並行世界
原作世界が”ある世界”の俺、みたいな設定の荼炎。
この世界では炎司と燈矢(荼毘)は血縁関係じゃない。この世界の炎司は離婚し、金銭的困窮から夜の世界へ。
そこで客として出会った男が、別世界の自分の息子にそっくり(燈矢)だった、という話。
そこまでエロくないです。
* * *
この世界には占いのように信じられている信仰がある。並行世界という概念だ。世界は同時にいくつか存在し、別の世界の自分は全く同じ身を持ちながら、違う生活を営んでいるという世界だ。たとえこの世での自分が成功していなくても、別の世界の自分は成功しており、また別の世界ではもっと不幸になっている、と考えることで、この世界での苦しみから逃れることができるという考えだ。
それは炎司の生きる世界に根付く信仰で、どれほど信じるかは様々である。デジャブは別の世界の自分が体験していることを思い出していると考えられており、夢の中で起きる出来事もまた別の世界の自分の現実だと考えられている。
炎司は時折、自分がある世界でヒーローという職についている夢をみる。その世界は警察とは別にヒーローという正義が存在し、個性という能力をつかって悪い者を捕まえる。ヒーローは芸能人のようでもあり、人気やその能力によってランキング付けされる。
炎司はその世界で長いことナンバーツーに甘んじている。その夢はいつも断片的で、少しずつ時間が経過する。その世界の炎司はナンバーワンになるために様々な努力をするが、なかなかその夢が叶わないようだった。
現実世界の炎司はというと、最近正式に家族と離婚をした。家族とは十年近く別居をしているが、炎司は子供たちが成人するまではと離婚を先延ばしにしていた。だが末の子が高校生になったことを機に、先日妻が離婚届を提出した。
炎司はとある企業で役員をしている。収入は多いほうだが、ほとんどは養育費や慰謝料で消えていく。ヒーローをする別世界の自分が家庭を崩壊させていく様を見ていた炎司は、そうはなるまいと奮闘したものだが、結局思いは叶わなかった。
離婚が成立して間もなく、炎司の会社で粉飾決算が発覚した。テレビニュースでも取り上げられ、株価は一気に暴落。倒産は免れたものの、炎司は対応に追われて疲弊し、収入は大幅に減少した。
家族がいれば、この危機的状況も支え合って解決できたのであろうが、今の炎司に手を差し伸べる者はいない。たとえ離婚前だとしても、家庭を蔑ろにしていた炎司を助けてくれたかどうかは想像に難くない。
炎司には子供が四人いる。皮肉にもヒーロー世界にいた炎司と同じだった。家庭を顧みることができなかった炎司が悪いのだが、肩に乗る養育費は重い。
しかし約束を反故にするほど、炎司も落ちぶれてはいなかった。家族とは不仲のままだが、この関係を軽んじているわけではない。ここで最後の約束まで破るようでは、今後父として子供たちに顔向けできないだろう。
炎司は賄えない分を補うため、副業を始めることにした。
金の稼げそうなことはなんでもやった。限られた時間の中、本職に支障が出ないように働き、その上収入がいいものとなると、仕事は次第に限られていく。
炎司は夜の街に出て、体を売ることにした。アダルトビデオの男優にも誘われたが、こちらは丁重にお断りした。顔が表に出てしまうのは避けなければならなかった。
炎司は瞬く間に夜の街で人気者となった。炎司はヘテロセクシャルだったので、男相手に勃起することはできず、ウケ役のみだったが、ノンケだということはウリにもなり、毎日毎日様々な人たちを相手にした。ウケのいい容姿に、幅の広いプレイ内容で、稼ぐために入れた出勤率の高いシフトはすぐに予約でいっぱいになった。
