理屈じゃない1


個性あり、ヒーローなし、炎司は警察官でトーヤは高3。父相手に性的感情を持ってることに気付いた息子と子育てわからん!なりに頑張るえんじの話。
Twitterに連載みたいにしてあげていたのでスケベ入れたいなあ〜と思いつつ書けてません。
どこかのタイミングで追加したいなあと思いながら……ひとまずまとめ。


*   *   *


轟家の長男である燈矢の口数が少なくなって数年。それは日増しに強くなる傾向にあった。
母・冷は心配しつつも、父・炎司に言わせれば男はそんなものだと気にも留めなかった。思春期であればなおのこと、父や母に隠し事が増えてもおかしくはない。
信頼しているからこそ、特別口うるさくいうことはなかった二人だったが、燈矢が高校に上がる頃には、何をしているか話すどころか、燈矢が家にいることはもちろん、家族と共に過ごすこともほとんどなくなっていた。
それが部活動に打ち込んだり、友人と遊んでいるというものであればよかったのだが、燈矢は部活も入らず、他人と関わることもせず、ただどこかで時間を潰しては、夜遅くに家の玄関のドアを叩くのだ。
見かねた父が苦言を呈すのは早かった。どうしたんだ、そんなことをするお前じゃなかっただろうといっても、燈矢は表情一つ変えず自室に戻っていく。それが何日も続いていたが、燈矢はとうとう一度も親のいうことを聞くことはなかった。
「オレ、卒業したら家出るから」
無口になっていく長男が久しぶりに食卓で口を開いたかと思うと、それは両親ともに寝耳に水のことであった。
燈矢! と炎司が反射的に叫んだが、当の本人は涼しい顔をして食卓を離れる。狼狽える冷と動揺する子供たちを前に、炎司が立ち上がった。部屋を出ていった燈矢を追いかけ、自室に入る寸前のところ、長い廊下で捕まえる。どういうつもりだと声を荒げる父に、そのままの意味だと燈矢はいった。
「家を出てどうするつもりだ? 何かやりたいことでもあるのか?」
炎司は燈矢を逃がさぬよう、腕をがっちりと掴む。至近距離で大声を出された燈矢は、炎司の声がうるさいとばかりに耳を塞いだ。
炎司が声を荒げるのは仕方のないことだった。燈矢は予定していた試験をサボり、すべての受験を棒に振った。進学を捨て、就職活動もせず、家を出ていくというのは無謀である。
炎司は警察官だ。熱心に仕事に打ち込み、比較的若いうちから役職に就いているため、轟家はそれなりに裕福な家庭だった。やりたいことがあるというなら、炎司は素直に応援したかった。家にはそれができるだけの余裕がある。
しかし燈矢は炎司の問いに答えなかった。漠然と家を出たいという未熟な考えは、炎司には到底受け入れられない。燈矢の自由を尊重していた炎司だったが、言いたいことがないわけではない。たまりにたまった言葉は些細なきっかけで噴出し、燈矢を責め立てる炎司の言葉は止まらなかった。
何か言ったらどうなんだ! 棒立ちになる燈矢に向かって炎司は怒鳴りつける。まくし立てた炎司の呼吸は乱れていた。
「……だったらヤラせてくれんのかよ」
父から目を逸らしたまま燈矢はいう。炎司は訳も分からず、燈矢の言葉を聞き返す。何がだ、何がしたいんだ、と炎司が詰め寄ると、燈矢は炎司に掴まれていた腕を思い切り振るい、父の手を払った。
「なんでもねーよ」
燈矢は去り際、父と壁を作るように炎を燃やす。燈矢の個性は父の個性とよく似ているが、父以上の火力を持ったそれは己を燃やすほどの危険性をはらんでいた。昔はよく一緒に遊んでいたものだが、燈矢の身に危険が及ぶと気付いてからは、炎司が燈矢と遊ぶことはなくなった。
燈矢の青い炎が目前まで舞い上がり、怯んだ炎司が後ずさる。燈矢はその隙に自分の自室のドアを開け、するりと吸い込まれるように消えていった。久しぶりに見た青い炎を懐かしみながら、すっかり何を考えているのかわからなくなってしまった長男に、炎司は悔しさを滲ませながら、ひどくやるせなく思った。

2021/03/23