グレイゾーン21


ベジータは溜まった書類に目を通していたが、いくら読んでも何も頭に入らなかった。はっきりと悲しむカカロットの顔がチラついて、何をやっても集中できない。
ベジータは絶対的だったはずの己の価値観が日に日に揺れ動いていることに気付いていた。サイヤ人がこの世の理で、その中でも戦闘能力だけが唯一の価値であったはずが、数値では計り切れない悟空の奇妙な強さに、ベジータは強く惹きつけられている。
それが揺るぎない気持ちになったのは、フリーザの言葉だった。フリーザはいつも何を考えているかわからない不気味な存在で、強い上に頭がキレる。ベジータも、惑星ベジータ始まって以来の素質の持ち主であるが、フリーザの強さには到底及ばないことはわかっていた。
だがあの時、突然の来訪から口に出た、悟空を示すサイヤ人の存在。フリーザが一体どういう経緯でその情報を手に入れたかわからないが、ベジータは決して奪われてはいけないと強く決意した。それは悟空のもつ情報や能力の価値だけではなく、悟空そのものへの執着だ。
悟空と出会った頃のベジータであれば、奪われて貴重な情報を盗られてしまうくらいなら殺してしまえばいいと思っただろう。だが今のベジータにその選択肢はない。
それがいかに冷静さを失っているかわからないほどベジータも間抜けではなかったが、そうしてもなお、悟空を生かす選択しかできないベジータは、到底敵わないとわかっていても、一刻も早くフリーザの強さに追いつかねばならなかった。
一人で行うトレーニングも久しぶりだ。自室に置かれた器具がやや埃かぶっていて、それほど悟空との手合わせが魅力的なものだったのだと痛感する。ベジータは自分を追い込みながら、近いうちに起こるであろう戦いを想定し、黙々と鍛錬に励んだ。


2020/12/06