初めましてではないけれど

あれ、私携帯どっかに置き忘れてる。そう思ってポケットやら鞄やらを漁った。
どこで忘れたのか、職場か、はたまた先程寄ったコンビニのレジに置いたまま忘れたか。
携帯持ちながらレジに行って、台に一旦置いちゃう癖、あれ治らないんだよな。
それで忘れてしまうのをもう何回もやった。

「ついてないなあ」

ま、こういう時にコレが役に立つ。
鞄の内側にあるポケットからもう一つの携帯を取り出す。俗に言う二台持ち。
別に携帯なんて一つでいいんだけど、以前機種を変えた時に、変える前の携帯をそのまま使えるようにしておけるという、使った分だけお金がかかり、持っているだけならタダって、誰得みたいなサービスをやっていて、まあ、タダならやっとこうかな?的なノリでそこから二台持ち。ぜんっぜん使うタイミングは無い。こうやってメインの携帯が無くなってしまった時などにちょっと使うくらい。

そして私は例の如く、サブからメインへ電話を掛けてみる。誰か出てくれたらいい。出なけりゃアプリで探せるから。

「……誰か出るかな、」

(……もしもし)

おっしゃラッキー!若そうな女の子の声が電話の向こうから聞こえとりあえず貴方は誰ですかと聞いてみる。私その携帯の持ち主なんですけど、と事情を話せば電話の向こうの人物は先程寄ったばかりのコンビニのお姉さんという事が判明。
やっぱ置き忘れてんじゃん私。これで何回目だよ。

「よく出てくれました〜!助かりました!」

(いえ……、着信画面に"持ち主"と出たらそりゃ出たくもなります)


ああ、ですよね。
若干呆れ気味のお姉さんに今から取りに行きますと伝え電話を切る。
メイン携帯にサブ携帯の番号を登録した際名前を"持ち主"と登録しておけば、こういう時やっぱ助かると天才的な発想をした自分を褒めた。

さて、ササッと携帯を取りに戻って、早く家に帰って、先程買ったビールを飲もうではないか。明日は土曜日。次の日が仕事の時はお酒は控えているので金曜の晩は眠くなるまでビールを飲みながら撮り溜めているドラマやアニメをみて過ごすのがルーティーン。
そしてお昼まで時間を気にせず眠るのだ。休みって最高だ。

そう考えながらコンビニへ戻り無事携帯を受け取って、ああそういえばナルトも見なきゃな、なんて家路へと急いだ。


マンション下のオートロックを開け、私が帰ってくる時間いつも一階にいないエレベーターを呼ぶ。
その待ち時間で既にコンビニの袋からビールを取り出し、口を開け飲み始める。おっさんかと言われればそうかもしれない。だけど別に良いのだ。一人暮らしだし、見られても特に困らない。

降りてきたエレベーターに乗り込んでから自分の階層へのボタンを押し、そこでもまたビールを一口。
ぷは、と景気の良い息を漏らし、扉が開いたエレベーターから降りて自分の部屋へと向かった。


「ただいま」

返事が無いのは当たり前であり承知もしているが何故か言ってしまうこの挨拶。
寂しいとは特に思わない。
玄関を開けるとDKの部分。つまりはダイニングキッチン。トイレとお風呂もこの空間。もちろん別々だ。そして奥に一枚扉を隔ててから一部屋あるという1DK仕様のこの部屋はなかなか良い。

玄関で靴を脱ぎ、先程口を開けた飲みかけのビールをキッチン台へ、もう二本コンビニの袋に入ったビールを冷蔵庫へ入れる。
その際に冷蔵庫内を吟味し今夜の晩御飯のメニューを決める。
今日は簡単にオムライスでいいな。米は冷凍してあったやつを使おう。

そう思いながら冷蔵庫の扉を閉め、部屋着に着替えるべく奥の部屋へ進もうと扉のノブに手を掛けた。
その時だった。


「……誰かいるのか」
「え?」

突然部屋の中から聞こえた声に、思わず聞き返す様な声が出る。
誰かいるのかって、逆にお前は誰なんだ。ここは私の部屋……だよね?え?そうだよね?

