理屈じゃない7
燈矢が自分の異常性に気付いたのは中学の時だった。燈矢には心を許せるような友はおらず、何となくつるむようになったクラスメイトと、なんとなく毎日を過ごしていた。
ある時、仲間の一人が、家族の部屋からグラビア雑誌を持ってきた。水着を着た美女が微笑むだけのそれは、思春期の彼らを魅了するには十分で、燈矢がつるんでいたクラスメイトたちはその日を境にいやらしい写真を持ち寄るようになった。
年頃の男子が集まっていると悪ふざけも起きる。仲間の一人が、それらの女体の中にある一枚の写真を忍ばせた。それはゲイ向けの男性グラビアで、物珍しさとふざけ半分で潜り込ませたものだった。仲間はそれらを見て笑い、気持ち悪いと軽口を叩く。しかし燈矢は、その写真をみてから今まで感じたことのない感情が湧き上がっていた。
燈矢は相変わらず無言で、その場では特段反応を示すことはなかったが、その日一日、仲間が持ってきた男性グラビア写真が頭から離れなかった。
自宅に戻り、自室にこもり、燈矢はベッドに寝転んでみたものの、いつまで経っても落ち着かなかった。胸騒ぎにも似た胸のドキドキが収まらず、体の芯から熱が溢れてくるような気がした。燈矢は恐ろしくなって、恐怖から逃れるように体を丸める。そしてその時、自身の股間が、わずかに膨らんでいることに気が付いた。
燈矢は疼く体から逃れるようにズボンと共に下着を下ろす。むき出しになった性器が外気に触れて、その冷たさに体が震えた。だが僅かに膨れた性器をそっと握りしめると、その温かさに全身が粟立つ。燈矢は握った手を自然と動かしていて、そのスピードは徐々に早まっていった。たかが握った手を上下させるだけで燈矢の息は荒くなって、ペニスはますます肥大化していく。高まる性感はすぐに頂を望み、白い液体となって吐き出された。興奮のあまり何が起きたかわからなくて、湧き上がる熱がもう一度燈矢に性器を握らせる。二度、三度と射精した後、燈矢は疲れ果てていつの間にか眠りについた。そしてのちに、それが精通だったのだと知った。
学校から帰ると、燈矢は与えられたスマートフォンで男性のいやらしい画像を探すようになった。毎日毎日飽きもせず、自分が思い描く男を求めて燈矢はインターネットの海を彷徨った。体格がいいほど好みで、さまざまな言葉を検索にかけては、燈矢は夜毎湧き上がる熱を収めた。学校ではいまだ仲間たちの集まりが続いていて、燈矢は興味のないふりをしながら、よほどませた行為をしている自分が嫌になった。それでも衝動は抑えきれず、燈矢はますます友達や家族と距離を取るようになった。
右手の恋人に相応しい相手を探す時、それが父に似ていると気付いたのは、随分経ってのことだった。
燈矢は集めた画像や動画を並べ、それらがどれも父の姿に似ていることに驚きながら、同時に合点のいく思いがした。
父や兄弟たちに対して、燈矢がわだかまりを持ったのは随分昔の話だ。燈矢にとっては懐かしく感じるほどの思い出に過ぎず、いまや弟たちとじゃれあう姿を見ても何も思わない。まして恋をするように父を好きになるなど、燈矢はまったくもって考えもしないことだった。
しかしそう思っても、燈矢の体は父の姿に反応した。それは自覚すればするほど根深くなって、いつしか燈矢の体は父にしか反応しなくなっていった。
今では信じられないことだが、燈矢は幼い頃、父の周囲に嫉妬ばかりしていた。父の隣を誰にもとられたくなくて、兄弟たちを泣かせたこともある。それは確かに事実だが、今の燈矢にそんな意識はない。だが燈矢に染みついた父への感情が、無意識下で父の体を求めている。家の廊下ですれ違う父を、燈矢はいつの間にか目が離せなくなった。
その内、燈矢は開き直って、隣の部屋である父の書斎を想って自慰に耽るようになった。男がいつまで自慰をするのか調べて、父のその姿を想像した。母としたセックスにも興味が湧いて、燈矢は棚に片付けられているアルバムを引っ張り出した。若い頃の父を見ながら、燈矢は腰を振る父の姿を想像して何度も抜いた。
ふっ切れた後は精神的に楽になった。父を穢すことはひどい快感を生んで、燈矢はその行為を何度も繰り返した。
燈矢は父のあられもない姿を想像して射精するたび、頭がおかしくなった自分を自嘲気味に笑った。だがそこに罪悪感はなくて、燈矢はただ晴れやかな気持ちになっていた。
2021/03/23