理屈じゃない13
注意!!
燈矢のことが好きなモブ女が出てきます!!
燈矢は女に対して感情は無です。
子供の頃に父を好きだったことをずっと引きずってる燈矢と、父親になりきれなかった炎司が今になって父になりたくて奮闘していた話。
一旦これで終わりだと思います。
途中、書きたいなあ〜と思っていたエロを結局書いてないので、お互いがどう思っているのか抜けていたり、どういう感情の流れでこうなったのかがわかりにくいかもしれません。
そして私もカットしたせいでうまく繋がっているか不安になっているところがありますが……いい感じにまとまっていることを願います。
* * *
タバコサイズのメタリックな箱を片手に炎司は震えていた。掴んだそれを感情のまま握り潰してしまいそうになるのを堪えながら、息子の燈矢に見せつける。燈矢は炎司の持つそれを凝視した後、平然とした顔でなに? と尋ねた。炎司は怒りで言葉がうまく出てこなかった。
炎司の持つそれは、燈矢の同僚である女の子が持ち込んだものだった。三日前、いつものように終電がなくなるまで飲みに付き合わされた燈矢は、介抱しろという先輩の指示により女の子を連れて自宅へ戻ることになった。
仕事先での燈矢は、高校時代のようになるべく地味に、大人しく過ごしていた。人との深い関わり合いは求めていなかったからだ。しかし、燈矢のその見た目はどうしても目立つ。よく見ると美しい瞳が隠れていたことに気付くと、老若男女問わずそのミステリアスさに惹かれるものだった。
大きなきっかけは職場の寮から出たことである。自宅が変わるのだと住所変更を申し出ると、新しい住まいはこの辺りでは有名なタワーマンションではないか。
元々燈矢が気になっていた同僚の女の子が食いつくのは早かった。
燈矢君の家、行ってみたい。馴れ馴れしく下の名前で燈矢を呼ぶのはその女の子くらいである。
職場の先輩もその女の子の発言に乗っかり、遊びに行きたいと騒ぎだした。あんな立派なマンションに住んでいるなんて一体どんな暮らしをしているのか、先輩たちは単純な興味があった。
もちろん燈矢は他人を家に招くつもりはなく、嫌だと断ったのだが、この度飲み会のどさくさに紛れ、燈矢にわかりやすいアプローチを続けていた女の子の相手をしなくてはならなくなった。
燈矢は酔いつぶれた女の子の後ろでニヤつく先輩の顔を見て、これが仕組まれたものだとすぐに察した。以前断った時のように拒否したかったが、他人を泊まらせる余裕のあるほど広い家に住んでいるのは燈矢くらいなものである。どうせ一晩寝かせるだけだと思えば、燈矢は嫌だ嫌だと押し問答することのほうがよほど面倒に思えたのだ。
かくして、巧妙な策により気になっている燈矢の家に潜り込んだ女の子の計算高さは侮れないものである。女の子は燈矢の家に向かってタクシーが走り出すなり、揺れを利用して燈矢の肩にもたれて接触を図った。酔っていることを免罪符にスキンシップを取る女の子に、燈矢は朝までの数時間がとても長いものになることを予見した。
タクシーが燈矢のマンションの前に止まると、女の子は自然と燈矢の腕を組んで歩く。まだ酔っていて歩くのがつらいのだという女の子に、燈矢はどうせ嘘だろうと考えていた。実際、部屋に着くなり寝る準備を始めた燈矢に、女の子は流暢にしゃべりだす。酔っていたんじゃないのかと燈矢が皮肉めいて尋ねれば、少し酔いがさめてきたのだと女の子はしたたかに返した。
燈矢は相手にするのも億劫で、女の子を早々に来客用の部屋へ案内すると、あとは自由にしろと言って自室に向かった。朝になればお役御免となり、燈矢はこの苦痛から解放される。
しかし燈矢のつれない態度をどうしても振り向かせたい女の子は、冗談交じりで燈矢の部屋に入り込んだ。今まさにベッドに入って寝ようとする燈矢の体にまたがると、女の子は色仕掛けという強硬手段に出る。
目の前にいる女の子がいつも以上にめかしこんでいたことに、燈矢はその時ようやく気付く。いつもより少し露出の高い服を着て、唇は艶めいていた。仕事終わりの飲み会だというのに化粧直しも完璧で、油断も隙もあったものではない。その上、女の子はいつもより弱々しい声で語りかけ、自分の魅力をアピールする。
