョロ。降谷さんはずっと前を見てる気がするけど私より色んな物が見えていた。なぜ。公安に必要なスキルなのかな。赤井さんも気になる物があったらリードを引っ張ったり小さく吠えたりなんかして教えてくれる。実は赤井さんもFBIらしい。二人ともハイスペックすぎる。しかし今探してるコナンさんはもっと凄いらしい。降谷さんが褒めちぎる。この毒舌な降谷さんが。いったいどんな人なんだろ。

「じゃあ降谷さん、みんなの分の服とか必要なものの調達お願いしますね。私達は隣の公園で待ってます。その財布勝手に使ってもらって大丈夫です。」
「すまない。さっさと買ってくる。赤井、名前を頼むぞ。」
『任せておけ。』

人混みに消えていった降谷さんを見送ってから私達は公園へ行く。ちなみに降谷さんにはキャップ帽を被ってもらっている。私のやつだが可愛いデザインではないのでむしろ私より似合っている。むかつく。でもあのイケメン顔を少しでも隠さないと一人で歩いてたら逆ナンホイホイになっちゃうと思うから。

「降谷さん大丈夫かなぁ。」
『彼なら大丈夫だ。何かあっても上手くかわすはずだ。』
「女子は怖いからなぁ。」

私達は公園内を捜索。といっても私にはコナンさんがどんな人か分からないし探しようがないんだけど。赤井さんはしきりに鼻をふんふんいわしてる。

「赤井さん匂いで分かるんですか。」
『分からないが一度匂えばボウヤだと分かるはずだ。』
「なんか確信なさそうだな…。」

それでも1時間は歩きまわったよ。赤井さんは平気そうだけど私はもうくたくたです。デスクワークばっかの社会人舐めんな。

『大丈夫か?』
「こんなに歩いたの久しぶりだ…。明日筋肉痛だ絶対。」

ベンチに座り、持ってきていたお茶を飲んで赤井さんにも水を渡す。あー美味し。日差しもあったかくて眠たくなってくる。

『おい名前、こんなとこで寝るな。』
「降谷さんまだかなぁ…。」


ーーーーーーーーーー


揺り動かされる感覚。知らない声が私の名前を呼んでる。

「……だぁれ?」
「赤井秀一だ。」

あかい、しゅういち。赤い、しゅう一。赤井秀一。

「赤井さん?!」

目の前には黒髪で緑の瞳の降谷さんとは違った少し尖って危ない感じのイケメンが立っていた。犬の時からイケメンだったけどやっぱイケメンだった。

「この姿では初めましてだな。赤井秀一だ。」
「初めまして、改めて苗字名前です。いつの間に戻ったんですか?あ!人に見られてません?!」

また変わるとこ見れなかった…、じゃなくてもし誰かに見られでもしたら大変だ。びっくり人間としてテレビに売られてしまう。もしくは降谷さん達が追っていたような組織の研究機関とか!

「大丈夫だ。異変を感じてすぐにベンチの裏に隠れた。」
「よかった…。元に戻るのってそんなに突然来るもんなんですね。2人が戻るって初めてですね。ハッ!赤井さんが戻ったことで降谷さんが犬になってる可能性があるんじゃ?!」
「分からんが可能性はなくは無い。あれからもう1時間経った。少し遅いしちょうどいいから様子を見に行こう。


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困った。大変困った。いや、良くあることではあるんだが、今日はいつにも増してしつこい。

「お兄さん1人で買い物ですかぁ?」
「よかったらぁ私たちとお茶しませんかぁ?」
「お兄さんめっちゃイケメンですねぇ!」

断ってるのに話を聞いてくれない。笑顔が引きつってくるのが分かる。そろそろ"安室透"でもキレるぞ。

「ツレを待たせてますので…。」
「じゃあそのお友達?も一緒にいきましょうよぉ。」
「いや、友人ではなく…!!!!!!」

その時目に入ったのは反対側の通路を名前と並んで歩く赤井秀一(人間)の姿。しかも赤井はこちらに気づいたようで笑いを堪えながら名前の肩を叩いて指差す。こちらを向いた名前の白けた眼。そして手を振って口パクで、「先に帰ってます。ごゆっくり。」はぁぁ?!!状況見れば分かるだろう!助けろよ!赤井も笑うな!!………巻きこんでやる。

「あ、ほらあそこの、」
「やっぱめっちゃイケメンじゃないですかぁ!あの人も誘って行きましょうよぉ!」

どうやら隣は目に入ってないらしい。名前の目は更にチベットスナギツネのようになり赤井にも手を振って踵を返そうとする、が赤井に肩を掴まれて止められる。おい、いつの間にそんな仲良くなったんだ。こっちに来いと目で訴えれば赤井が名前の首根っこを掴んだ引きずってこっちに来た。

「何をやっているんだ降谷くん。」
「それはこちらのセリフですよ赤井秀一。」

呆れた目で見る赤井を睨む。俺だって好きでなったんじゃない。お前だって名前と何楽しそうに買い物楽しんでるんだ。

「お兄さんも良かったら私とお茶しませんかぁ?」
「悪いがこちらの彼女とデートでね。彼だけ連れてってやってくれ。」
「赤井貴様。」
「えーそんなちんちくりんなんかより私たちと遊びましょうよぉ。」
「そーそー!おこちゃまはさっさと家に帰りなよ!」
「あんたじゃ釣り合い取れてないの分かんないの?帰って鏡見なよ!」

名前の顔は見えないが機嫌が悪くなっていくのが分かる。さっさと帰ろうと赤井と目を合わせる。

「分かりましたちんちくりんはさっさと退散します2人とも体調管理はしっかりと注意してくださいねじゃっ。」

そう一息で言い切ると掴んでいた赤井の手を叩いて人混みに向かって歩き出そうとしてあ、そうだと言って振り返る。

「彼ら私の犬なのでちゃんと家には返してくださいね。」

いい笑顔でそう言って再び歩き出した。あーあーあーあー。

「はぁ?なんなのあいつ。」
「ほっときゃいいじゃん。邪魔者は消えたしお兄さんたち行きましょ!」

ゲラゲラと下品な笑い方をしながら俺を引っ張ってる手を振り払う。

「悪いけど、君達とは遊べない。」
「大事な大事な飼い主様が待ってるからな。」

ぽかんとしている女達を置いて名前を追いかける。まだそんな遠くに行ってないだろうと小走りに探すとすぐ近くを歩いていた。名前を挟むように横に並ぶ。

「遊んでこなかったんですか。」

こっちを見ずに不機嫌そうに言う。顔はぶすくれていた。

「飼い主様が寂しそうだったからな。」
「犬としては寂しそうな飼い主は慰めてやらんとだろう?」
「………余計なお世話ですよ。」

と言いつつも嬉しそうに笑う。そして俺と赤井の腕を掴んで引っ張った。

「さぁ帰りましょう、私達の家に!」

ーーーーーーーーーー


家の前まで来ると玄関の前に何かが落ちているのが見てた。ゴミか飛んできたのか?しかしそれは近くに連れて違うものに見えてきた。真っ白な子猫が倒れている。

「コナン君!!」
「ボウヤ!!」

あれはコナン君だ。



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