02
部活のマネージャーは初日に石垣先輩に一通り教わってからは、一人でやっている。
その方がテキパキ動けるし、翔の指示で私には話しかけるな、と部員に伝えてくれたので誰一人話しかけてこない。
どうしても話さなきゃいけない時は仕方ないとして、それ以外ではちゃんとマネージャー業はこなせている。
翔の近くで頑張る姿を見て、少しながら手助けが出来るのは凄く嬉しくて、やりがいのある仕事を見つけられた。
そして、私と翔以外の皆が楽しみにしていたであろう、合宿が始まった。
初日はバスで移動して旅館で授業の話を聞いたり、今後の学校行事の話を聞いたりで何事もなく終わり、お風呂の前にお夕飯で、班ごとに集まり一番端で翔と向かい合うように座って食べる。
月野さんと日野さん、他の二人の男の子はそれぞれ楽しそうに喋って居て私と翔は終始無言。
中学からお互いこういう場所では喋らないので、気にすることなく箸を動かす。
「夜、このじんじんとピーマンあげるで」
「いらんわ、食べろや」
「嫌や、嫌いや」
「子供か」
「お願いや、食べて」
「もうお腹いっぱいやから無理」
日野さんはしゅん、とした後せや、と私の方を見て来た。
「夏野さんは、好き嫌いあるん?」
『あ…ります』
「人参とピーマンは嫌い?」
『た…べれます』
「えええ子やな、ご褒美にこの人参とピーマンあげたるな」
はい、とお皿に乗せられたので頭を下げて食べる。
「ちょっと朝日、ほんまは嫌いやったらどないするん、お腹だっていっぱいかもしれんやろ」
「あ、ごめんな、そうやな」
「無理せんでええよ、嫌いなら残してええし、お腹一杯なら…みどが食べるわ」
「いらんわ、それに別に嫌いやないで、食べれるやろ」
『食べれる』
そう言ってもらった人参とピーマンを平らげ、小鉢に残ったキムチを眺めた。
辛いモノは好きじゃない、キムチも味も辛みも嫌いだから食べれない、数秒悩んで翔を見ればいらん、と直ぐに断られる。
よそってもらった物を残すのは良くないけど、食べれないし、どうしよう。
『翔』
「いらん言うてるやろ」
『……』
「横の奴に聞けばええやろ、食べれないんやけどいるかって」
『……』
翔の言葉に私をみた日野さんにキムチが入った小皿を指さして見せる。
『キ…ムチ……食べれ…ますか?』
「食べれるで、辛いのは好きや」
『よ…ければ』
「ええの?」
『はい』
「貰うな」
日野さんは笑って小皿を取って一口でキムチを食べた。
それを飲み込んでおおきに、とお皿を戻したのでお礼を伝える。
「せや、明日のお昼カレー作るやろ、あんたら料理作れるん?」
月野さんが男子を見ていて、翔以外の二人が首を横に振った。
「料理は全くできへん」
「包丁持ったの家庭科の時だけや」
「うわ、私もやで」
「ウチも!」
「あ、でも夏野さんは料理好き言うてたね、カレー作れるん?」
『つ、作れます』
「あ、それなら安心やね」
「やけど全部任せるんはあかんやろうから、玉ねぎの皮むきだけはやったるな!」
「それやってないのと同じやろ」
翔は呆れた表情で日野さんを見ていて、日野さんはしゃあないやろ、と囁く。
「それしかできひん、優しの皮剥いてもええよ、けどな食べるとこ無くなるか、ウチの指が無くなるかの戦いや」
『わ、私やります…だ、大丈夫です』
「せやせや、お米は炊けるで! 多分!」
「不安でしかないわ」
「そういうみどは出来るんか?」
「当たり前やろ」
「ウソやろ」
「ウソついてどないするん、高校入ってからは一緒に夕飯作っとるし」
入学式の翌日から両親は仕事の都合で海外に行ってしまったので、今私は一人暮らしをしている。
翔が居るから同棲と言った方がいいのだろうか、まあ、一緒に暮らしていて、部活終わって帰ってから二人で夕飯を作っているのだ。