プレイ内容の幅が広いのは、そのほうがたくさん稼げるからだ。ノンケなのにマニアックなプレイにも応じてくれるところが珍しく、炎司はすぐに店のナンバーワンとなった。
ヒーロー世界の自分がどれほど焦がれてもなれなかったイチバンに、業界は違えどもすぐに上り詰めてしまったことを皮肉に思いながら、炎司は夜毎男相手に股を開いた。稼いだ金はすぐに養育費に消えていき、炎司は先の見えない生活を続けながら、それでも前向きに日々を過ごした。
炎司が夜の仕事に慣れた頃、若い客から指名が入った。炎司はとても人気があったため、単価が上がり、徐々に指名する客が限られるようになった。二十歳そこそこの新規の客はめっきりと減ったため、炎司は珍しいと思いながら予約の日を迎えた。
指定されたホテルは店が契約している中でも一番安いもので、とても古びた外観をしていた。部屋の一つ一つは狭く、アメニティも最低限のものしかなかったが、リフォームされて綺麗だった為、炎司はそのホテルが嫌いではなかった。受付は年配のおじいさんで、距離を置いた対応が居心地良く、売れっ子になってからは利用することがすっかり減ってしまったか、炎司は駆け出しの頃を思い出してノスタルジーな気持ちになった。
炎司は先に待つ客に到着した旨を示すメールを送ると、部屋のインターホンを鳴らした。ドアはガチャリとすぐに開き、炎司がいつものように挨拶をしようとしたところ、そのドアの前に立つ男を見て凍りつく。なぜか相手の男も同じように固まっていて、二人はドアを開けたまま一瞬動かなかった。
「……どうぞ」
先に声を出したのは客の方で、炎司は踏み込むことを躊躇したが、「よろしくお願いします」と小さく答えて部屋の中に入った。
炎司はリュックサックをソファーの上に置き、コートを部屋の隅にあるハンガーラックへかけた。客の男はベッドに座って待っていて、炎司は胸をドキドキさせながら男の隣に座った。
炎司を指名した客は顔が爛れていた。だが炎司はそれに驚いていたわけではない。その男が、ヒーロー世界の自分の息子と瓜二つだったからだ。
並行世界信仰とは不思議なもので、別世界で見た人物を、現実世界でも見たりすることは珍しいことではない。それは現実世界で見たことある顔を、頭のどこかで記憶し、無意識の内に登場人物として組み込んでしまうなど、原因は諸説あるが、たまたま互いに別世界の記憶を持っていたりすると、それがきっかけで深い仲になり、男女であれば結婚に至ることもある。
炎司と目の前の客の場合は家族だった。二人は親と子の関係であり、ヒーローと敵対するヴィランという関係でもあった。ヒーロー世界の炎司は息子にひどく恨まれていて、炎司の教育を原因に、長男が犯罪を起こすことになる。
それが現実世界の二人の話ではないことは百も承知だが、炎司にとっては気まずかった。炎司は別世界の自分を、本当の自分のことのように感じていたからだ。並行世界信仰らしく、あの世界の自分は、ありえたはずの自分なのだと。ただ、信仰というのは人それぞれで、大真面目に信じているといえば、馬鹿らしいと笑う人もいるだろう。
「嫌だったら答えなくていいんだが……それは、火傷か?」
そうはいっても、炎司の持つ別世界の記憶を、目の前の男も持っているかはわからない。並行世界は複数存在し、不幸である自分も、幸せである自分もいる。時代も環境もその世界によってバラバラだ。
炎司は探りを入れるように、男の特徴的な容姿であるそれについて尋ねる。
「ああ、これね。子供ん時、遊んでたらボヤ騒ぎ起こして。その時の火傷でさ」
炎司はほっとした。別世界の息子も同じく火傷をしていたが、この男とは理由が違っている。目の前の男は、紛れもなくこの世界に住む、炎司とは関係のない人間だ。