ずっと気になってたんだ。そういって女の子は甘えた表情を浮かべる。してもいいよ、などと軽い口調で言いながら、きれいなネイルが施された白魚のような指で正方形の小さな袋をチラつかせる。
燈矢は目の前の女の子を冷静な目で観察していた。一般的な成人男子であれば、たとえ目の前の女の子を好きでなかろうとも、なし崩し的に枕を共にすることがほとんどなのだろう。それくらい女の子のストレートなアプローチはすさまじいものだった。
しかし燈矢は目の前の女の子に対して一切感情が揺れなかった。それどころかだんだんと気持ち悪いものとして見るようになった。胸につく大きな二つの脂肪と、華奢な肩幅、細い腕。触れた場所、触れられた場所はどこも柔らかく、男の体にはないものだ。
燈矢は肉体的にも精神的にもたくましい父に憧れ、好きになった。同時にその要素から遠い存在である母を許せず、ひどく軽蔑していた。夫を立てていると聞こえのいい言葉で誤魔化し、自己主張をしない母の姿は、燈矢にとって父に寄生するしかない弱者にしか見えなかった。
目の前の女の子と母の姿が被ると、燈矢は急に鳥肌が立ち、とても汚いものに触られているような気分になった。それは吐き気をもよおすほどの気持ち悪さで、女の子を見る燈矢の目がおぞましいものを見るような目つきへと変貌していった。
燈矢の目から侮蔑の感情を感じ取った女の子は、小動物のような可愛らしさを一変させ、燈矢の体の上から飛び降りる。野性的な勘の鋭さを働かせた女の子は、適当な言い訳をしながら自室へと戻っていった。
炎司が持っていたのはその時女の子が置いていったコンドームの箱だった。どこで見つけたのか、燈矢もその箱が家にあることに気付いていなかった。
「それがどうしたんだよ」
燈矢は純粋な疑問だった。燈矢の年齢からすれば、持っていてもおかしくはないものである。セックスはないものの、燈矢と炎司は散々肉体的ふれあいをしていたのだから、今更不純性交遊などと怒り出すのはお門違いのように思えた。
炎司が怒りに震えていたのは、その箱が開封されていたことだ。燈矢が知らない誰かと性的関係を持ったと勘違いしていた炎司は、燈矢に裏切られたような気持ちになっていた。
炎司は燈矢の言葉を信じていた。父でしか勃起しないのだと、まるで大きな病気を告白するかのような燈矢の姿に、それを事実だと裏付ける今までの行為。息子との肉体的ふれあいに悩んだこともあったが、今の炎司にとってはもう問題ではなく、むしろ息子と肉体的に繋がれることを誇りにさえ感じていたのだ。自分にしかできない役目なのだと思い、燈矢のためを思って炎司は献身的に尽くしてきた。
だがこの箱の存在は、そんな炎司の思いを踏みにじるものだった。燈矢が自分を頼ってくれるから、自分がいないとダメだから、それが炎司の支えになっていたのに、裏では年相応に恋愛をし、自分ではない誰かを抱いていたなんて許せなかった。
しかし燈矢にこの箱を見せつけ、それを見た燈矢の反応を見ていると、怒りに震えている自分がおかしいのではないかと炎司は思った。息子が父ではない誰かを愛し、体を重ねることは当然のことで、父としては喜ぶべきである。なぜ燈矢が自分以外の誰かを抱いていると知った時、これほど怒りが溢れたのか。
その疑問が頭に浮かんだ時、炎司は自分の思いをそのまま燈矢にぶつけることはできなくなった。まるで恋人のような独占欲を燈矢に対して抱いているなんて、決して知られてはいけないような気がした。
燈矢はコンドームの箱を持ったまま固まる父を不思議に思い、状況を整理していた。どうやら怒っているらしいことだけは分かるが、なぜこれほど怒っているのか。
燈矢は父に対して散々ひどいことをした。侮辱するような言葉・行為は数えきれず、上げていったらキリがない。しかし炎司は一度だってその仕打ちに怒ることなく、燈矢の行為を全て受け止めた。そんな父が怒りに震えるなど、燈矢は驚きが強かった。
「どうしたんだ、これ……!」
炎司は言葉を振り絞る。当たり障りなく、しかし自分が知りたいことを知れるような、そんな質問だった。
「女が置いてった」