「なんや、その一緒に住んでます、みたいなアピールいらんわ」
「アピールやなくてそうやからな、花は今一人暮らしやからボクも一緒に住んどる」
「同棲やん」
「そうやね」
あ、やっぱり同棲なんだと思いつつお茶を飲む。
「男女が二人同じ屋根の下で何も起こらないわけないな、セックスしたんか?」
月野さんの発言にお茶が変な所に入って咽る。
直ぐさま日野さんが背中を撫でてくれ、夜、と月野さんを注意した。
「ごめんな、言葉濁すべきやったね、エッチしたんか?」
「あかん言うてるやろ」
「いや、気になるやん」
「ならんわ、まだ高校生やで」
「私なんか中一で卒業したわ」
「あんたは別や、ウチらと生きとる次元が違うんや」
「え、そうなん?」
ウソやろ、と囁く月野さんに男の子二人は若干頬を赤くしている。
「まあ、しとらんなら、アドバイスは最初は痛いかもしれへんから優しくするんやで」
「今までで一番いらんアドバイスや」
「大事なことやろ」
「夜」
「最初にヤった男がどちゃくそ下手くそでむっちゃ痛かったんよ、やから大事なアドバイスや、みどはずっと自転車乗っとるしそういうの知らなさそうやから教えたんやろ」
「キミ、ボクを何だと思うとるん?」
「自転車馬鹿」
『ふっ……』
月野さんの言葉に笑ってしまい口を押え、翔が見て来たので視線を逸らした。
小さく咳払いして何事もなかったようにお茶を飲む。
「やから、優しゅうするんやで」
「そのアドバイス」
「おん」
「もう遅いで」
またお茶が変な所に入って咽れば日野さんが背中を撫でてくれた。
「みどきゅんのエッチ」
「キモッ!」
「痛なかった?」
月野さんが見て来たので、何度も頷けば、みどきゅんエッチ、とまた囁く。
「テクニシャンなんやから」
「キモイ言うとるやろ」
「もうええやろ、夜、夏野さん死んでまうわ、むっちゃ汗出とる」
「うわ、ごめんな、この話は終わりにしような」
ハンカチで汗を拭い頷けば、そこからは二人で話をしていた。
夕飯の時間が終わって、部屋に戻ってからお風呂の時間までまだ20分くらいある。
同じ部屋の月野さんと日野さんはお喋りしていて、近くに座ってその話を聞く。
「やから別れて今は25歳の人と付き合うとる」
「次は長く続くとええな」
「どうやろうね」
「夏野さんはみどとずっと一緒なろ?」
『はい…小学校から』
「ほんまずっと居るもんな」
「ええな、ええな、そんな純粋な恋愛したいな」
『翔…優しいですから……私こんなんですから……傍に居てくれます』
「ずっと人見知りだったん?」
『…元々人と話すの苦手で…小学校三年生まで…東京の学校で……色々あって…』
「色々?」
『……クラスの女の子に……嫌われました』
「なんでや」
『男の子に媚びてるって……言われました…そんなつもりなかったんですが…』
「はあ、なんやそれくだらんな」
「嫉妬やな嫉妬、夏野さんハーフで綺麗やから嫉妬したんやろうな、子供やな」
『そ、それで…学校行けなくなって……お父さんの仕事の都合もあってこっちに来ました』
「そら人と話すの苦手になるな」
「ようみどとは話せたな」
『最初は…こんなんでした…でも引っ越した家が近くて、家に籠ってる私を色々な場所に連れ出してくれて、学校にも行けるようになって、今も一緒に居ます』
何年経っても忘れない、あの日翔に会ってから過ごして来た日々の事。
翔も引っ込み思案で恥ずかしがり屋だったけど、ちゃんと私の目を見て話してくれて、傍に居てくれた。
手を引いて連れて行ってもらった場所は今でも大切な思い出の場所。
京都に来て初めて会ったのが翔で良かったと心の底から思う。
