気持ちいいことしか知らないの4
四
「これっていつまで続くのかな」
三ツ谷の唇が離れた直後、八戒はいう。二人はいつもの場所で内緒のキスをしていた。
「終わりがわかんない」
そう言葉を続ける八戒は、まるでゲームか何かの話をするように、頬を膨らませて悩む。
「八戒がしたくなくなったらやめればいいだろ」
三ツ谷の言う通りなのだが、八戒は俯くだけではっきりとした言葉にはしない。三ツ谷とキスをしたくなくなる日が想像できなかった。
「終わりとかあんの?」
八戒の態度に見かねたのか、三ツ谷が言葉を続ける。
「タカちゃんは考えたことないの?」
「オレは家族でハグするのと同じだと思ってるけど」
オレはルナとマナがデカくなってもする気だぜ。あっちが嫌がるかもしんねえけどな。三ツ谷は笑いながらそんな冗談を飛ばしていた。
「そうだね」
三ツ谷に合わせて八戒も笑う。
柚葉とだって、タカちゃんとするみたいなキス、したことないよ。
八戒はそう思ったが、口に出さなかった。
その内話が変わって、三ツ谷は今夢中で作っている洋服の話を始めた。八戒は三ツ谷が洋服に夢中になっている話を聞くのが好きだ。いくらでも聞きたいし、飽きずに聞いていられる。
しかしこの時の八戒は気もそぞろで、目の前の三ツ谷にさえ集中できなかった。
タカちゃんに彼女が出来ても? オレたちって今みたいにキスしてるの?
八戒の頭の中にはたくさんの疑問が浮かんで、答えが出ないまま消えていく。口に出して言葉にすれば、その答えはすべて三ツ谷が教えてくれると分かっていても、八戒は頭の中に浮かんだ言葉を吐きだすことはできなかった。
その後も二人は内緒のキスを続けていたが、八戒が浮かんだ疑問は解決されないまま、八戒の頭に残り続けた。頭に疑問が残ったままだと、八戒が三ツ谷に向ける視線も変わってくる。
八戒ほどではないが、三ツ谷もあまりに女の子の話はしない。興味がないわけではないが、そういう話題は照れ臭いようで、表立って話したりはしない。
八戒は三ツ谷になんでも話すが、三ツ谷は八戒が尋ねなければ教えてくれないことがある。三ツ谷自身は隠しているつもりはなく、八戒にいう必要はないだろうと判断してのことだが、三ツ谷の情報ならどんな些細なことでも知りたい八戒にとっては、その小さな“知らない”が時に不安を生むことがある。
三ツ谷に彼女ができた時も、八戒に話す必要のないことだと三ツ谷は思うかもしれない。八戒の知らないところで恋人ができて、八戒とキスをしていた時間が恋人とキスをする時間に変わって、八戒の知らない三ツ谷がどんどん増えていくかもしれないと思うと、八戒は胸の奥が掴まれたように苦しくなった。
「彼女ができたら教えてね」
八戒の唐突な言葉に三ツ谷が驚く。どうした? と三ツ谷が心配そうに見つめてくるのが、八戒は無性に悔しかった。
「べつにー」
八戒は知らんぷりを決め込む。なんだよそれーって三ツ谷がむくれるので、八戒は少しだけ胸がすく思いがする。
“彼女なんて作らないでね” 本当は、三ツ谷にそう言ってやりたかった。
でもそんなことを口にして、三ツ谷が「分かった」って答えるのも、「イヤだ」って答えるのも、八戒はすごく嫌だと思った。
最近の八戒の日常は、嫌だって思うことが多くなった。
三ツ谷が東卍の誰かといるのも嫌で、三ツ谷が八戒の知らない誰かと仲良くしているのも嫌だった。
八戒は自分の知らない三ツ谷が増えるのが嫌で、そんなことを考えてしまう自分のことも嫌になった。
三ツ谷といると楽しいことしかなかったのに、八戒は苦しい思いをすることのほうが多くなった。それは二人きりでいる時でもそうで、三ツ谷と八戒が二人きりで話すように、八戒の知らないところで三ツ谷と二人きりで話す人がいるかもしれないと思うと、八戒は特に嫌な気持ちになるのだった。
嫌だと思うことが積み重なっていくと、八戒は胸が苦しいと思うことがますます増えていった。その痛みは次第に深く心へリンクしていき、いつしか嫌だと思うと同時に苦しく感じるようになった。
胸の苦しみが長く続いていると、八戒はふと思い出す。苦しくてたまらない感情は、愛だということを。
あー、そういうこと?
八戒は複雑ななぞなぞが解けたような納得感があった。
オレ、タカちゃんを好きになっちゃったってこと?