天使なんかと恋3


男は修行の為に地球に降りてきた天使で、名をカカロットという。人知れず地球に住み、地上で様々な経験を積むことが、天使としての修行らしい。誰にも知られてはいけないという大原則があるのだが、それをうっかりとベジータに目撃されてしまったらしい。天使の姿を見られた場合、すぐに記憶を消すのだが、カカロットはそれをしないという。
「記憶消すのって大変でよ。消した分の記憶を作らなきゃなんねえし。たった一人なら、黙っててもらう方がラクなんだ」
ベジータの想像する天使にしては、カカロットは規律に対して緩い男であった。
「修行の為に来たんじゃないのか。面倒がってる場合じゃないだろう」
「かてぇこと言うなよ。それに、一人くらいオラのこと知ってる奴がいる方が、何かと便利だと思うんだよな」
天使はにひひ、といたずらっ子のように笑う。西洋の絵画で想像するような、純粋無垢とは程遠いように思えた。
「おめえ、名前は?」
「……さあな」
ベジータは怪しい男に名前を名乗る気になれなかった。天使は一瞬黙ったあと、ベジータの頭にそっと手を乗せた。ベジータは慌てて振り払ったが、天使はにこりと笑ったあと「ベジータっていうんだな」と当たり前のように話を続けた。
カカロットは行くところがないと言い、あらためてベジータの家に泊めて欲しいと頼んだ。もちろんベジータは許さなかった。カカロットは粘ってみたが、ベジータは決して首を縦に振ることはなかった。
「やっぱダメか〜……」
カカロットは大きく溜息を吐く。ベジータにしてみれば当然のことだが、同じ修行を経た先輩天使たちは、同じ方法でうまく人間の世界に入り込んだというので信じられない。
「しょうがねえか! ま、なんとかなんだろ」
見るからにガッカリした様子の男は、それほど時間も経たずに晴れやかな顔をして笑っていた。男のあまりの切り替えの速さにベジータは困惑する。
「またな!」
男は立ち上がり、指先を額に当てたかと思うと、ベジータしかいないのだと縋っていたとは思えぬほどあっけらかんとした顔で忽然と消えていった。


2020/09/19