こんな私をずっと守って支えてくれて、本当に翔には感謝してもしきれない程だ。
『大好きなんです』
つい頬が緩んで笑えば二人も笑って頷いてくれた。
「ええな」
「ほんなら女の子と話すの苦手やね」
『翔以外の人と話すのは…苦手です、性別関係なく』
「そっか、まあ、しゃあないな、けど、気使うと疲れるやろ」
「そうやね、無理だと思うけど、私らには気使わんでええよ」
「そやそや」
『あ、ありがとうございます』
「嫌やなかったら名前呼んでええ?」
「ウチらも名前で呼んでええし、敬語やなくてええよ」
『……朝日ちゃん、夜ちゃん』
ちらっと見れば二人は満面の笑みを浮かべて、花、と呼んでくれた。
翔以外に名前で呼ばれるのは初めてで、嬉しく涙が溢れだす。
『す、すいません』
「ええよええよ」
「よしよししたるな」
月野さんが抱きしめてくれ頭を撫でてくれる。
「うわ、狡いなウチもよしよしする」
日野さんも抱き着いて来て、二人に撫でられ嬉しくて泣きながら笑う。
二人も笑いぎゅうっと抱きしめられていれば、襖が開いて翔が立っていた。
「……何しとるん?」
「愛をはぐくみあってるんよ」
「ハア? 泣かせたんか?」
「まあ、ある意味泣かせたな」
「何してくれてるん」
『違うの、あの、優しくしてもらったから』
「そうや」
「友達になったんや」
友達の単語が嬉しくてまた泣けば、よしよし、と頭を撫でられる。
「愛育みあってるとこ悪いけど、花の荷物にボクの服紛れとらん?」
『み、見てみる』
二人が離れたので涙を拭ってカバンを開けてひっくり返せば、翔の着替えと下着が出て来た。
『あ、あった、二日分の着替えと、下着』
「焦ったわ、忘れた思うた」
『無意識に入れちゃったみたいごめん』
「ええよ、ボクも確認せんかったし」
余っている袋の中に着替えと下着を入れて翔に渡す。
それを受け取った翔はさいなら、と部屋を出て振り返る。
「もう風呂の時間過ぎてるで」
三人で携帯を見れば15分すぎていて、慌てて準備して翔の横を通り過ぎてお風呂に向かった。
********
翌朝目覚ましで目を覚まし支度を終えたが、二人は全くおきない。
アラームを自分で止め再び爆睡してしまい数秒悩んで朝ですよ、と声をかける。
それでも起きなくて、時計を見れば朝食まで残り10分だ。
少し大きめの声で朝だよ、と言えば二人は目を覚まし起き上がる。
「……」
「今何時や?」
『朝ごはんまで後8分です』
「うあぁあぁあ、寝坊や!!!!」
月野さんは飛び起きてあかんあかん、と洗面所に消えて行き日野さんは座ったまま二度寝していた。
『朝日ちゃん、起きて下さい、朝です』
「ちょ朝日、はよ起きいや!」
月野さんに頭を叩かれた日野さんは立ち上がって、眠そうな顔のまま洗面所に行く。
そして月野さんは凄い速さでお化粧して日野さんはだろそうな顔のまま着替え、行くで、と月野さんの腕を引かれた。
三人で走って昨日夕飯を食べた場所に行けばもう皆集まっていて、担任の先生が遅いで、と怒られる。
「はあ、はあ、レディは朝の支度に時間かかるんよ」
「そんならその分はよ起きいや」
「しゃあないやろ、はあ、花はもう起きとって私が行くな言うたから遅れただけや、花は寝坊しとらんからね」
「分かっとるよ、夏野は真面目やからな」
「なんそれ、私らが真面目やないみたいや」
「真面目やないやろ」
そうやな、と月野さんは笑って、私と日野さんの腕を引きながら翔達が居る席に来た。
椅子に座って翔におはよう、と声をかければおはようさん、と帰ってくる。
日野さんは横に座ってうっつらうっつら船を漕いでいて、朝ごはんに顔を突っ込む寸前に服を掴んで止めた。
「朝日、ええ加減起き、大好きな朝ごはんやで」
「昨日、夜が寝かせてくれんから」
