天使なんかと恋4


一晩明けても、ベジータは昨日の夢のような出来事で頭がいっぱいだった。自分を天使だという羽の生えた男とのやりとりは白昼夢でも見たのかと悶々してしまい、うまく寝付くことができなかった。ベジータは荷物を手に取り家を出る。気分が晴れなくても学校に行かなくてはならない。
「よ!」
「なっ……!」
ベジータが自宅の大きな門をくぐると、昨日突然消えてしまった天使が大きな塀にもたれながらベジータを待っていた。男は隣に越してきたといってにこりと笑う。
「オラを学校に連れてってくれよ」
「どういうことだ。隣の家は一人暮らしのジジイが住んでいるはずだろう」
「ああ。オラそこんちの遠い親戚ってことになってる」
ちょっと記憶を変えさせてもらった。男は平然とした顔をしていう。天使というのはなんと滅茶苦茶なことだろう。
「悟空! はやくせんと、遅刻するぞ」
「ああ! わかってるって! ……ほら、行こうぜベジータ」
ひょっこり顔を出したおじいさんはこの辺りで有名な武道家である。独り身を謳歌して、夜な夜な女の子のいるお店に顔を出すことでも有名だった。それがすっかり子供の面倒を見る優しいおじいさんになっていて、ベジータは唖然としてしまう。
「記憶をいじるのは面倒だと言っていただろう。どういうことだ。それときさまはカカロットっていう名前じゃなかったのか」
「悟空は地球でのオラの名前。学校もその名前で手続きしてあんだ。記憶のことは、面倒でもやんなきゃいけねえ時もあってよ」
男はハハハと大きな口を開けて笑いながら、ベジータの肩をぽんぽんと叩いた。男はベジータに馴れ馴れしく接するが、ベジータはとても気を許す気にはなれなかった。
校舎に到着すると、ベジータは上級生が使う建物のほうへと向かう。カカロットは目を丸くしていた。
「あれ? おめえ、こっちじゃねえの」
「そっちは下級生の建物だろう」
「そうだけど……」
「オレは五年だ」
「い゛⁉」
ベジータはカカロットを置いて振り返ると、白い建物の中へと消えていった。
カカロットはベジータと同じクラスになり、地球の生活について教えてもらおうとしていたのだが、その計画はすっかり崩れてしまった。カカロットは悟空となり、この学校の新入生として入学予定であった。ベジータがこの学校にいることは、ベジータの部屋に飾ってあった制服を目にして特定していた。新品のようにとてもキレイで、その上自分より身長が低いものだから、地球人の見た目や年齢に疎いカカロットは、ベジータがこの学校の新入生なのだと思い込んでいた。しかし見た目で下級生だと判断したとはいえず、カカロットは去っていくベジータの背を黙って見送るしかなかった。
ベジータはこの学校の創設者の孫である。制服が新品のようにキレイなのは、頻繁に制服を取り換えるほどお金持ちだからである。最高学年になったベジータは学園の生徒会長を務めるほどであり、その存在は学校で知らぬものはいないほど有名であった。
学校生活初日、へとへとになったカカロットは、朝のようにベジータを捕まえて帰路に着く。出鼻をくじいたカカロットは地球での修行に対してすでに不安を覚えていた。
「おめえの学校、厳しいんだな。成績悪いと、退学もあるって……オラ、地球の勉強のことなんかわかんねえよ」
すっかり気を落とした天使の姿を見て、ベジータはいい気分になっていた。不思議な力を使い、無理矢理押しかけてきた自分勝手な天使は、地球の生活上で、それらの力を使うことはできないらしい。天使の力を封じられ、地球という文化の知識が全くないカカロットは途方に暮れていたのだ。
「なんとかしてやろう」
ベジータは落ち込むカカロットを見て満足げに笑った後、企むように口角を上げた。創設者の権限を使い、悟空としての学校生活を保障するというのだ。
これはベジータの優しさという人助けではない。天使の修行なんぞさっさと終わらせて、迷惑なヤロウを早く追い返したいだけだった。
だが天使にとってはベジータの思惑までも優しさとしか思えなかった。修行を終えて、早く一人前になることがカカロットにとって何より大切なことだった。
「やっぱおめえの記憶消さなくてよかった。ベジータっていいヤツだな」
カカロットはベジータの手をとって握手を交わす。早速地球で覚えた、喜びの表現だという。カカロットは握手をしたままと大きく上下に揺らしていて、ベジータは並みならぬ天使の力にぶんぶんと振り回されていた。


2020/09/19