表情一つ変えずに燈矢が答える。炎司はカッと目を見開いた後、ギリリと奥歯を噛み締めた。燈矢にとってこれは珍しいものではないんだと思った。
「どうして、俺に言わなかったんだ……!」
炎司は首を絞められたように喉が苦しくなって、言葉がなかなか出てこなかった。顔が真っ赤になり、鼻の穴が膨れていて、泣き出す直前の赤ん坊のようだった。
「は?」
「言っただろう……! 俺に……!」
燈矢はゆったりとソファーに身を預けたまま動かず、その対比が怒りに震える炎司を余計に見苦しいものにさせた。
「俺でしか、勃たないって……!」
炎司が半べそをかく理由を燈矢はそこで理解した。炎司は燈矢が誰かと寝ていたと思って怒っているのだ。
燈矢は勘違いをする父にバカだなあと思いながら、同時に炎司の発言に違和感を覚えた。父も自分と同じように、息子に対して親子以上の気持ちを抱いているのではないだろうか。
思えば燈矢は、この頃の炎司の行動にずっと奇妙さを感じていた。自分のペニスを喜々として咥える炎司は、本当に家で一緒に過ごしていた頃の父と同じなのかと。
燈矢が家を出るといって引き留めた時や、燈矢の居場所を探しだして初めてアパートに尋ねた時。あの頃の炎司は、まだ燈矢のよく知る父の姿であった。自分の立場を気にしたり、自分の目指す家族像を押しつけたり、確固たる自信からくる父の行動はとても身勝手なものだった。
だがいつしか、炎司は燈矢の知る父の姿ではなくなっていた。燈矢の無茶な要望に文句ひとつ零さず、粛々と従う姿は、気でも違えてしまったのかと思うほどだった。それは燈矢にとって、まるで父の体でしか欲情できなくなった、頭がおかしくなった自分を彷彿とさせるものだった。
そしてちぐはぐの日々は、怒りに震える炎司の姿によって、燈矢の中で一つの線となる。父も自分同様に壊れてしまったのだ。
燈矢は家族の中で自分だけが壊れていることをよくわかっていた。そのことで同じ血の通った人間であることを認めたくないほど嫌った時期もあったが、歳を重ねるうちにそれらもどうでもよくなった。父に欲情する壊れた自分はいつまでも治ることはなかったので、煩わしい家族関係を絶つことで、せめて平穏に過ごすつもりだった。
だが壊れた燈矢と共に過ごす内に、炎司も壊れてしまった。やっぱり距離を取るのが正しかったと燈矢は思ったが、それも後の祭りだ。気付いていないのか、隠しているのか分からないが、目の前にいる惨めったらしい父の姿だけで燈矢は痛いほど理解した。炎司の姿が、置いていかないでと父に縋った在りし日の自分の姿と重なるからだ。
「嘘じゃねえよ」
それは父を好きでたまらなかった幼い燈矢を思わせるほど、優しい声だった。
「俺は、ずっとお父さんだけが好きだよ」
燈矢は父をいたわるように見つめるが、それはひどい憐れみも持っていた。
炎司は燈矢の言葉に呆然とする。じゃあ、俺が手に持っているこれはなんだというのだ。
「職場の女が置いてった。俺も知らねえ。箱は開いてるかもしんねえけど、一個も使ってねえよ」
炎司は箱の中身を確認する。燈矢の言う通り、中身は一つも減っていなかった。
途端に炎司は恥ずかしそうに俯く。燈矢への独占欲を隠したままで、自分のしたことを燈矢になんて説明すればいいか分からない。
燈矢は立ち上がり、佇む炎司に近付いた。炎司からの説明がなくても、今の燈矢には炎司の考えていることが手に取るように分かる。
「俺が誰かといるのがイヤだった?」
燈矢の言葉を聞いても炎司は顔を上げなかった。燈矢は炎司の空いた手を掴むと、ぎゅっと強く握ったまま、俯く父の顔を覗き込む。炎司はいたたまれないというように苦い顔をしていた。少しでも存在を消したいのか、炎司は背中を丸めて小さくなっている。
「お父さん、俺もだよ。俺も、お父さんが俺以外の人と一緒にいるのがイヤだよ」
燈矢は父の思いを代弁するように言う。炎司は鼻がツンとして、堪えるように体を強張らせた。
燈矢は背伸びをすると、炎司の頭を柔らかく撫でた。あやすように撫でられた炎司は、燈矢の優しさに触れた気がして、我慢していた涙が溢れそうになっていた。
燈矢は炎司の手を握ったまま、奥の部屋へと引っ張る。炎司は親に手を引かれた子供のように燈矢に黙ってついていった。