「ナイショ言うたやろ、私らだけの秘密やろ、エッチ」
「誤解産むような事言わんでや、あんたが今彼と電話しとるせいで寝れんかったんや」
「寂しい言うから」
「よそでやってや、花は爆睡やったけどね」
『し、らなかった』
「あ、寝顔撮ったで、見る?」
『え、あ、け、消して、恥ずかしい』
月野さんが携帯で写真を見せて来て、恥ずかしくて顔を隠す。
「かいらしい寝顔や思うて、みどいる?」
「ん、もろうとく」
あげなくていいです、と言ったが月野さんは既に翔に送っていた。
「あ、せやせや、花も連絡先交換せな」
「ウチも」
『あ、うん、えっと』
携帯を出して日野さんに教えてもらい、二人と連絡先を交換する。
そして月野さんがグループで連絡できるように作ってくれ、それに参加すれば翔の名前も出ていた。
いつでも連絡してな、という言葉に頷いて朝食を食べ、旅館の外で班ごとに別れ点呼を取ってから山登りがスタートする。
小さな鞄に必要な物だけ持って残りの荷物はバスで運ばれるので、登って行くだけなのだが結構きつい。
夜中に少しだけ降った雨のせいで、地面はぬかるんでいるし気を付けないと滑りそうだ。
「無理や、私もう歩けん、私の事はええ置いてってや」
「何言うとるん、まだ出発して10分も経っとらんよ」
「山登りなんかせえへんから疲れるわ、地面ぬめぬめやし滑るし、私はインドア派や」
「はいはい、口動かしとらんで足動かし」
「いやや、行きたない、もうお家帰る」
「はいはい」
日野さんに腕を引かれ月野さんは嫌や、と言いながら歩いている。
あまりにも可哀想だからそっと月野さんの背中を押してあげれば、花はええ子や、と笑う。
「むっちゃ楽や」
「あんたな」
「もう少しだけ」
「花甘やかしたらあかんよ」
『か、可哀想だから』
「普段運動せえへんからや自業自得や」
「夜の運動なら任せてや」
「アホな事言うてると手離すで」
「嫌や、引っ張ってや」
二人の会話に笑いながら背中を押して、途中の休憩所までなんとか来れた。
班で固まってベンチに座りお茶を飲んで休憩する。
後一時間くらい歩けばキャンプ場だが、月野さんはもういやや、と囁いていた。
「歩きたない」
「ここまで来たんやから、後一時間でつくんやから」
「もう無理や、嫌や、おんぶしてや」
「アホ言うなや、滑るやろ」
「うあぁああ、お家帰りたい」
『わ、私おんぶするよ』
「うあぁあ、ええ子や、やっぱり歩く」
『背中押す』
月野さんはぎゅっと抱き着いて来て、背中を撫でる。
普段から運動している日野さんや翔達は余裕そうで、私はまあまあしんどいくらいだ。
本当に運動していない月野さんはキツイだろうな、と思う。
「もう休憩ええやろ、行くで」
翔達が歩き出したので月野さんと一緒に歩き出す。
背中を押しながら登って行くが、相当しんどいようで足を止めた。
「はあ、はあ」
『大丈夫?』
「へ…いきや」
その後も何回も休憩を挟んで、多分私達の班が最後だろう。
あまりにも大幅な遅れを取ると昼食を食べれなくなってしまう可能性があるので、皆で話し合って私と月野さん以外の人達には先に行ってもらう事にした。
何かあればすぐに連絡する、という約束をして四人は歩き出す。
近くの岩場に座って荒い息を繰り返す月野さんの背中を撫でながら、私も休憩する。
「はあ、ごめんな」
『ううん、私も疲れてたから』
「ほんまに花はええ子やな、小学校の頃から何にも変わらんで純粋で、優しいままやね」
『え?』
月野さんを見ればにっと笑い汗を拭って立ち上がった。
「よっしゃ、行くで」
『あ、うん』
私も立ち上がり月野さんの手を引きながら歩き出す。
お喋りしながら五分歩いた所くらいから、月野さんはぴったりと喋らなくなった。