「さっき……ドアの前で、君も私の何かを気にしていたようだったが」
「ああ、さっきの。あまりに好みだったから、驚いただけ」
男はそう言って炎司の頬に手を添え、ちゅっと優しくキスをした。
なんだ、ただの客じゃないか。炎司は安心して、その男のキスを受け入れた。
炎司が男の服を脱がせると、その火傷は全身に広がっていた。一瞬手が止まったのは、やはりその姿も別世界の自分の息子を思い出したからだ。
「それ演技ですか?」
炎司はなにを、と思った。
「初めてじゃないですよね?」
覗き込むように見つめてくる男に炎司ははっとする。炎司が男の体をこわごわと触るので、男にしてみれば恥ずかしそうにするウブな少女に見えるらしい。
違いますよ。炎司は作り笑いを浮かべて誤魔化した。
そうですよねえ! 男が恥ずかしそうにしながら軽く笑った。
「ナンバーワンですもんね」
男の言葉に引っかかり、炎司の笑顔が引きつった。含みのある言葉に聞こえてしまうのは、ただの考え過ぎだ。
「触りっこしましょうか」
男は緊張を解そうと、優しい手つきで炎司の服を脱がし始めた。客に体を触られるのも、服を脱がされるのも慣れている筈なのに、炎司は居心地が悪くてたまらない。
立派な体ですね! 男は炎司をよく褒める。
はは、まあ………。謙遜するように炎司が反応した。
そっと指先が伸びてきて、炎司の太い腕を撫でる。炎司はビクリと体を震わせたが、また男の興を削いでしまうと思い我慢した。筋肉の筋に沿うように男の指先が伝い、炎司は気を紛らわせる為に視線を外す。男の爛れた皮膚が炎司の体に優しく触れるたび、炎司は怯えるように小さく体を揺らした。
「嫌でした?」
一向に慣れない炎司を男が気遣う。驚いただけだと返してみるが、誤魔化しきれない。
「じゃあ舐めてください」
男はそう言って、炎司に心を開くように両手を広げた。股の間に招き入れるように身を曝け出され、炎司が男に導かれるまま近付いていく。
炎司は男のズボンを下着ごと脱がし、半勃ちになったペニスに顔を近付ける。男の火傷は陰部まで及んでおり、遊んでいた時のボヤが原因だと言った割には大きな火傷だと思った。
炎司がペニスを前に躊躇すると、「早く」と男が急かす。まだ相手が息子のように思えている炎司にはいたたまれない状況だったが、意を決してそれに食らいついた。
口の中にペニスが入っているというのは、これほど気持ち悪いことだったかと、炎司は久しく考えていなかったことを思い出した。口の中に含んだ瞬間、ペニスの先端から先走りがとぷりと溢れ、炎司の口の中を汚した。生臭い液体が口の中に広がり、その妙な味で炎司は気分が悪くなる。耐えきれずに一瞬顔を顰めてしまい、炎司はすぐさま自分の失態を恥じた。いつもなら相手を喜ばせるように、興奮を煽りながらそのテクニックを披露するところなのだが、やはりこの男相手にはいつものようにはいかなかった。
なんとか気付かれないようにと努めたが、炎司が苦い顔をしたのを男は見逃さなかった。もういいよ、と素っ気なくされ、炎司はプロとして失格であるとますます自分が情けなくなった。
何一つ満足にできない炎司に男が呆れる。それは当然のことだと炎司は俯いた。
勝手にやるから。男はそういうと、炎司を押し倒し、その足を掴んだ。強引に股を開かせようとするので、驚いた炎司は男の手を振り払う。セックスをする為に呼ばれたと言うのに、炎司は反射的にそれも拒んでしまい、すっかり八方塞がりになった。
冷静だった男も耐えかねたのか、不機嫌そうな顔をして、炎司は事の重大さにようやく気付く。こればかりは従うしかないと、炎司は恐る恐ると股を開いた。