いつもの日常、いつもの金曜日だと思っていたのに、目の前で起こっている非現実的な出来事に私は完全に動揺してしまって、扉のノブに掛かった手は凍ったように動かない。

恐る恐る、といった感じで周りを見渡し、本当に自分の家なのかを確認してみる。が、やはり私の家なのだ。
というか鍵開けて入ったし間違いないよね。

空き巣なのか、はたまた強盗なのかと考えるが、ウチには金目のものなんて何も無い。
もう警察にも言わないからとりあえず出て行って欲しい、穏便にと切に願う。

それでも凶暴な強盗だったりしたら怖いと思い、ノブには手を掛けたまま、音を立て無いよう近くにあったオタマを手に取り構えてみる。


「誰だ、そこにいるんだろう。出てこい」


く、なんなんだこの生意気な言い草は。私の部屋なのに、早くオムライス作ってビール飲んでゴロゴロしたいのにい!
私のこれからの至福を邪魔してくれるな!と勢いよく心の中で毒づくが扉はそお〜〜っと開ける。
根性ないな私。いや慎重と言ってくれ。

「……うわ!」

オタマ取られた!
そっと開けた扉から向こうを見る勇気が無く、とりあえずオタマで威嚇と見せかけて部屋の電気のスイッチを押してやろうと隙間からオタマのみを出した途端凄い勢いで引きぬかれた。


……こ、こええええええええ!

もうホラーだよ!
恐怖がこみ上げてきて思わず扉から離れる。
もう警察呼ぼう!とポケットに入っていた携帯を取り出しながら玄関の方へ忍び足で向かおうとしたが、
先程少しだけ開いた扉からスススと砂が出てきた。砂……、砂?

「砂??!!!」

え?!と驚きのあまりふわふわと浮いている砂を凝視していると急にスピードを上げズイッと私の足を捕らえた。
ひいい!なんなんだあああ!これじゃまるで!まるでアイツじゃんかよォォオオオ!

そのまま片足を思い切り引っ張られバランスを崩した私は尻餅をついた。
なにこれ泣きそう。
そのままずるずると奥の部屋へ引き摺られていく。普段なら世界で一番好きな空間、私の部屋であるはずなのに今は絶対に足を踏み入れたくない、何がいるのか分からない、真っ暗な部屋に一歩でも踏み入れれば、待っているのは死というような感じだ。

絶対部屋に入ってたまるか!と身じろぎフローリングの木目に爪を引っ掛け微かな抵抗を試みるが、足を掴む砂の圧迫が強くなった為手が床から離れてしまう。

「つ……う、」

引っ張られ、少し開いた扉にゆっくりだが身体がぶつかり少しの痛みが走る。
ぶつかった事で開け放たれた扉からとうとう部屋へと入る事になった。

部屋も暗いしうつ伏せの状態の為相手の顔は見えないが、砂を操る様な馬鹿げた奴は私は一人しか知らない。
にわかに信じがたいがこれは某漫画の……、赤髪でつるんとした額にある愛の字がチャームポイントのアイツしか知らない。
もう一度言うがにわかに信じがたい。夢であると思いたいが足にある圧迫感は本物なのだ。

そこでもう一つの不安要素が浮かぶ。
もし、もしだ。本当に何かの間違いで今私の足を掴む砂を操っているのがアイツなら、一体いつ頃の彼なのか。低く落ち着いた喋り方というところからもう暗殺を何回も経験した後なんだろう、でもナルトに出会って丸くなった後も喋り方は大して変わっていなかったと思うから……。
丸くなる前の暴君か、風影に向かって邁進する良い子ちゃんか。
どっちかということか。できれば後者であってもらいたい。


「っ!!……ぐえ」


足にあった圧迫感の元がズイィという音と共に全身に巻きついて、内臓が押しつぶされる感覚に襲われる。
全身をこんなに圧迫された事が人生で一度もない為なんとも間抜けな声が出てしまった。

「う、く、くるしっ……」

顔以外を全て砂で包まれそのまま宙を浮き、操っている奴が居るであろう方向へふよふよ進みながらクルリと反転。


「お前は何者だ……。まあ、聞く必要もないか」


暗がりの中キッチンの方から漏れる明かりでぼんやりとソイツの表情が微かだが見てとれる。

ああ、この感じは……。


「何者だろうと、お前は今ここで死ぬ」


口角をこれでもかと上げ、悪魔の様な笑みを浮かべた目の前の少年に、神様こんな暴君を私に差し出して一体どうしろと言うんだ、なんて信じてもいない神様に向かって内心ゴチた。