疲れると喋るのもしんどいし、私も黙ったまま一歩前を月野さんの手を引きながら歩く。
「はあ…花」
『はい?』
振り返れば月野さんは真っ青な顔で疲れている、とかそういう顔色じゃなかった。
『ど、どうしたの?』
「あかん、吐きそう」
『あ、ああ、こっちこっちで』
直ぐに近くの木陰に月野さんを連れて行けば、月野さんは吐いてしまう。
見ないようにしながら背中を撫でて吐き終わった月野さんにお茶を渡して、各班に配られたスコップで土をかぶせておく。
しゃがみ込んでぐったりしている月野さんの横にしゃがんで、背中を撫でる。
もう喋るのもしんどそうで、具合の悪そうな顔でこれ以上歩くのは無理だ。
先生に連絡してもいいがどうせここに来るのは歩きで、月野さんをおぶって行くしかない。
『夜ちゃん』
声をかければ月野さんが顔を上げたので背中を見せる。
『ここからは私がおんぶして行く、先生呼んでも歩いて来て、結局はおんぶして行く事になるだろうから』
「……」
『それなら私が運んじゃうから、乗って』
数秒の間が空いて月野さんは背中に乗って来たので、おんぶして立ち上がった。
しっかり捕まっててね、と声をかけ私は転ばないように慎重にだけどなるべく早く山を登る。
途中から月野さんは寝てしまったようで、その分の重みが増したが、運べない程ではなかった。
なんとか中間地点のバーベキュー場について待っていた先生が保健の先生を呼んでくれ、別の先生が月野さんを抱き上げる。
私は疲労で地面に座り込んで荒い息を繰り返し、他のクラスの女性の先生が背中を撫でてくれた。
「よう頑張ったな偉いで」
『はあ、はあ』
何度も頷いていれば先生がお茶を渡してくれたので、それを飲んで呼吸を落ち着かせる。
その間に月野さんは保健の先生と担任の先生に運ばれて、バスに行った。
ある程度呼吸が落ち着いたので立ち上がれば、翔と日野さんが走って来て私の横にしゃがみ込む。
「どないしたん? 夜は?」
『はあ、あの途中で具合悪くなったみたいで、今バスに』
「そうなん?」
「どうやってここまで来たんや」
『おんぶして来た、歩くのしんどそうだったし』
「何で電話しないんや、したらボク行ったで」
『そんなに距離ないと思ったし、カレー作りとかあったから』
翔に笑いかけ立ち上がってタオルで汗を拭う。
『夜ちゃんの様子見に行く』
「ほんならウチも行くで、みどはどないする?」
「さっきの場所で待ってるわ」
『じゃあ、ちょっと行って来るね』
そう言って日野さんと救バスに来れば、一番後ろで月野さんは横になっていた。
目は覚めたようで、真っ青な顔のまま私を見て笑いかけて来る。
「あ、花ごめんな」
『ううん、まだ具合悪そう』
「貧血起こしたみたいや、昨日の夜中から生理来ててな」
『そうだったんだね』
「なんで無茶したんや」
「行ける思うたんよ、でも、花には迷惑かけてもうて」
『迷惑じゃないよ、私そんな事思ってない』
「そうやな、花は優しい子やもんな、ありがとうな」
その言葉に頷けば月野さんはまた笑ったので私も笑い返した。
「ご飯は食べれそうなん? それなら持ってくるで」
「あー、いやカレーは無理や、重たすぎや、先生がゼリーくれたからそれで済ますわ」
「分かった」
「私このままバスで旅館まで行くから、朝日、後頼んだで」
「任せてや! 花はウチがゴールまで運んだるから、夜はゴールで待っとき」
「そないするね、花も待ってるな」
『うん、朝日ちゃん達とゴールするから待っててね』
心配だったけど、後は保健の先生に任せ、私は日野さんに案内されて翔達が居る場所に来る。
もう少しで出来上がりそうで、日野さんに座ってて、と言われたので椅子に座る。
