03
夕食もお風呂も済ませて部屋に戻る。
この後はキャンプファイヤーだが、月野さんはまだ具合がよくないからこのまま部屋で休んでいるらしい。
日野さんが付き添ってくれるから、私は翔と行っておいで、と言われ部屋を後のにする。
廊下に出れば少し先に翔が待っていてくれたので横に行けば、私の歩幅にあわせて歩き出した。
靴を履き替えて外に出れば沢山の人が居たので、翔の服を掴んで河原に行き、人気のない場所で翔とキャンプファイヤーを眺める。
『真っ赤だね、離れてるけど熱い』
「そうやね」
『今日は沢山歩いて疲れたからぐっすり寝れそう』
「あんな歩くんやったら自転車乗ってたほうがマシや」
『まあ、そうだね』
「はよ帰ってペダル回したいわ」
『私も翔が自転車乗ってるところ見たい』
だから帰ってからもっとマネージャー頑張るね、と翔を見上げれば疲れたのか翔はその場に座り込む。
私も横に座ればそっと手を握られその指を握り返す。
『初めてやりがいのある仕事見つけられた、翔のサポート出来る、凄く嬉しいの』
「……」
『今までは付き添ってただ見てるだけだったけど、今は本当に少しだけどサポート出来て、翔が頑張ってるとこ近くで見れる』
本当に意味ないサポートかもしれないけどね、と笑いかければ翔は少し腰を上げ私にくっついて来た。
翔の肩にそっと頭を乗せ寄り掛かる。
「ボクも花にサポートしてもらえて嬉しいで」
『本当?』
「ボク嘘ついたことないやろ?」
『そうだね、なかった』
「やから、これからもサポートして欲しい思うで」
『するよ』
「けどな」
『うん』
「マネージャーはせんでもええよ」
その言葉に翔から離れ顔を見れば、翔も私を見ていてその目は心配しているようだった。
「折角ボク以外の奴と話せるようになったんや、放課後遊び行ったりしたらええ」
『……』
「ボクかてずっと傍にはおれん、インハイ近くなったら今以上に練習も厳しなる、やから、あの二人と仲良うなって欲しいんよ」
『私も月野さんと日野さんとは仲良くしたいよ』
「マネージャーしとったら放課後遊び行ったり出来ひんやろ」
『そうだけど、でもやっぱり私』
「今すぐ決めんでええよ、少し様子みて花がどうしたいか決めればええ」
『分かった、少し考えてみる』
「マネージャーせんでも、部活終われば花の家戻るし、休みの日は一緒に居る」
『うん、もしそうなったら美味しいご飯作って待ってるし、休みの日は出かけようね』
私も日野さんと月野さんとはもっと仲良くなりたい。
出来ることなら遊びにも行ってみたいと思うし、買い物だってしてみたい。
でも、マネージャーをやってるとそれは難しいのは分かっている、だから翔はそう言ってくれたのだろう。
でも、やっぱりマネージャーをやっていたいという気持ちもある。
優しい翔の事だから、私の考えている事は分かっているのだろうから考える時間をくれた。
その時間を無駄にしないよう、自分なりに精一杯考えて答えを出そう。
今はまだどうしていいか分からない、本当に月野さんと日野さんと友達になれるのかも、マネージャーとして翔を支えられるのかも
だから、辞めるにしても続けるにしても、沢山考えて後悔しない選択をしたい。
「ボクはどっち選んでも花の傍に居るで」
『うん、ありがとう翔』
そっと腰を上げて、私を見ている翔にキスをした。
*************
あの日翔にマネージャーを辞めてもいい、と言われてから既に二日は経過した。
オリエンテーションの三日目には学力テストを行い、帰りのバスの中で日野さんは死んだ顔をしていた。
運動は得意らしいが勉強の方は苦手で、逆に月野さんは余裕そうな表情だった。
バスが学校について二人にはまた学校でな、と別れ土日を挟んで、土日の間は部活のマネージャーに励んで、連絡先を交換したが特に二人と連絡を取ったりはしていない。
何度か連絡してみようかな、とは思ったが一歩を踏み出す勇気が出ず、結局は何も送れなかった。
そして今日、二日ぶりに学校で、今日からは授業が六限まである。
朝早起きして翔と自分のお弁当を作り、翔と登校して教室に入ればまだ二人は来ていなかった。
