理屈じゃない3


トレーニングルームでの出来事以降、燈矢は家に帰ってくるようになった。冷はきちんと家で食事をすることに安心し、兄弟たちは兄と共に過ごせることを喜んでいた。
燈矢は父の言いつけを守る代わりに、父と二人きりになることをせがんだ。のらりくらりとかわしていた炎司だったが、期待する燈矢に対し、あんなことはできないとはっきり断った。わかった、と燈矢はすんなり父の言うことを受け入れると、再び家に寄り付かなくなった。
家族は目に見えて沈んでいた。燈矢が外で何をしているのか、家族は誰もわからない。幼い頃は兄弟仲良く遊んでいたものの、今ではまともに会話もしなくなっていた。兄弟はみな兄を慕っていて、大きくなった今でも、些細なことでふざけあったりしたいのだ。
家族六人、賑やかだった食卓が再び静かになった。騒がしかった分だけ静かになった日が際立って、ずっと燈矢がいなかった日々よりより寂しい夕食となった。
再び家族の団欒を取り戻そうと思った炎司は、夜遅く帰ってきた燈矢を捕まえて、悪かったと小さく謝罪した。自分さえ我慢すればいいと思った炎司は、燈矢が求めるものを聞き入れることにした。
いいんだな、と燈矢はにこりと笑い、父の手を取ると、炎司を自室へ引っ張り込む。あの日と同じように組み敷かれた炎司は、己に触れて、目の前で自慰行為をする燈矢を、ただじっと見つめていた。
燈矢は父の帰宅時間に合わせて家に帰ってくるようになった。風呂に入り、皆が寝静まった後、炎司は床の間を抜け出し、燈矢の部屋に入った。二人はなるべく音を立てないように息を潜め、しかし部屋には二人の熱気が毎夜のごとく充満していた。
炎司はいまどきの若者の考えていることがわからない。それは仕事でも部下によく指摘されることだった。職場では優秀な部下に囲まれ、足りないことは補ってもらえるが、自宅に戻り、家族の前ではそうもいかなかった。
炎司は燈矢と共に、家族に秘密の時間を過ごすたび、残悪感が募っていった。食卓で笑う家族の裏では、決して知られてはいけない夜があるなんて、炎司は家族に対して大きな裏切り行為をしているような気になった。
ある夜、耐えきれなくなった炎司が、燈矢のベッドに横になって尋ねた。燈矢は、お父さんのことが好きなのか、と。
はァ? と燈矢は父の言葉に驚きながら、しらけた顔をした。てっきり、自分のことが好きなのだと思っていた炎司は、嫌悪感を露にする燈矢に目を剥いていた。
「好きなわけねえだろ」
燈矢の言葉ははっきりとしていた。
「じゃあ、どうして……こんなこと」
燈矢は苛立つように頭を掻いて、食い下がる父の相手を面倒臭そうにしていた。
「お前じゃねえと勃たないって言ったろ」
それだけだ、と燈矢は言って、脱がせた服を父に投げつけた。


2021/03/23