グレイゾーン20


突然の来訪に城内はざわついていた。連絡もなく訪れることにベジータは胸騒ぎがしたが、いたって冷静に支度をする。素早く汗を流し、正装に着替えれば、宇宙船が着陸する先である広場へ向かう。
ベジータ王と合流し、二人は巨大な宇宙船を待ち構える。宇宙船が無事にすべて降り立つと、中から複数の部下を従えた小柄な宇宙人が下りてくる。宇宙の帝王と恐れられるフリーザだった。
ベジータは父である王と共に膝をつき、フリーザに挨拶をする。フリーザは余裕の持った振る舞いで二人に顔を上げるように言った。
「大したもてなしもできず申し訳ございません」
「いいんですよ。こちらも連絡しませんでしたし」
「いかがなされましたか? 何か急ぎの用でも?」
ベジータ王がそういうと、フリーザがふっと小さく笑う。
面白い話を耳にしましてね。フリーザがそう切り出すは、悟空のことだった。他の星で育ったというサイヤ人が一風変わった人間だと聞いたフリーザは、面白そうだと思い、わざわざ惑星ベジータへ立ち寄ったのだという。
悟空の存在は、惑星ベジータにおいてごくわずかにしか知られていない。ラディッツら悟空の家族や、ベジータの側近くらいで、城内にもその存在は限られている。当初、ただの下級戦士と判断された悟空は、取るに足らない存在であり、わざわざベジータ王に報告するほどではなかったこと、また今になっては、特殊な能力や技術を持っているために、他に利用されぬように公にしていないことの二つが大きな理由である。
「そうですか……申し訳ございません。こちらの耳までは、届いておらず……」
「ホッホッホ。そうですか。まあ、また来ますので、その時にお会いできればかまいませんよ」
ベジータ王はホッと胸を撫でおろす。フリーザは丁寧な口調をしているが、その残酷さはサイヤ人と同等か、それ以上である。またその強さも群を抜いていて、建前上、フリーザ軍とサイヤ人は協力関係にあるが、フリーザの圧倒的強さの前では、実質的に支配下に置かれているといっても過言ではなかった。フリーザはサイヤ人が行っていた地上げ業を乗っ取り、宇宙全体を支配しようと目論んでいるようだった。
では、先を急ぎますので。フリーザはくるりと振り返ると、大きな尻尾を揺らしながら宇宙船へと戻っていった。
ベジータはフリーザの宇宙船が完全に見えなくなるまで、その姿を見つめていた。悟空のもつ特殊能力を得て、憎らしいフリーザを討つには、ベジータが思う以上に時間が足りないようだった。

フリーザとの会談の後、ベジータと再び手合わせをした悟空は、ベジータが初めて会った頃のように冷めていることを心配した。二人きりでする手合わせは、ただ純粋に強い相手と戦える楽しみがあったのに、今のベジータは目の前の悟空を相手にしているはずなのに、いつもどこか上の空だった。気の抜けた修行はいくらやっても身にならないと苦言を呈するが、ベジータはそんな悟空の助言もうるさいと一蹴していた。
原因はおそらくフリーザであろう。悟空は何度かあの日のことを尋ねたが、ベジータはいつもきさまには関係ないと言って答えたりはしなかった。
悟空が惑星ベジータに滞在して、おそらく半年以上は経つ。時計もカレンダーもなく、正確な時間はわからないが、愛着が湧くには十分な時間である。こちらに住む家族とはすっかり打ち解けたし、街の人々とも仲良くなった。サイヤ人としてここで育ったわけではないが、それでも悟空なりに、自分の体に流れるサイヤ人の血というものを感じていた。
そして悟空は、ベジータとも仲良くなれたと思っていた。お互い譲れないことはあれど、互いを尊重し、少しずつ歩み寄っている実感があった。
だがあの日以降、ベジータは悟空に対して閉ざしていた。フリーザに何を言われたのかわからないが、それでも悟空なりにこの星の力になりたいと思った。
その思いはある日些細な口論になった。頑なに口を閉ざすベジータが、声を荒げて悟空を罵倒した。
「きさまには関係ないことだと言っているだろう! この星の人間でもない、きさまには‼」
悲しみや怒りよりも、悟空はただ寂しいと思った。互いの技を受け止め、切り返す度、悟空は戦いを楽しむ心が通じ合えているような気がしていた。たった一つの共通点から、悟空はベジータが仲間だといえるほどの関係になったんだと思っていた。
だが突きつけられたのは、はっきりとした拒絶。そして声を荒げたベジータは、そのまま振り返り、二度とそのトレーニングルームに現れることはなかった。


2020/12/06