◎空白

気づいたら真っ白な部屋にいた。病室、かな。
前にはベッドが3つ。眠っているのは、

『降谷さんに、赤井さん、コナンくん…?』

思わずかけより頬に手を当てようとすると、すり抜けた?これは、夢なのか。
やっと状況を理解した。よく見ればいろいろおかしいじゃん。突然こんなとこ立ってるわけないし、さっきみんなにおやすみって言ってベッドに入ったじゃん。実は3人が事件に巻き込まれて病院に搬送されて、私がその記憶を忘れてる、とかじゃない、よね?実は私その時に死んじゃったとかじゃないよね?
ちょっと背筋が寒くなったところでドアがノックされた。

『はーい、じゃない!』

聞こえたどうするの!と思ったけど入って来た人たちは私の存在などないかのようにふるまっている。見えてないのかな?やっぱり私幽霊なの?!
入って来たのは多分私より少し上の男の人とベテランっぽい女の人、そしてコナンくんと同じくらいの女の子。どういう関係?

「まだ、目を覚まさないわね…。」
「外傷はほぼ治り、脳波の異常も見当たらない。本当にただ眠っているだけ、というのが医師の見解でした。」
「本当にそうみたいね。一昨日来た時より表情が少しだけ和らいでるわ。幸せな夢でも見てるんじゃない?」

女の子はコナンくんの側に行き、傍らに眼鏡を置いた。

「ほら、博士が直してくれたわよ。瓦礫の中から探し出したはいいけどぐちゃぐちゃで直すの苦労したんだから。感謝しなさい。」
「ほんと、彼等が大きな怪我なくあの瓦礫の中から見つけ出されただけでも奇跡よ。アジトが爆発したときもう駄目だと思ったわ。」
「まぁ、彼等は殺しても死なないタフさを持ってますからね…。心配はしましたけど、生きているとは思ってましたよ。」

降谷さん達、そんなに大変だったんだ…。死にかけるって私には想像もつかない。どうりで私が拾った時みんなボロボロだったわけだ。…………ん?

『え、ちょっと待って。どういうこと?』

これは私の夢じゃないの?じゃあこの人達が言っている事は事実じゃない、私の夢の話?でもあまりに辻褄が合いすぎる。なら私が夢の中で降谷さん達の世界にトリップしたってこと?それなら降谷さん達が眠っている間私の世界に来たのも頷ける。

『じゃあ、帰る方法ってこっちで目覚めるしかないってこと?』

彼らにとって私と過ごした時間は夢物語でしかないってことじゃないか。そう思うとすこし寂しいな…。

「まぁ今まで頑張ってきた分しっかり休んでもらって目覚めたらまたバリバリ働いてもらいましょう。仕事は溜まってますからね。」
「風見さん、あなたちゃんと寝てないんじゃない?目の下にクマ出来てるわよ。」
「ははっ仕方ないさ。あの人の代わりはいくら探したっていないからね。少し負担を減らすだけでもこの様さ。」
「ならいっそう、早く起きてもらわないと困るわね。」

「名前!」
「え……?」

あれ、ベッドの上だ。私の部屋だ。やっぱりさっきのは夢だったんだ。

「名前、怖い夢でも見たのか?それともどっか痛いか?苦しいか?」

起き上がると目の前には降谷さん。あれ?人間になってる。左右にはコナンくんと赤井さんが

「どうしたんですか?まだ夜中ですよね?」
「どうしたって………お前、泣いてるじゃないか。」

頬を触ってみるとビショビショになっていた。全然気づかなかったけど気づいたら止まらなくなった。降谷さんが慌ててるのが分かるけど自分でもどうすればいいか分からなくてうつむく。コナンくんが下から覗き込んでくるけど気にする余裕がなかった。なんでだろ、なんで止まんないんだろ。

「落ち着け。」

ふわりと暖かい物に包まれる。目の前には白いTシャツ。降谷さんが前に着てたやつだ。降谷さんが私を抱きしめてる。普段なら慌てるところだけど今は平常でいられなくてぎゅっと抱きつき返す。

「お前子供か。怖い夢見て泣くとか。」
「そんなんじゃ、ない、です。」
「すごい鼻声。」

ハハッと頭の上で笑う声がする。悔しくてTシャツで鼻水を拭いてやった。どうせ洗うのは私なんだから。汚いなんて言いながら背中を叩いてくれる。あぁ、こんなんされるのいつぶりだろう。降谷さんが優しいのなんか怖いな。後で見返り求められたらどうしよ。

「きっと、」
「なんだ?」
「きっとこれは神様がみんなお疲れ様、よく頑張ったねってくれた休暇なんだよ。だから、だからね、」

もう少し、みんなと一緒にいたいなぁ。



しおりを挟む