翔と離れ自分の席に座れば、初日に話しかけてくれた三人が来てくれる。
おはよう、と声までかけてくれ、小さな声で返事をした。
「今日からお弁当やろ? 一緒に食べへん?」
「オリエンテーションは一緒になれへんかったけど、今日から一緒に遊んだり話たりしような」
「放課後とかも遊び行ったりな」
私が返事する前に三人は色んな話をする。
合宿中の話だったり、山登りが大変だったとか、勉強は苦手、とかほぼ三人で話していて時たま頷くくらいだった。
お弁当一緒に食べる話も一緒に遊んだり、放課後も出かける話も全部嬉しい、でも、私は自分で日野さんと月野さんをお弁当に誘いたい。
二人に一緒にお弁当食べて、と誘うために昨日翔にお願いして練習相手になってもらったのだ。
何度も何度も練習して、絶対に自分から誘うと決めて居た、だから、断らなくちゃ。
心臓ばくばくしているが、ぐっと拳を握りしめてお喋りしている三人を見上げる。
『あの』
「ん?」
『あの…その、お、弁当』
「お弁当? お昼の事?」
『はい、あの…その私…ひ、日野さんと月野さん誘いたいです』
「……」
『だから、あの、ごめんなさい、あのお弁当』
一緒には食べられないです、ごめんなさい、と謝った。
すると三人は顔を見合わせ何か言おうとしたが、それと同時に教室のドアが勢いよく開く。
振り返れば日野さんと月野さんが、荒い息を繰り返しながら立っていた。
「はあ、はあ、セ、セーフや」
「はあ、もう無理や、死ぬ」
荒い息を繰り返す中チャイムが鳴ってしまい、三人は何もいう事なく自分の席に戻る。
二人は私の挟んで前後に座って、おはよう、と言ってくれたので一人づつ目を見ておはよう、と返した。
「ほんま疲れたわ、やっぱ、日曜の夜にするもんやないな」
「やめろや」
『お、お疲れ様』
「花はみどと日曜の夜にセツ…エッチするん?」
静かな教室に月野さんの爆弾発言に汗が噴き出す。
すぐさまタオルで顔を拭えば、日野さんが月野さんに怒る。
「夜あんた、ほんま」
「うあぁ、ごめんなごめんな」
『だ、だいじょっ』
「花はあんたと違ってええ子やから、そんなぶっ飛んだ事言うたらあかんやろ」
「そうやな、ごめんな」
『大丈夫、えっと、それにあのしてないよ』
「花も答えんでええんやで、無視してええからな」
汗を拭いながら頷けば先生が来てHRが始まった。
今日から授業だからしっかり勉強するんやで、と言う先生に皆が返事をする。
出席を取ってHRが終わり一限目の授業の教科書を出し覚悟を決め、私に背を向けている日野さんの背中を突いた。
直ぐに振り返って私を見たので、昨日翔と練習したのを思い出し勇気を振り絞る。
『あ、あの、今日、あの、一緒に』
「うん」
『お弁当、食べてもらっていいですか?』
「勿論ええよ、けど、うちらでええんか?」
何度も頷けばほんならお昼一緒な、と言ってくれたので頷いて振り返った。
今度は月野さんを見て誘えば、笑って頷いてくれる。
「ええよ、一緒に食べような」
誘えたのもいいよと言ってもらえたのも嬉しくて、この喜びを誰かに伝えたい。
誰かではない、翔に聞いて欲しくてすぐさま翔の席の横に行く。
イヤフォンして音楽を聴いているのでイヤフォンを外して耳元で囁く。
『お弁当一緒に食べるの、いいよって言ってくれたの、昨日練習したからちゃんと言えたよ、ありがとう』
「ボクは別に何もしてへんよ、せやけど良かったな」
『うん』
笑って頷いて翔の耳にイヤフォンをしてから、自分の席に戻った。
*********
一限、二限と時間が過ぎて行き、漸く楽しみにしていたお弁当の時間になった。
鞄からお弁当を二つ出せば、日野さんが机を動かし私の机に自分のをくっつけ、通路側に月野さんが椅子を持って来て座る。
「あれ、お弁当二つも食べるんか」
『あ、これは、あの翔の』
黄色い袋には居たお弁当を持ち上げれば、翔が来たので渡す。
「愛妻弁当やな」
『翔は何処で食べるの?』
「暫く部室で食べる」
『ここで一緒に』
石垣君と食べるんや、とそのまま出て行ってしまい、いつの間にか先輩と仲良くなったようだ。