客の男を前に、炎司は本当の息子にあられもない姿を晒しているような気分になった。なにせ炎司は、もう十年ほど自分の子供たちの顔をまともに見ておらず、並行世界の自分の息子のほうが顔を覚えている始末だ。
炎司は恥ずかしさや情けなさを堪え、男の前で熟れた体を見せるが、男の顔は見れなかった。男がまたウブだねというが、今度は当て擦りであり、炎司は余計に惨めな気持ちになった。
別のことを考えて、炎司は目の前のことから意識を逸らそうとする。炎司は自分が初めて体を売った日のことを思い出していた。その時もとても恥ずかしい思いがしたし、見知らぬ男に触れられることが不快であったが、これは仕事なんだと割り切り、いっそ知らない相手だからこそ、何を見られても恥にもなるまいと吹っ切ることができたものだが、今回の場合はそうもいかなかった。どうしても息子に見られている気分が抜けず、炎司は早く終わって欲しいと願うばかりだった。
「なんだ、しっかり開発されてるじゃん」
男は炎司の尻を掴むと、容赦なく左右に広げ、その奥に潜む蕾を覗き見る。大きく縦に割れたアナルは、尻を引っ張られただけで皺が伸び、物欲しそうに大きな口を開けていた。ヒクヒクと震える盛り上がった縁が卑猥で、男の軽快な調子が一転する。潤滑剤のボトルを取り、ぼたぼたと荒々しく手に落とすと、炎司のゆるんだアナルに指を突っ込んだ。
「っい゛ぃ゛」
ひどい圧迫感に襲われ、炎司の息が詰まる。感覚からして、複数の指を一気に突っ込まれたのだと察したが、日々慣らされている炎司といえど、痛みがないわけではない。ブジュ、ブプッ、と潤滑剤のボトルから空気の漏れる音がするので、繋がっている場所へ足されているのだろうと思ったが、ぐりぐりとほじくられる様に中を掻きまわされると、炎司の瞳にうっすら涙が浮かぶ。
「ううッ、う、っふ、ぅう゛ッ」
炎司は痛みから逃れるように呼吸を繰り返し、男の愛撫を受け入れる。プロとして、ここまで何一つ相手を喜ばせてあげられていないのだから、これくらい我慢しなくてはと必死だった。苦しいさまを見せないように、炎司は照れ臭さを装って手で顔を覆った。涙ぐむ姿を隠し、これ以上男を萎えさせてはいけないと思った。
「ぁっ……ンッ……ぁあッ……あっ、あ」
次第にその指の太さに体が慣れてくると、炎司は甘い息を吐くようになった。開発された炎司の体は男の乱暴な指遣いでも気持ち良くなって、アナルの中がとろとろと解れていく。熱い直腸が男の指に絡みつき、掻き回されるたびにクチュクチュといやらしい音が立つ。広がった炎司のアナルに合わせ、男の指が前後し始めると、グプグプと空気が出入りする音が大きくなった。
「あっ、あっ、」
涙ぐむ顔を覆っていた手の下は、すっかり恍惚の表情を浮かべている。いやいや開いたはずの股は、男の愛撫を求めるようにだらしなく開いていく。炎司の弱みを虐める男の指が、ぬぷりぬぷりと引き抜かれるたび、炎司の腰がいやらしく浮いて、抜かないで欲しいと頼み込むように揺れていた。
やっぱり、ナンバーワンだね。男が独り言のように呟き、快感に流されていた炎司の頭が一瞬我に返る。どこか棘のある言い方をされたような気がして、没頭していた快楽から呼び戻される。それでも、そう思うのは自分が並行世界の記憶を持っているからであり、男にはなんの意味もないはずだと言い聞かせた。
「お父さん、って呼んでいいですか」
男は炎司のアナルをぐちゃぐちゃにしながらいう。
「えっ、アッ、あッ、なんッ、でッ」
まだあなたの名前を覚えられてなくて。
男はそう言って炎司の前立腺をぐいと押した。炎司の体にビリビリと痺れるほどの快感が襲って、思考力を奪われる。
男の言い分もわかる。まだ会って一時間も経っていない。名前を呼び合うような雑談も、挨拶もなかった。
