マーメイド1


ベジカカ人魚パロ。なんだけど、人魚要素はまだない。国の王ベジが田舎町の謎の踊り子=ごくーを見に行った話。ごくーが人魚。ちょっと読みにくいと思いながら直せなかったので頑張って読んで下さい。
私の中で人魚といえばロマサガ2なので、それのパロディでもある。でもロマサガ2知らなくても分かるので気にせずに。


*   *   *


そこはベジータの治める国にあるいくつかの町の一つだった。ろくな娯楽もないその田舎町には、唯一古びた酒場があって、夜になると街の人々が集まっては酒を飲んで騒いでいた。古びた酒場には洒落た音楽もなく、踊り子がいるわけでもなかった。それでも酒を飲んで酔ってしまえば、見世物がなくたって十分だったのだ。
そんな田舎町に、ある日ふらりと一人の男が現れる。その男は夜になるとどこからともなくその酒場に来て、埃かぶったオーディオを動かすようにいった。流行りの歌があるわけでもなく、聴き慣れたいくつかの曲が流れだすだけだったが、その男は錆びついた音楽でもくるくると華麗に踊ってみせた。およそダンサーと呼べるほどの立派な踊りではなかったものの、ゆったりとした音を楽しむようにくるくると回るその男に、町の人々は惹きつけられた。酒場にいた人々は酒を煽る手を止めて、ゆらゆらと揺れる様に踊り続ける男に魅入っていた。
オーディオから流れる音楽が止まると、時が動き出したように人々はハッと我に返る。そして楽しげに踊っていた男はウインクをすると、逃げる様に酒場を出ていった。またな、と小さな挨拶を残すと、男がその夜酒場に戻ることはなかった。
その男の噂は町へ町へと流れていき、ついには城下町まで届いた。ベジータは領土を広げる為に城を空けることが多く、その噂を聞いたのは随分と時間が経ってのことだった。その町の付近は領土拡大計画の対象となっており、ベジータは遠征ついでに噂の踊り子を見に行くことにした。
その町は噂通りとても小さく、ロクな宿もないところだった。ベジータがその町の住人たちに噂のことを尋ねまわっていると、あっという間に日が暮れていく。予定通り、ベジータはその町で唯一灯りのともるその店に入ると、店内のテーブルの端に座り、男が現れるのをじっと待った。酒は不味いし、余興もなく、名物マスターがいるわけでもない酒場はとても退屈だった。年寄りばかりの店内を見渡していると、ベジータは自治体の集会場にいるような気分になった。耳に入ってくる話も面白味はなく、暇潰しにもならない。
ベジータはしけた酒をすすりながら、もう二度とこの街に来ることはないだろうと思った。そして噂話を鵜呑みにしたことが間違いだったと、自分の過ちを悔いている矢先のことだ。店のドアをすり抜ける様に入ってきた男は、まるで空気のように軽い足取りで店の中央に進んでいく。酒を飲んでいたとはいえ、一切気配も感じさせないその男に、ベジータは一瞬にして興味が湧いた。男は山吹色のオールインワンを着ていて、見慣れないそのデザインはどこかの民族衣装だと思われた。
音楽が鳴り始めると、男は音に合わせて武芸の型を見せた。ゆるやかな動きから、リズムに合わせてぴたりと体を止めると、絶妙な緩急を生み出し、まるで男が踊っているように見えた。男のキレのよい動きは見るものを飽きさせず、退屈をしていたベジータはいつの間にかその動きに釘付けになっていた。そして音楽が終わったところでハッと意識を取り戻す。
「またな」
男はそう言って立ち去った。ベジータは夢から覚めたばかりのようにぼんやりとしていて、男を追いかけようと思った時には既に遅く、その姿は見えなくなっていた。ベジータは残った酒を煽りながら、男の舞の余韻に浸った。ベジータは温くなった酒を喉に流し込みながら、もう一度会いたいと強く思った。


2020/07/25