練習中とかはそうは見えなかったけど、これなら安心かな、と自分のお弁当を袋から出す。
三人でお喋りしながらお弁当を食べて居れば夏野、と声がしたので見れば、石垣先輩が教室に入って来た。
「すまん、御堂筋君おらへんか?」
『……え?』
「え?」
『せ…先輩と』
「俺と?」
『……あ、な、なんでもないです』
「そうか? 悪いんやけど御堂筋君に今日部活遅れる言うて欲しいんよ」
『わ、わかりました、つ、伝えておきます』
「すまんな、進路の話せなあかんくてな」
『は、はい』
頷けば、先輩はよろしくな、と教室を後にしたので途中だったお弁当を食べ始める。
翔はウソをついてまで、私が二人と仲良くできるようそうしてくれたのだろう。
傍に居るとどうしても翔に甘えてしまう部分があるから、ちゃんと自分で考えて行動して欲しいのだと思う。
翔の優しさが無駄にならないよう、明日も自分からお弁当食べて欲しいと誘い、仲良くなれるようにしたい。
『明日も』
「「ん?」」
『明日もお弁当一緒に食べていいですか?』
「当たり前やろ」
「ずっと一緒に食べような」
二人が笑ったので私も笑いかえし頷いた。
そこから二人とお喋りしてチャイムが鳴る五分前に翔が戻って来たので、二人にごめんね、と声をかけて翔の席に行く。
『さっきね石垣先輩来たよ』
「……」
『進路の話するから部活遅れるって言ってたよ』
「分かった」
『明日からも二人とお弁当食べる約束したよ、自分で言えた、だから明日から翔も一緒に食べよう』
「まだダメや」
『なんで?』
「駄目なもんは駄目や、ボク一人で静かに食べたいんよ」
『そんな事言わないで』
「花はボクの事気にせんで、二人と食べたらええやろ、席戻り」
そう言って翔は空になったお弁当箱を渡して来たので、渋々席に戻った。
まだダメってなんでダメなのだろう、自分で誘えたしお弁当これからも食べられるのに。
もっと仲良くなれって事なのだろうか、でも、どうやったらこれ以上仲良くなれるか私には分からない。
友達の作り方なんか忘れたし、仲良くなる方法も私には分からなかった。
放課後のHRが終わって鞄を背負う。
「部活やな、頑張るんやで」
「応援してるで」
『ありがとう』
「下駄箱まで一緒に行こな」
『うん』
翔は先に行ってしまったようで居ないので、三人で下駄箱に向かった。
靴を履き替え校舎を出て、二人と別れ一人で部室に向かう。
今日の夕飯はどうしようかな、と考えて居れば夏野さん、と名前を呼ばれたので振り返る。
少し先にはお弁当に誘ってくれた三人が居て、近寄って来て私の前に立つ。
「あんな」
「あんまし言たないけど」
「私ら友達やから言うてあげるな」
その言葉に頷けば三人は顔を見合わせ頷いた。
「あの二人、日野さんと月野さんとは仲良くせん方がええよ」
「あんまええ噂聞かへんから」
「夏野さんも変な噂たってしまうよ」
『……』
「日野さんは他校の人達と喧嘩っばかりしとって悪い人ともつるんでるらしいで」
「月野さんは男の人とっかえひっかえで大人の人ともお金もろうて遊んでるらしいで」
「やから危ないやろ? 私らとおったほうがええよ」
私の心配をしてくれているのだろう。
それはとてもありがたい事だけど、でも、私は。
『あ、ありがとうございます』
「な、やから明日からは」
『でも、私はそんな噂信じないです』
リュックの紐を握りしめ三人の目を見た。
『日野さんも月野さんもとてもいい人です、優しいです、私なんかと仲良くなってくれました、だから、私はそんな噂信じないし、例え本当だったとしても二人の傍に居たい』
噂が事実かそうじゃないなかなんてどうでもいい。
私が知っている二人は優しくて、話すのが遅い私の話もちゃんと聞いてくれる。
授業中に困った時は助け船を出してくれたし、話していて気を使わないで自然に笑えた。
『だから、私は二人の友達になりたい、もっと仲良くなりたい』
「心配して言うてあげてるんやろ」
『凄く有難いです、けど、私は大丈夫です』
ありがとうございます、と頭を下げ三人を見れば失礼だが、凄く嫌な顔をしていた。
