◎最後の1匹


「とりあえず、中に入りましょう。」

こんなに焦ってる赤井さんと降谷さん初めて見た。それほどまでにこのコナンさんが大事な仲間なんだろな。
コナンさんの身体は冷え切っているようなので降谷さんと一緒にお風呂に入ってもらう。

「赤井さんはお留守番よろしくお願いします。私はスーパーに行って必要な物買ってきます。」
「俺も一緒に行った方がいいんじゃないか?」
「もしコナンさんが目を覚ました時に一人でも知ってる人が多い方がいいでしょうし、すぐ帰ってきます。もし落ち着かないようでしたら晩ごはんの準備しててくれると嬉しいです。」
「分かった。外はもう暗い。気をつけて行ってこい。」

そう言ってすまなさそうに笑い、私の頭をぽんっと撫でた。私は犬じゃないですよ。行ってきますと玄関を出てエレベーターを使わず階段を駆け下りる。待つ時間も惜しい。運動不足の全力疾走は大したことないけどそれでも走る。降谷さん拾った時よりひどかった。多分おんなじくらいに来てずっとこの辺をさまやってたんだ。不安で食べるものもないし、猫になってるし、子猫だったからカラスとかに襲われそうになったかもしれない。外傷とかまでは泥だらけで分かんなかったから降谷さんに聞かないと。

「絶対、助ける!」

ーーーーーーーーーー


「ただいま!」
「おかえり……ってお前が死にかけてるぞ。」

それに答える余力もなく降谷さんの腕からコナンさんをぶん取る。リビングに座って買って来た猫用ミルクを皿に出してガーゼに染み込ませる。

「はい、ごめんねー。」

口に手を突っ込んで無理やり開けさせてガーゼを突っ込む。少しすると喉が動いて飲んでいるのが分かる。よかった。それを繰り返しつつも身体を見ると目立った外傷はなく、体温も上がっているのでただの疲労だったみたいだ。

「よかった。これならすぐ目を覚ましそうだね。」
「あぁ、骨なんかも異常は見当たらなかったし相当疲れたんだろう。ゆっくり寝かせてあげよう。」
「そうですねって降谷さん服着て!!!!」

目の前にしゃがんでコナンさんを撫でている降谷さんは上裸だった。しかもいい身体してる。目のやり場に困る!!もっと細いと思ってたのに!!

「そんな余裕なかったんだ。なんだお前もしかして、」
「それ以上行ったら追い出しますからね!!早く服着てきて!」

コナンさんを赤井さんにあずけ、にやにやしている降谷さんを廊下に追い出す。言いたいことは分かってるよ!ほっといて!

「名前。」
「赤井さんも追い出されたいですか。」
「いや、俺たちを置いてるようだから恋人はいないんだろうとは思ってたが、」
「もーほっといてください!どーせ生まれてこの方いたことありませんよーだ!」

お前らイケメンとは違うんだ!


ーーーーーーーーーー


目が覚めると知らない女の人が目の前で寝ていた。よだれ垂れてる…。組織の残党かと思ったけど気が抜けた。
突然後ろに衝撃を受けて身構える。振り向くとポメラニアンとドーベルマンが、

「赤井さんと、安室さん?」

いやいやまさかそんなわけ。でも俺も猫になってたし、二人とも組織に捕まって同じ薬を飲まされたんだろうか。飛びついてきたポメラニアンを撫でながら考えているとポメラニアンがするりと腕から抜けて女の人の方に行き、腹の上で思いっきり、

「飛んだ?!」
『名前はやく起きろ!』
「ぐぁっ!!!」

いくらポメラニアンが軽いといっても寝てる時にあの衝撃はそりゃ声もおっさんになる。

「降谷さん何するんですか!」
『お前が起きないのが悪いんだ。』
「あれ、コナンさん起きて、る……子供だったのか。」

この人は俺がコナンだと知っていた。やはり組織の人間か?彼女はにこりと笑って自己紹介を始めた。

「初めまして、江戸川コナン、くん。私は苗字名前。君のことは降谷さんや赤井さんから聞いてるよ。あの人たちすごいすごい言ってたから大人だと思ってたらこんなに小さな子だったなんて思わなかったよ。」
「安室……降谷さんと赤井さんを知ってるの?!」
「うん、君の横にいるよ。」

俺の両端にいる2匹を指差す。やっぱりそうだったのか、と言いたいところだけど確証がない。

「お姉さんはそれを証明できる?」
「そう言われると難しいね…。降谷さんからは君たちが悪い組織を壊滅させた時に爆発に巻き込まれて気がついたら犬になってたって聞いたよ。」

話は端折りまくってるけどあってる。でもこれは組織の残党なら知っててもおかしくない。なら、

「お姉さんは降谷零、を知ってるの?安室透じゃなくて?」
「安室透?そーいや赤井さんも降谷さんのこと安室って言いかけてた。もしかして私嘘の名前教えられた?降谷さんひどい!」
『抱きつくな!そっちが本当の名前だよ!!』

お姉さんがポメラニアンをがっしり捕まえて毛並みに顔を埋めてグリグリすると抗議するかのように吠えまくる。

「降谷さん曰くね、ここって君がいた世界じゃないらしいんだよ。似てるけど違う世界。だからここでは素のままいたらいいんじゃない?って言ったんだけどね。そっか、そりゃそうだよね…。」
『名前、俺は嘘はついてないぞ。』
「赤井さんが慰めてくれるー。嘘つき降谷さんとは大違いだ。」
『図に乗るなよ赤井秀一ぃぃぃ!!』

なんか、もっとシリアスな感じを予想してたんだけど。一気に気が抜けた。この人が嘘つけるようには見えないし、この感じ、紛れもなく安室さんと赤井さんだ。

「疑った悪かった。名前さんの話信じるよ。」
「あれ、口調変わってない?」
「これが俺の素、なんだよ。」
「可愛いショタはどこにいったの!!」
「よろしく、名前姉ちゃん?」



しおりを挟む