エスカレート−白昼夢


みつが好きだけど付き合うのは無理だと分かっているはちがモブと寝るようになったところ、ホテルから出てくるのを見てしまうみつがキレて揉める話。


*   *   *


その日の陽光はやけに白くて眩しかった。三ツ谷は目を細めていたのでそれが八戒だとは一瞬気付かなかった。
三ツ谷の頭が覚醒したのは八戒の腰に回された手を見たからで、二人がラブホテルから出てきたところだというので三ツ谷は一気に頭に血が上った。
三ツ谷は飛びかかるように二人に近付いた。ツレの男が先に三ツ谷に気付いて、少し遅れて八戒が反応する。「タカちゃん!」と驚く八戒の声を無視して三ツ谷が「オイ!」と凄むような声を出した。
男は何が起きたのか分からず混乱していて、八戒は三ツ谷を宥めるように体を抑えつけた。三ツ谷は二人を交互に見て、睨むように顔をしかめながら「どういうことだよ」と怒鳴りつけた。
三ツ谷は東卍の中では比較的常識人であるが、不良集団には違いないため、彼女と一線を越えているヤツが周りにいることは珍しくなかった。
八戒と相手に対して怒り狂っている理由は、その見た目から察するに、二人の年齢差が十歳以上あることだ。八戒が相手に騙されているんじゃないかという親心にも似た気持ちと、相手に対する不信感。
八戒から恋人がいるという話を三ツ谷は一度も聞いたことがなかった。八戒が自分に秘密を作るはずがないという自信と、秘密がある時は必ずやましい気持ちがあるからだという確信が、三ツ谷を怒らせていた。
「待ってよ! オレから説明するから!」
今にも殴り掛かりそうな三ツ谷を八戒は必死に抑え込む。「――さんは関係ない」と相手を庇う八戒に、三ツ谷は自身の堪忍袋の緒が切れる音がした。
――さんって誰だよ。呼び慣れている八戒に三ツ谷は内心悪態をつく。八戒に促されるまま一人逃げていく後姿を三ツ谷は恨めしそうに見送った。


*****


八戒は服を脱がされ、下着一つで裸になっていた。ベッドに横たわり、磔にされているように動かなかった。
八戒は大の字になりながら、片手で己の顔を覆う。いかがわしい広告の女性のように、八戒は自分の視界を隠していた。
三ツ谷も同じくベッドに上り、八戒の体を見下ろしていた。真っ白で細い体にはところどころ皮下出血した後があり、それが少し前に逃げていったものがつけたキスマークなのだと思った。
八戒がラブホテルから出てきた時、隣にいたのは男だった。八戒より身長は低いが、広い背中を持ったしっかりとした体格の成人男性だった。
男とは出会って一ヵ月ほどで、その間にホテルには二回行き、今日が三回目だという。SNSで知り合って、二人は付き合っているわけではない。これらはすべて八戒の証言によるものだが、これがすべて事実かどうか三ツ谷にはわからない。
三ツ谷は裸になった八戒を前に、じっとりと体に張りつくような汗を掻いていた。三ツ谷はいまだに煮えたぎるような怒りが収まらなかった。八戒は顔を隠したまま黙っていて、全身から三ツ谷に対して申し訳ないというような反省の色を見せていた。
三ツ谷は怒りで興奮しながらも、なぜここまでイラついているのかが分からなかった。なぜこうも八戒を許せないのか、あの男を殴りたくてたまらないのか分からなかった。
八戒の洋服を剥いたのは三ツ谷である。怒りに任せ、怒鳴りながら服を引っ張った記憶はある。だが、その必要があったのか、よくわからない。ほんの少し前の自分なのに、三ツ谷は別人の自分がいたような気持になっていた。
そもそも、八戒が誰を好きで、何をしようか、三ツ谷に干渉する権利はない。しかし八戒は三ツ谷の怒りに抵抗をしなかった。怒鳴る三ツ谷にごめんなさいと言って謝り続けた。
二人は会話らしい会話ができなかった。三ツ谷は怒りで我を忘れていたし、八戒は三ツ谷と向き合うのを恐れてずっと下を向いていた。
二人は八戒が出てきたラブホテルの中にいた。部屋の中はライトの光が弱く、薄暗かった。
このベッドで二人は寝たのだ。三ツ谷は頭の中にその事実だけがどうしても消えなかった。



2022/01/09