この感じ嫌でも思い出す、小学校のあの日、皆に嫌われた日に向けられていた時と同じ顔。
見てるのが嫌で下を俯いて、先ほどより強くリュックの紐を握りしめた。
「折角親切で言うてあげてるんに」
「酷いな」
「御堂筋君やって、先輩に歯向かってるって噂やろ? 一年生なのに先輩にため口で皆怒っとるって話や」
「夏野さんの周りに居る人ってちょっと変わっとる人多いな」
「全部夏野さんのせいやったりしてね」
「まあ、もうどうでもええわ、私ら変な噂されたないから、近づかんでね」
何も言い返せず下を俯いたまま居れば、そうやっておどおどしてるのも男受け狙ってるんでしょ、と言われる。
「そうやってれば男はかいらしい思うんやろうね」
「御堂筋君は見事にはまったみたいやね」
「良かったな、変わり者同士お似合いやね」
泣きそうだった、体が震えて息が上手く出来なかった。
何も言い返さない私に飽きたのか三人は行こう、とその場を後にして私は一人その場から動けなかった。
翔や二人を馬鹿にされていたのだと今更気づいて、何も言い返せなかった自分に腹が立つ。
翔も日野さんも月野さんもそんな人じゃないのに、凄くいい人達なのに、変な風に言われたのに何も言えず泣いている自分が惨めで、情けない。
溢れて来る涙を拭くの袖で何度も何度も拭うが止まらず、嗚咽が漏れる。
泣きじゃくっていれば夏野、と聞こえ目の前に誰か来た。
涙を拭い顔を上げれば石垣先輩が居てどないしたん? と心配そうな顔をする。
「御堂筋君はどないしたん?」
『あぎっ…』
「喧嘩してしもうかんた?」
『違いますっ…翔達馬鹿にされたのに言い返せなくてっ…私……いつも翔達に守ってもらってるのにっ…守れない』
「そないな事ないやろ?」
『そうなんです、守られてばっかりで、悔しい、翔だって日野さんだって月野さんもいい人達なのにっ、何も知らないで』
「何言われたか分からんが、そうやって夏野が御堂筋君達の事大切に思っとるなら、三人はそれで嬉しいんやないかな?」
『私は嫌なんです、だって、何も知らないのに変な事言われてっ…なのに言い返せなくて……泣いてるだけで…何も出来ない』
それが悔しいです、と囁けば翔の声がした。
「ボクはザクが言う事なんて気にせえへんよ」
見てみれば少し先に翔が居てそっと近寄って来て、石垣先輩が退くと私の前に立ってしゃがみ込む。
「何言われたか知らんけど、放っておき、あの二人も気にしてへんやろうし」
『でも、私は』
「花がボクの事知っとってくれればええわ、他の奴にどう思われようが、花がボクを大切に思うてくれとるんなら、それでええ」
『私は大切に思ってるよ、翔が…月野さんと日野さんだって大切、私に優しくしてくれて』
「ほんなら、それでええわ、言い返さんでもええよ、言わせたい奴には好きに言わせとき、くだらん事言うてないと死ぬ病気なんやろう」
『……』
「誰かの悪口言わんと死んでしまうんよ、そいつらは、やから気にするだけ時間の無駄や」
そう言って翔はグローブを外し、そっと涙を拭ってくれる。
「花がボク達の事思うてくれてるだけでええから、もう泣かんでな」
『うん』
「花が泣いとると心臓痛なるから」
翔の言葉に自分で涙を拭いて、深呼吸して笑いかけた。
「ボクが一番好きな顔や」
『私も翔の笑ってる顔大好き』
二人で笑い合ってから翔は立ち上がり、何とも言えない顔で笑っている石垣先輩を見下ろした。
「顔キモイで」
「すまん」
「さっさと着替えて準備しいや、もう練習始まっとるんよ」
「そないするな」
翔達が歩き出したので後ろからついて行き、石垣先輩、と声をかける。
「ん?」
『ありがとうございました』
「俺は何もしてへんよ、けど、御堂筋君が言うてた通り気にせんでええ思うで」
『はい』
そうします、と答えマネージャー業に励んだ。
翔も先輩も気にしなくていい、と言ってくれたがやっぱり悔しいと思う。
何も知らない人達に私の大切な人を馬鹿にされるのは許せない。
だから、もし次何かあったら、今度は私が三人を守れるよう強い人になりたいから、逃げないで負けないで戦う覚悟を決めた。