引っ張られた場所は燈矢の寝室だった。燈矢と触れ合う時はいつも玄関やリビングだったので、炎司が寝室に足を踏み入れるのはそれが初めてだった。
燈矢は父と共にベッドに上がる。ほとんど目線が一緒になった。燈矢はじっと炎司を見つめる。炎司の瞳が再び潤んだ。
燈矢は父の額に口づけた。炎司の額には唇の柔らかい感触が残った。二人はぱっと目があって、炎司は胸がどきっとした。今までは確かに息子でしかなかった燈矢を、炎司は初めて息子以上の存在と認識した。
すでに触れ合ったこともある二人が見つめ合えばキスをするのが必然で、炎司は黙って瞳を閉じて息子の唇を受け入れた。
燈矢にトンっと体を押され、その力が強いわけでもないのに炎司は簡単に後ろに倒れた。燈矢が着ていたTシャツを脱ぎ捨てるのを見て、炎司はまた胸がドキドキしていた。
「いいよね、お父さん」
燈矢は最終確認をする。もちろん炎司の返事はイエスだ。息子からまっすぐに向けられる気持ちをこれほど嬉しく思ったことはなかった。
燈矢は父に対して辛辣な態度をしてきたし、その中には性的関係の強要も含まれていたが、一線を越えるまではしなかった。親子の縁を切りたいと思っても、燈矢は無意識でそれはできないことだとわかっていた。
いくら父に対して性的な感情を抱こうとも、それは許されるべきことではない。だからこそ距離を取った。その努力を当事者である炎司に無下にされても、燈矢はその姿勢を崩すつもりはなかった。
いつから狂い始めたのか。目の前で頬を染める父を見て燈矢は懐かしむ。
やはり理性を抑えようとも、本能が父を求めてやまなかったのは事実で、自分と距離を縮めたいと思う父の思いが、燈矢はどこかで嬉しかったのかもしれない。
燈矢は父の服を脱がせ、二人は裸で見合っていた。何度もその体を見たし、それをオカズに抜いてきたが、いざセックスをするとなれば随分見え方は違っていた。これから父が俺だけのものになるのだと思うと燈矢は熱の昂りを抑えきれず、興奮のまま獣のように噛みつきたくなる衝動に駆られた。それでも燈矢は自身の獰猛な感情を隠し、あくまで父と子の深いつながりである体を崩さなかった。炎司はまだ息子に対して独占欲が芽生えたばかりで、ともすればそれを錯覚だといって片付けてしまいかねないからだ。
燈矢は炎司の体に触れ、湿度を持った指先で胸の突起を擦った。炎司は恥ずかしがりながらも燈矢の指遣いをじっと見ていて、股間はそれに反応するように少しずつ大きくなっていた。
自覚的になる前の炎司は、いくら燈矢が体に触れても、自分とは無関係だと言わんばかりに目をそらしてばかりだった。だが目の前にいる炎司は、これから父と息子がセックスすることを理解し、受け入れている。燈矢は炎司の意識が変わっていると確信した瞬間、早く父と一つになりたいと強く思った。
燈矢は父の足のつけ根に手を伸ばし、尻の割れ目にそって指先を這わせた。指先が小さな窪みを見つけると、燈矢はその場所をすりすりと優しく撫でる。指先にそこをよく覚えこませると、触っていた指をべろりと舐めて濡らした。興奮して溜まっていた唾がべっとりと指につくと、燈矢は再びその指先を炎司の尻の奥に伸ばした。
唾液を擦り込むように撫でつけると、穴に向けて指先を立てる。少し力を入れて押し入ろうとしたが、ほんの少し頭が入り込んだだけで、指の第一関節も入らなかった。
それから何度か、こじ開けようと手を尽くしたが、ろくな潤滑剤もなく、初めて同士の二人では挿入なんて程遠いものだった。多少の痛みならお互い我慢もできたが、指も入らないのでは問題外である。そもそもセックスをするなんて急な話で、炎司は下準備もろくにしていない。燈矢は多少汚れてもかまわないほど今この時が大事だったが、気持ちだけではどうにもならないこともある。
少し気まずそうにする炎司に、このままでは気持ちまで萎えてしまうんじゃないかと燈矢は思った。それほど二人が今一つになることは大事なことなのだ。
燈矢は炎司の両足を一つにまとめると、決して足を開かないようにと言いつける。炎司はよくわからないまま首を縦に振った。
燈矢は父の揃えられた足のつけ根に自身のペニスを挿入した。炎司の肉厚の太ももをかき分けて、先走りで濡れた肉棒がにゅるりと挟まった。
