気持ちいいことしか知らないの3
三
キスをしたいと思う感情はつくづく不思議である。八戒は同級生たちの会話を盗み聞きしながら思った。クラスの男たちはキス自体に興味があって、キスができるなら相手は誰でもいい、なんていう話までしていた。
八戒にはその気持ちがわからなかった。キスに興味があるし、実際にキスをしてみたけれど、三ツ谷以外にはしたいという気持ちは起きなかった。
八戒は三ツ谷を特別好いていることに自覚があるが、それを恋愛感情だとは思っていない。三ツ谷に対しては本当の家族のように慕っているだけだ。
最近、八戒は三ツ谷からのキスをねだった。八戒の要望通り、三ツ谷からキスをしてくれるようになった。
しかし三ツ谷からキスをする時、三ツ谷の態度は八戒の知る三ツ谷と少し違っている。
三ツ谷が八戒へキスをする時、三ツ谷はいつも寡黙になる。それは優しいというよりクールな印象を受けた。
知らない三ツ谷の態度について、八戒は怖いと思ったり、嫌がったりしているわけではない。ただ、いつまで経っても慣れないのだ。
それでも、三ツ谷からのキスはやはり嬉しいので、八戒はいつも新鮮な三ツ谷を感じながらそのキスを受け入れている。
時に、八戒はクラスでの盗み聞きが日課になりつつある。八戒は兄である大寿の悪名が高いせいで、八戒が話しかける前から他人に距離を置かれることが多かった。いまやその状況にも慣れ、また、学校外での付き合いが大切になった八戒にとっては、学校内に友達がいないことなど大した問題ではないが。
今日のクラスの話題は、いつまで親と風呂に入っていたか、という話題に終始した。親との関わりがほぼない八戒にはすべてが物珍しい話であった。いくつまで一緒に入っていたかということで大人ぶったり、子供扱いされたりと、八戒は感心するような気持ちで聞いていた。
八戒も当然風呂は一人で入っているが、できるならまだ三ツ谷と一緒に入りたいと思っていた。三ツ谷は家族ではないが、八戒にとってはクラスの男子たちのいう家族も同然である。しかし三ツ谷の家の風呂は狭いし、八戒は人並み以上にデカいしで、もう随分前から一緒に入ってはいない。
出会った頃は風呂場で遊んだこともあって、八戒は懐かしい気持ちになった。いつの頃から一緒に入らなくなったのか、八戒は覚えていない。自然とバラバラに入るようになって、今に至る。
楽しいことにも終わりは来る。そして終わりが来る時に必ず終わりますという宣言があるわけではない。そんな当たり前のことを八戒は思い、同時に、三ツ谷とのキスはいつまで続くのだろうと思った。