********
翌日、翔は部室に忘れ物をしていたので取りに行き、一人で教室に入れば色んな人の視線が集まった。
気のせいと思いたいけど、突き刺さる視線に下を俯いてリュックの紐を握りしめる。
この感じ、昨日も思ったが、あの日を思い出す。
一粒の汗が頬を伝って地面に落ち、逃げだしたいほど怖くて体が震える。
でも、逃げないで戦うって決めた、今度は私が翔達を守るって、だから前を向け。
自分にそう言い聞かせゆっくり顔を上げて、自分の席に着いた。
鞄から筆箱やプリントを出していれば、私の前に昨日の三人が来て見下ろしてくる。
ぐっと拳を握りしめ、三人を見上げれば意地悪そうな笑みを浮かべた。
「おはよう夏野さん」
『お、はようございます』
「なあ、噂聞いたんやけど」
「夏野さん達っていけない事してるんやって?」
「日野さんと月野さんと夏野さんで悪い事してる噂聞いたで」
『…し、てないです』
「ほんま? なんや、月野さんと夏野さんで男の人誘ってホテル連れ込んで日野さんがその人殴ってお金取り上げてるって」
『しないです』
「でも、火がないとこに煙はたたん言うやろ?」
「少なからず、なんかしとるからそないな噂流れるんよ」
三人は笑って顔を見合わせ怖いな、と囁く。
他の人達もこそこそ話していて、皆で二人の事悪く言って居る。
「御堂筋君もそれに加わってる言う噂やで」
「怖いな」
「いややわ」
何もおかしうないのに笑う三人に、私は椅子から立ち上がった。
『何がおかしいの?』
「え…」
『日野さんも月野さんも翔もそんな事しない、何も知らないで悪く言わないで』
言い返しているけど、体は震えて今にも泣きそうな声で情けなく見えるだろう。
でも、これ以上私の大切な人が悪く言われるのは耐えられない。
『三人共、凄く優しくていい人達なの、私の大切な人の事馬鹿にしないで!』
静まり返る教室に三人は一歩後ろに下がった。
「な、何むきになっとるん」
「そうや」
「私らは噂の話しただけや、むきになる言う事はしとるってことやろ」
『してないって言った、日野さんも月野さんもそんな事しないし、翔だってそんな事しない』
「皆はそれ信じとらんよ」
「夏野さんが三人をたぶらかせてやらせとるって話やし」
『それならそれでいい、それなら私の事だけ言えばいいよ、私はもう慣れてる、こうい風にされるの、だから、三人の事は言わないで、私の悪口だけ言えばいい、もう一度言う、三人の事は馬鹿にしないで』
その代わり私の事はどんな風に言っても変な噂広めてくれても構わないから。
そう言って三人を見れば教室のドアが開いて日野さんと月野さん、翔が入って来た。
『あ、お、おはよう』
二人に笑いかければ二人も笑っておはようさん、と私の横に来る。
聞こえてなかったようで、はあ、と安堵の息を吐けば二人は私の前に居る三人を見た。
「なあ」
「な、なに?」
「私らの大切な友達虐めんでくれへん?」
「何か言いたいんならウチらに言えばええやろ?」
「無理やってだって朝日は悪い人達とつるんどるから怖いやろ」
「あ、そうやな、じゃあ、今からそいつら呼んであんたらリンチしたるな」
そう言って日野さんが携帯を出すと三人はそないな事したら先生に言いつけるからな、と捨て台詞を吐いて教室を飛び出した。
「あははは、ウソに決まっとるやん」
「怖がるんやったら最初から喧嘩吹っ掛けんでええのにな」
『……あ、あの、聞こえてた? あ、なお、ちゃんと誤解だって言うから、だから気にしなくていいよ、私ちゃんと言って来る』
大丈夫だから、と二人を見ればそっと抱きしめられる。
「もうええよ、ありがとうな」
「ほんまに花はええ子やな」
『え、あ』
「自分の事じゃ怒らんくせに、私らの事言われて震えながら怒って」
「それだけでもう充分やで、ありがとうな、大好きやで」
その言葉に涙が溢れ何度も頷く。
『わ、私も大好き、私知ってる、二人が優しいの、だから私二人と友達になりたいしもっと仲良くなりたい』
「何言うとるん、私らはもう友達やろ」
「そうや、ウチらももっと花と仲良くなりたいで」
『ありがとう』
二人の背中に腕を回しぎゅっと抱きしめた。