酒は飲んでも吞まれるな2


自宅に戻った後の三ツ谷は上の空で、いつもは迷惑をかけてばかりの妹達に心配される始末だった。大丈夫とか何でもないとか言って取り繕う三ツ谷だったが、そんな言葉はまったくの出鱈目で、頭の中ではアルコールで蕩けた表情を見せる八戒と、柔らかな唇の感触でいっぱいだった。
三ツ谷は八戒に対して長く片思いをしている。それを実らせる気はさらさらなかった。八戒にとって良い兄貴分としていられれば満足で、自分の腹の底で欲が眠っているなんて自覚は微塵もなかった。
酔っぱらうと本性が出る、なんていう言葉を高校生にして理解するなんて考えもしていなかった三ツ谷は、酒なんて飲まなきゃよかった、と後悔しては後の祭りという慣用句が頭の中を巡っていた。
明日も学校で、その後はいつもアトリエに行く。アトリエには何も言わず八戒が来て、明日もきっとそうなるに違いない。どんな顔をして会えばいいだろうと思って、アトリエに行くのをやめようかとも考えるが、露骨に避けると余計怪しまれてしまうので、三ツ谷に取れる選択肢なんて限られていた。
既に酔いは冷めていたものの、新たな問題で収まらない頭痛に悩まされながら、三ツ谷は溜息のままに床に就くのだった。

一方、一人暮らしの家にぽつんと残された八戒もまた、三ツ谷と同じように途方に暮れていた。三ツ谷に対し、毎日のように好きだとか格好いいだとかと言っていた八戒だったが、三ツ谷はそれをまともに受け止めたこともなく、ただの悪ノリだと解釈していた。八戒にとってそれはとても都合がよくて、二人の関係はそれでうまく回っていた。
しかしここにきて、長く成立していた二人のノリが崩壊しようとしていた。八戒の言葉は冗談だという暗黙の了解が、はずみで起きたキスで冗談だと言い切れなくなってしまったのだ。
隠し事をするのが得意だったはずの八戒が、つい魔が差したというべきか。酒で酔った三ツ谷に、八戒はつい見とれてしまったのだ。いつもきりっとした三ツ谷が隙を見せた瞬間を誰にもとられたくないという子供じみた八戒の願望は、その表情を奪うために唇を重ねてしまったのだ。
どうしようと頭を抱えても明日はまた来る。足りない頭じゃ名案が浮かぶわけもなく、八戒はがっくりと肩を落としながら、できるだけいつも通り振る舞うしかないと腹をくくった。

二人はそれぞれ布団に包まれながら、己の行動を悔やんでいた。互いに自分からキスしてしまった、と勘違いしていた。アルコールでバグった頭は二人の記憶も改竄し、二人は互いが惹かれ合ってキスをしていたことに全く気付いていなかった。


2021/10/24