〜御礼小説〜御礼に因んで。不良少年(暗め)


「ありがとう。」

そう言った彼の上半身は火傷に覆われていた。

なんで。なんでお前は!
…俺なんかに感謝なんかするんだ。

俺はお前なんかに感謝される人間なんかじゃねぇ。クズだ。そう。とことん俺は駄目な人間なんだ。

人から物を盗んだことだってあった。売春だって、女を強姦したことだって。クスリだって売って。それなのに目の前の男は、涙を流して御礼をし続ける。

クズな俺に。クソみたいな俺に。

「意味、わかんねぇよ。」

皆俺を見放すくせに。人間以下だって蔑むくせに。普通じゃないって。クズだって…

「ありがとう、」

「なんで、御礼なんか言うんだよ……!」

「ありがとう…、」

「やめろよ!俺はなんもしてねぇ!!クズだ!!!クズなんだよ!!!」

「ありが、と……」

やめろ!俺に感謝なんか言うんじゃねぇ!やめろ!やめてくれ!

俺が辞めさせようと肩に触れても、目の前の彼は火傷と滲み出る血液のせいで表情の読めない顔を動かし、よく腫れた唇から血を流しながら口を動かし、感謝を述べる。触れた肩は熱く、血が垂れ、俺は涙を流しながら叫んだ。

「もういうなよ…!もうなんもいうな!!!俺なんかに!その火傷は、俺のせいなのに…!!!」

「ちげ、ぇよ………………兄(あん)ちゃん……この火傷は、僕の、せいだ。僕が父さんを怒られた、から……、…兄ちゃん、あのな、ありがとう……ヒュッ、」

やめろよ!もうなにも言うなよ!!
彼の口から、胸から、肩から、あらゆる所から血がたらりと溢れ、少し黄ばんだ布団のシーツを赤く濡らしていく。やめろ、やめて。お願いだ、

あぁ…。

「……知ってるんだ、ぼく…兄ちゃんが、ぜんぶ、僕のために、父さんに、言われて……ヒュッ……金を、稼いでた、こと………ヒュッ……ハァッ……兄ちゃん、兄ちゃん…は…クズ、なんかじゃ、ねぇ……ヒュッ」

「ちっげぇよっ!馬鹿!!!やめ、やめろよ、なんなんだよお前!!!!意味わかんねぇよ!!!!」

御礼なんか言ったら、死んでく、みてぇじゃんか。

「今救急車呼んでっから!まだ、まだいくな!やめろや!!お前が死んだら……俺は、」

「ヒュッ……あ…ちゃん…、…あり…と……」

御礼なんか、言うんじゃねぇよ。

息が止まった、彼……俺の弟に。俺は心がすり潰される感覚に陥りながらも弟をゆっくりと抱きしめ、はぁあっと息を吐き出した。

「っ…!ちげぇ!ちげぇよ!俺はクズなんだッッ!!御礼なんか言うんじゃねぇッ!!おれは、俺は……!!!」



弟の、お前を愛していた、クズ野郎だ。

「死ぬな…ッ馬鹿……」


クズ以外の生き方なんて、俺は、知らねぇんだ。



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