あ、と炎司は思わず声が出る。燈矢は挿入を諦め、スマタをしているのだ。
炎司の膨らんだペニスと燈矢のペニスが上下に重なる。二本の肉棒の先端が炎司の顔に向いていた。
燈矢が腰を動かすたび、重なった性器がずりずりと擦れる。裏筋から敏感な亀頭まで、いったりきたりを繰り返す。互いの先走りがとぷとぷと溢れ、擦れるたびにぬるぬると混ざり合う。気持ち良さと、腰がぶつかる激しさから、閉じていた足がぱかりと開いてしまいそうになるのを、炎司は手で掴むことで何とか堪えていた。ピストン運動が回数を重ねると、それに合わせてぐちゅぐちゅといやらしい音が増していく。ふう、ふうと互いの呼吸が荒くなって、挿入はなくとも二人は間違いなくセックスをしていた。
炎司はこの行為の最中、どこかでこれを後悔する瞬間がくるような気がしていた。だがそんな瞬間はただの一度もおとずれなかった。やはり自分はダメな父親だったのだと炎司は思った。
炎司は子供たちの中で燈矢が特別自分を慕ってくれていることをわかっていた。一番初めにできた子供が、仕事ばかりで家を空けることが多い自分を、これほど好いてくれるなんて夢の様だった。
だが夢のような日々は続かなかった。職場や子育てをする上で、炎司の理想通りにはいかない現実があり、燈矢にかけられる期待に応えられないという後ろめたさがあった。父のようになりたいと燈矢が言うたびに肩に乗る荷物が重くなって、いつしか炎司は燈矢から目を背けるようになっていた。
しかし燈矢は、そんな炎司でも好きだと言った。立派な父親とは程遠い炎司を、何度だって完璧だと言ってくれた。なぜそれを忘れていたのだろうと、炎司は深い後悔をした。
燈矢に抱かれるうちに、炎司の後悔は決意へと変わっていった。今度こそ燈矢を幸せにしたい。一緒に幸せになりたいと思った。
燈矢の細い腕が炎司の体を抱きしめる。きっと終わりが近い。炎司は寂しくなった。もっと長い時間、燈矢と繋がっていたいと思った。
一方、燈矢の熱に満たされ、幸せそうにする父を見て、燈矢はずっと可哀そうだと思っていた。きっと今二人の間に永遠の愛があると父は錯覚しているからだ。
燈矢は知っていた。愛を信じて、愛に尽くしても、身勝手なタイミングで捨てられる時があることを。こうして肉体が父を求めても、もう幼い頃の自分のように、心から父を求めることはできなくなっていることを。
燈矢にとって父は呪いだった。父との思い出は過去であり、当時の自分と今の自分はまさしく別人だ。だが幼い頃に形成された根っこが、父を求めてやまない。たとえどれほど憎んでも体が父親に反応する。女の体を見てもうんともすんとも言わなかった性器が、今までの人生で一番張りつめて痛いくらいだった。
燈矢は自分にかかった呪いを解くように父を抱く。身勝手な呪いが愛の言葉を求めれば囁く。そうして自分が楽になるのであれば、燈矢はそれ以外どうでもいいのだ。
欠陥品同士の凹凸が重なって一つになる。血を分けた親子とはそういうものなのかもしれない。気持ち良い? と燈矢が炎司に尋ねる。気遣ってくれる燈矢の気持ちに炎司はまた嬉しくなる。
「気持ち、良い……ッ」
燈矢の思いも知らずに炎司が無邪気に答える。
とうや、すき。すきっ。
乱れた呼吸の合間に炎司が涙ながらに訴える。
無垢な感情をぶつけられ、燈矢は幼い頃の自分を思い出して気分が悪くなった。
さっさと射精してしまいたい。そしてこの不毛なセックスを早く終わりにしたかった。
完
一旦おしまいです。ありがとうございました。
理屈じゃない、というタイトルは、燈矢が炎司にだけしか反応しないことは理屈じゃ説明できないってことを言いたくてつけました。
燈矢的にはもう炎司を好きだったことはふっ切れてるんですけど、ふっ切れてるはずなのに体とか本能はいまだに炎司を引きずってて、こんなの説明できねえよーって感じです。燈矢は困っています。
炎司を好きなわけじゃないけど体貸してくれるなら抜けるしいいかーって相手してたら、炎司が今更燈矢♡ってなってしまい、あーあ、って思いながら、まあそれはそれでいいか、ってなってくんじゃないかなと思います。
2021/07/18