「俺、好きな人のこと、お父さんって呼んでるんです」
あ、本当のお父さんじゃないですよ。
驚く炎司をみて、男が補足する。
「ね、お父さん」
男は優しい声で語り掛けながら、炎司の体のイイところを的確に突く。はじめは乱暴だった指遣いが嘘のように、深いストロークをゆっくりと繰り返し、ほぐれた内壁を擦るように行き来する。
男は気持ち良いところを教えて欲しいなどと言いながら、炎司のことを何度かお父さんと呼びかけた。客の要望だからと黙っていた炎司だったが、やはりどうにもきまりが悪い。別世界とはいえ、炎司にとって目の前の客は自分の息子も同然だった。そんな相手からお父さんなどと呼ばれながらセックスをするなど、とても耐えきれるものじゃない。
炎司は男を怒らせないようにしながら、やっぱり……と枕詞を付けてその呼び方を断った。
「いやですか?」
男は炎司をじっと見つめている。とても不思議そうな顔をするので、炎司が断ることがおかしいとでもいうようだった。
「お子さんいましたっけ? そう呼ばれるんですか?」
「いや……家族とはもう別れている。久しくそう呼ばれていない」
じゃあいいじゃないですか! 男はにっこりと笑った。
なぜ馬鹿正直に答えてしまったのか! 炎司は自分の機転の利かなさに後悔した。だが、目の前の男に対して、なぜか嘘を吐いてはいけないような気になってしまったのだ。
男はますます意識して、炎司のことをお父さんと呼んだ。炎司がいやだ、やめてくれと拒んでも、お父さん、お父さんと呼び続けながら、ぐずぐずになった炎司のアナルを責め立てる。
男の指遣いは丁寧で、炎司は認めたくはないものの、自分のイイところを責めるのがうまいと思った。どれほど我慢しようと思っても、淫らな体は自然と反応してしまう。
炎司の認識では、目の前の男は手マンがうまい息子で、自分はケツで感じる父である。なんとも不快で、とても精神的に耐えられない。
「お父さん、余計なこと考えてるでしょ?」
男の視線が炎司を射抜く。まるで睨むような鋭い視線と、心を見透かされたような指摘に炎司の背筋が凍った。そんなことはない、と慌てて訂正したが、男は信じなかった。
「何も考えられないようにしてあげる」
男はふっと嘲笑うと、炎司の足を抱え、より深く体を密着させる。束ねた指を突き立てると、炎司の結腸の入り口まで届かんばかりに力強く押し込んだ。
「あぅっ、」
乱暴に奥まで挿入され、炎司が目を丸くする。どちゅっ、どちゅっと太いペニスで突くように、男の指が激しくピストン運動する。
「ほら、もっと声出して」
男の指が出たり入ったりを繰り返し、大量にかけたローションが掻き回される。炎司のアナルはぶちゅぶちゅと激しい音を立てながら白い泡を吹いた。
「あっ、あっ、あっ」
ペニスの挿入を思わせる気持ち良さに炎司の背中が反り返る。体は自然と深い挿入を求め、男に向かってみっともなく足を開いた。
男の宣言通り、炎司はだんだんと考える余裕がなくなって、意志の強い瞳が曇っていく。焦点の合わない視線が宙に浮き、その内快感に身を委ねて目を瞑った。ケツの穴を掘られ、喘ぐだけの人形に成り下がり、溜まった快感でペニスを膨らませる。
「あっ、なん、でっ」
男は勃起した炎司のペニスを掴むと、指で作った輪でその根元を圧迫した。お手製のコックリングに包まれた炎司のペニスは、自由な射精を遮られる。
「はなしてくれっ」
弱々しい声で炎司が訴える。八の字に下がった眉が一層悲壮感を漂わせた。
「ケツでイけよ。できんだろ?」
優しかった男の口調が荒っぽくなる。にやりと意地悪に笑い、それがなんともサマになっていた。少し凄んだ声色は、並行世界の息子の声とよく似ていた。妖しい笑みも既視感があり、炎司は目の前の男が今まで猫をかぶっていたのだと思った。
