子供が世界で学んだこと


タカちゃんとずっと一緒にいたい、でも女の子じゃないとだめ、でも俺は女の子じゃないし、タカちゃんとはずっと一緒にいたいだけで好きとかではない…と考えた挙句、形だけでも恋人関係を求めたはっかいと、そんなことは知らずただ好きになってしまったら、ん?変だな?と思ったミツヤの話。

【男でも女でも〜】とも共通するところなんだけど、八戒には何事もステレオタイプな概念から遠い存在であって欲しいというか、そういうものが分からない存在だと思っているところがあるんだと思う。
子供〜については続きとか書けたらいいね。


*   *   *


オレを女の子の代わりにしてよ。
八戒の告白は不思議な言葉だった。三ツ谷は八戒の伝えたいことが分からず首を傾げたが、思い詰めたような顔をして自分を見つめる八戒を見ると、少なくとも飛び出した言葉はそのままの意味しかないのだと思った。
三ツ谷は八戒を大切にしているが、恋愛感情として好きという気持ちはなかった。八戒に限らず、恋というのは、今の三ツ谷にまだよくわからない感情の一つで、誰かを好きになったり付き合ったりというのは考えられなかった。
しかし三ツ谷は、自分のそういった気持ちがハッキリしていたにも関わらず、八戒の言葉に『わかった』と答える。少なくともその言葉を紡げば、大切な八戒をなくすことはないからだ。
八戒は三ツ谷の言葉を聞いて露骨にホッとする。そして直後、それを証明して欲しいとすぐにキスを求めた。三ツ谷はそのキスが初めてのキスで、その日のことを今でも昨日のことのように覚えている。
八戒と便宜上、付き合う関係になった三ツ谷だったが、その関係は三ツ谷が思っていたより悪いものではなく、むしろ時間が経つごとにそれがいかに自然な形だったことか思い知らされる。いつしか三ツ谷から八戒へキスをしたり、求めたりするようになって、それははたから見るととても幸せな恋人同士に思えた。
だからこうして、数ヶ月も経たずにベッドの上にいることは、何も間違ったことではないはずだった。
しかし三ツ谷はその日、八戒と顔を合わせた瞬間から、ずっと違和感があった。三ツ谷は何か変だと思いながらも、その違和感の正体が掴めずにいた。
八戒は服を脱ぎ捨て裸になった。艶々で弾力のある肌が生々しい。八戒は三ツ谷の腕を引っ張り、ベッドに寝転ぶ。タカちゃん、といつものように名前を呼ばれただけなのに、三ツ谷は胸が苦しくなる切なさを覚えた。二人は幸せな恋人同士のはずなのに、八戒の表情がひどく強張っていたからだ。
「なぁ、やっぱやめにするか?」
三ツ谷は八戒を傷つけまいと軽い口調でいう。
オマエ、調子悪そうだぞ。三ツ谷はそういって、八戒を無理矢理体調不良に仕立て上げた。
「なんで? オレは平気だよ」
「そうか? んー、でも、今日はやめとくか」
なんで? 八戒は眉を顰めて食い下がる。その必死さが、三ツ谷の違和感をより強めていた。

テレビに映るドラマに男同士の恋人が出てこないことに八戒が気付いたのはいつだろうか。
歳を重ねた男の隣にいるのはいつも女性の恋人で、深い友人関係を結んだ同性が幸せそうに笑い合う姿はどこにもなかった。
とある日、三ツ谷が東卍の集会に来るなりマイキーは茶化した。たまたま駅の周辺で三ツ谷を見かけ、その隣には女の子がいたからだ。
デートか? そう言ってニヤつくマイキーを、三ツ谷は呆れ顔で諌めた。
知らない女の子と歩いていた三ツ谷を想像して、八戒はテレビの世界と現実は同じなのだと思った。将来、三ツ谷の隣にいるためには、女の子じゃないといけないのだ。
八戒は三ツ谷のことが大好きだったが、それは男女の恋愛のような好きではなかった。しかし大好きな三ツ谷とずっと一緒にいる為には、少なくとも恋人関係がないといけない。そうすることがこの世界の決まりなのだ。
八戒は三ツ谷への告白を成功させるとすぐにキスをねだった。それは最終的に結ぶ体の関係を、より早く進めるためであった。
世の中の男は”責任をとって”という言葉に弱い。八戒はそれも、柚葉が見ていたドラマで覚えた。キセイジジツを作って、責任を取ってといえば、三ツ谷が自分の元からいなくなることはない。だから何よりも早く、八戒は三ツ谷とのキセイジジツを作る必要があった。

「……オマエ、なんか焦ってる?」
熱烈に迫る八戒の思惑など知らず、三ツ谷は訝しんでいた。
そんなに急ぐもんじゃねえって。三ツ谷はそう言って、八戒の頭を兄貴じみてぽんっと叩く。
八戒はその瞬間、湯沸かし器のように怒りの沸点に達し、三ツ谷の手を払い除けた。
オレがいいっていってるんだよ!? 八戒は凄い剣幕で言い放った。
三ツ谷は圧倒され、八戒の勢いに押されるままベッドに仰向けになる。覆いかぶさってきた八戒に奪われるようにキスをされ、まだ身につけていた下着を剥ぎ取られた。
八戒の手管に三ツ谷は早々に陥落する。違和感の正体はわからないままだし、八戒が怒る理由もわからなかったが、三ツ谷はもうどうにでもなれと投げやりになった。だが少なくとも、愛する恋人が自分と肌を合わせたがってるのは事実で、自分自身もそれに納得しているのなら、何も問題はなかった。
しかしいざ挿入となった時、三ツ谷の恋人の体は震えていた。その姿は三ツ谷を押し倒した勢いを忘れ、恐怖に怯える小動物のようであった。
三ツ谷は八戒を見下ろしていた。二人は体を入れ替え、八戒が三ツ谷に向けて脚を開いている。八戒の奥まった蕾はよく解したし、三ツ谷も乱暴にするつもりはない。お互い初めてだから、無理はせず、じっくり時間をかけて優しく抱くつもりであった。
しかし、八戒の態度を見ると、それは本当に愛する人に抱かれる恋人の姿なのかと三ツ谷は疑った。心にもないのに体を開く子どもに見えて、三ツ谷は激しく躊躇する。
「タカちゃんどうしたの?」
八戒は何気なく尋ねてきたが、その声はやはり震えていた。
……なあ、やっぱ、今日はやめにしねえか?
三ツ谷は力のない声でいう。恋人の弱々しい姿を見て、三ツ谷の性器も僅かに萎えていた。
なんで? どうして? 八戒はしつこく尋ねた。
「なんか、萎えちまったみてえ」
三ツ谷はハハハ、と軽く笑いながらいう。八戒を庇い、オレが不甲斐ないせいだと言葉を続けた。
八戒は黙る。三ツ谷はいたたまれなくて、沈黙がひどく気まずかった。
八戒は顔を隠すように腕で目を覆うと、結んでいた口をゆっくりと開いた。
「タカちゃん。オレ、魅力ない? オレじゃ、タカちゃんの恋人にはなれない?」
寂しげな八戒の声に三ツ谷の胸が苦しくなる。
違う、そんなんじゃない。三ツ谷はすぐに否定したが、抱く直前になって拒むようでは、八戒の疑いは晴れない。
三ツ谷は悩んだ挙句、その日、八戒を抱いた。
抱かれている間、八戒はずっと苦しそうな声を上げていた。二人は恋人同士なのに、まるで無理矢理犯しているような気分になって、三ツ谷はひどくやるせない気持ちになった。


2022/01/17