◎第弐話


窓の隙間から射し込む朝日の眩しさに私は目を覚ました。
起き上がる為に手を付こうとして縛られていることに気が付いた。
そして全て思い出してしまった。

「嗚呼、そっか。
昨日の出来事は夢じゃないんだ…。」

夢であればどんなに良かったか。
覚醒しない頭でぼーっと考えていると襖が開き、昨日の茶髪の人が現れた。

「やぁ、起きてたの?
じゃあ話、聞かせてもらおうかな。」

付いてきて、と笑顔で踵を返した。
顔は笑ってるけど笑っていない。
有無を言わせない笑み。
私は仕方なく立ち上がりその人に付いて行った。


広間に入ると昨日の人達と他にも数人が座っていた。
女の子もいる。
当然だろうが視線には殺気が隠っている。

「お前、名は?」
「苗字。」

ここで下の名前を言えば女だとバレてしまうかもしれない。
幸いまだバレていない様だからこのまま騙されていてもらおう。
私は声を低くして答えた。

「なら苗字、お前は昨日あそこで何をしていた?
洗いざらい話せ。嘘を言ったって自分の為にならねぇぞ。」

黒髪を高い所で結んだ人が冷めた声で言った。

「…………どうせ何を言ったって殺すつもりなんでしょう?
なら言う必要は無い。」

まぁ特に何もしてないのだけど。
あれは正当防衛だ。

突然さっきの茶髪の人が笑い出した。
流石に私もこれには驚いた。
別に面白い事を言ったつもりはないのだけど…。

「なんなんですか?」
「いやーごめんごめん。
自分の状況分かっててそんなに事言えるなんて大した度胸だね。
…………殺しちゃうよ?」

その言葉にぞくっとする。
久しぶりに本当の恐怖を感じた。

「総司!!」
「やだなぁ、冗談ですよ。
そんな怖い顔で睨まないでくださいよ土方さん。」

本当に意味の分からない人だな、この人。
まぁ私もすぐに死ぬんだし、最後にこのもやもやだけ晴らしておこう。

「あの、質問いいですか?」
「受け付けねぇ。」

一刀両断されたが無視して続けた。

「貴方達は何者ですか?
そして昨日のあれは貴方達の仲間の様でしたがあれは、」

鬼ですか?
そう言った瞬間空気が凍った。

「お前、何者だ…。」

黒髪の人が刀に手を掛けながら言った。

「答えてください。
どうせ死ぬんです。教えてくれたっていいでしょう?」

すると後ろの背の高い赤毛の人が信じられないとでも言いたげに睨んできた。

「お前、新選組を知らねぇのか?」

新選組?
あぁ、あの人斬り集団とか言われてる人達か。

「聞いたことならありますが…。」
「まさかこの隊服見てもわかんねぇやつがまだいるなんて思わなかったぜ…。」

短髪で鉢巻きを巻いた人が腕を組んで感心したように頷いた。
その横で長髪の人も同意している。

「じゃあ俺からも質問だ。
何故お前は鬼を知っている?」

首に襟巻き?をした人が鋭い目線を私に向ける。
まぁ死ぬんだし言ってもいいよね。

「私は鬼を知っていますから。」
「なんだとっ?!」

どうやら鬼という存在は知っているらしい。
女の子はびくっと肩を揺らした。
へぇ、あの子も………。

「…………証拠は?」
「証拠なんてありませんよ。
俺は何も所持していないことは確認したでしょう?」

黒髪の人は舌打ちをした。

「………お前も風間の仲間か?」
「風間?鬼の一族の事ですか?
いいえ、違います。」

私は首を振る。
一度会った事はあるが私の家には関係の無い人物だ。

「ならお前を殺す理由は無くなった。
帰ってくれて構わない。」

黒髪の人は溜め息を吐きながら刀を収めた。

「何故ですか?
見てはいけないものを見てしまったんでしょう?」
「あぁ、その事は他言無用だ。
だが唯の一般人のお前に構っている暇は今無い。」

………唯の一般人、ねぇ。


私はこうして屯所を追い出された。


私はこれから何処に行けばいいのか。
分からないまま私はとりあえず町の方へ歩き出した。



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