「ぐるじぃッ」
「お客サマに文句言うんじゃねえよ。ナンバーワンだろ?」
男は炎司の前立腺を押すようにして何度もそこを刺激する。強烈な刺激に炎司の息が切れ、根元を締め付けられたペニスからとぷりと透明な液体が溢れた。
「もうやめてくれ……!」
炎司は涙目になりながらもがく。
「お前に拒否権はねえよ。……それともナンバーワンから落ちちまっていいのか?」
男はニヤニヤと悪趣味な笑いを浮かべていう。
炎司は努力し、この店でナンバーワンを勝ち取った。それが誇れることであることに違いはない。
だが男のいうナンバーワンという言葉は皮肉にしか聞こえなかった。文面通りに受け止めることが間違いであるような、そんな意味深な物言いだ。まるで別世界の炎司を透けてみるような、そんな言い方なのだ。
「……俺がナンバーワンだから選んだのか?」
「ハハ、ちげえよ。言っただろ、タイプだって。てめえの予約を取るのが大変なことくらい、お前だって知ってるだろ?」
男はにやにやと笑いながら炎司の頭を撫でる。馬鹿にされたようで炎司は不愉快だった。
「そこまでして会いたかったってことだぜ? ナンバーワンとか関係なく、な」
男はまたふっと笑う。まだ何かを隠しているような、意味ありげな表情だった。
そんなことより、続きしようぜ。男は仕切り直すようにいうと、炎司のペニスの根元を締めた指を緩めた。
「あっ、やっ」
「ハハ。オラッ、マンコが気持ちいいんだろッ」
男は炎司のペニスを掴みなおすと、ガシガシと遠慮なく扱きながら、自分の指に絡みつくアナルを容赦ないスピードで突き立てた。
炎司は悔しさを滲ませながら、あ、あ、あ、と短い喘ぎ声を繰り返す。仕事で鍛えた体を淫らに震わせながら、男の責め苦に耐えきれず、遂に炎司は射精した。
射精した疲れだけではない疲労が炎司を襲い、どっと大量の汗が流れる。体がずしりと重くなり、そのままベッドに倒れこんだ。
「噂と違うね」
男は炎司が何でもしてくれると聞いて指名したらしい。
「……すみません」
「大丈夫」
狂気じみた表情を浮かべていた男は一変、はじめに見た穏やかな表情を浮かべていて、炎司は目の前の男の正しい姿がなんだか分からなくなった。
これから、頑張ります。炎司は意気込むが、その声はか細く弱々しかった。男は炎司が体を起こそうとするので、そのまま寝てるようにと言いつける。
「今日はいいよ」
「しかし……」
「いいの! 俺とは初めてだったんだから。その代わり、次は最後までしようね」
男が炎司の頬を撫で、額から流れる汗を拭った。
また、次があるのか。炎司はすでに気が重かった。
男は先にシャワーを浴びると、手早く身支度を済ませる。炎司に約束のお金を渡すと、それはオプションも含めた、減額なしの金額だった。
オプションどころか、本番もない上、こんな金額は受け取れないと炎司はいうが、男は折れることなく、炎司にその金を握らせて部屋を出ていった。
炎司は身支度を済ませ、店に戻ると、事情を話し、お店経由でお金を返すようにお願いした。総じて悪い客ではなかったのだが、やはり息子のような相手とのセックスは、炎司には考えられない。申し訳ないが、今後は断って欲しいと店長に申し出るも、炎司の願いは認められなかった。
火傷の男は先回って店長に金を握らせていた。炎司を気に入り、今後も指名したいという。予約が取りにくい炎司を、今後は少しでも融通してくれるようにとのことらしい。
すっかり浮かれた店長を前に、炎司の言葉は届かなかった。養育費のことを知る店長は、お得意様ができてよかったじゃないかと、軽い口調で言っていた。
2021/04/20