そこから数分でカレーが出来、流石に何もしないのは気が引けるのでお皿によそって皆に渡し皆で食べ始めた。
外で食べるカレーはいつもと違った味がして、凄く美味しい。
お腹もすいていたから余計に美味しく感じる。
「見てやこれ、ウチが皮剥いたじゃがいもやで、小さいやろ」
小指の第一関節くらいしかないじゃがいもで、笑ってしまった。
『小さい』
「やろ、むっちゃみどに怒られた」
「当たり前やろ、こんなん入ってないのと一緒や」
『でも、あの美味しいよ』
「ほんま? よかったわ」
「キミその後何もしてへんやろ、ボクが一人で作ったようなもんや」
「カレーのルーはいれたで」
『あ、だから美味しいのかもしれないね』
「せやろせやろ」
「甘やかすなや」
日野さんとお喋りをしながらカレーを食べ、少し休憩してから使った物を洗い片付ける。
それが終わってからもう一度休憩を挟んでから、また山登りを始めた。
沢山休憩したが、まだ疲れが足に残っているようで少し遅れてしまう。
早くしなきゃと気持ちが焦ってぬかるみに足を取られ、前に倒れこむが地面にぶつかるすれすれで誰かに支えられた。
顔をあげれば翔が居て、片手で私の胸下に腕を回し支えてくれている。
「気を付けな危ないやろ」
『ありがとう』
そっと起こされて、もう一度お礼を伝えれば翔は手を出して来た。
私は翔に笑いかけその手を掴んで一緒に歩き出す。
「みど、あんた男やったんやね」
「ハア?」
「さっきの格好良かったで、あ、心配せんでね惚れとらんからね、でも心臓ぎゅうなった」
「キモッ」
「なんでや! ええな、ええな、あれやな、恋愛漫画よんで心臓きゅうなるのと一緒やな」
「小学生の頃はこんな小さかったみどが今じゃ花より大きくなって」
『あ、え、朝日ちゃん知ってるの?』
私の言葉に日野さんはしまった、みたいな顔をする。
そう言えば先ほど月野さんもなんか昔から知ってる感じの話し方してたし、二人も小学校から一緒だったのだろうか。
とても失礼な事だろうが、私小学校から中学卒業まで翔と居たから記憶にない。
「えっと、あー、何の事やろうか」
『え? あ、えっと』
「うあぁあ、みど」
「知らんわ」
「お願いや、何とかしてや」
「嫌や」
「どないしよう、夜に怒られてまう、あの、これはな」
どうやら聞いて欲しくないようで、日野さんはあたふたしている。
『あの、聞かないよ、今の聞かなかったことにするし、もう聞かない』
「一年の頃一緒のクラスだっただけや、花は居らんかったから知らんのや」
『あ、そうなんだ』
「せや、ただそれだけや」
「そうやそう、それや」
『一年生の頃の翔は可愛かった?』
「余計な事聞かんで足動かし」
『はーい』
翔に手を引かれながら三人でお喋りして、夕方には宿についた。
宿の前にはまだ少し具合の悪そうな顔をした月野さんが居て、手を振ってくれたので振り返す。
「お帰りやで、お疲れ様や」
「むっちゃ疲れたわ」
『ただいま』
「頑張った二人には私からキッスのプレゼントや」
ちゅっと頬にキスされ日野さんは全力で逃げていた。
「しゃあないからもう一回花にキッスな」
頬を出せば後ろから腕を引かれよろければ、そのまま抱きしめられる。
顔を上げれば翔が居て、人の彼女に無止むにキスせんでや、と少し怒っていた。
「ええやろ!」
「ようないわ」
「口やないやろ」
「花の体は頭のてっぺんからつま先までボクのもんや」
「独占欲の塊やな」
「おん」
『あ、翔』
「しゃあない、はぐだけやな」
月野さんが両手を広げれば、翔が私から手を離したのではぐをする。
「ほんまに今日はありがとうな」
『ううん、私こそ話しかけてくれてありがとうね』
ぎゅうっとすればウチもや、と日野さんが抱き着いて来て三人で笑い抱きしめ合った。