時間の問題 2


   二

自分ができる入力の速さを精一杯出し切り、スマートフォンをタップする。とはいえ、送ってからすぐに返事が来るわけでもないので、焦ってもしょうがなかった。
しかしはやる気持ちが自分の行動の所作を速める。一分でも一秒でも速く、次の行動へ繋ごうとしている。

福富とは秋に会ったきりだった。もう年も明け、季節は真冬の2月だった。何度か会う話をしたが、お互いの予定が合わずに時間は過ぎていった。
いい傾向だ。福富と連絡を取りながら、不可抗力で距離をとることが出来ている流れに金城はほっとしていた。どちらが悪いというわけでもなく、次第に連絡をとる回数を減らし、このまま自然消滅させていくのが理想だと思った。福富とはまたレースで会う。それがお互いにいい形であるのだ。
しかし一ヶ月、二ヶ月と時間が経過しても、金城は自分の理想像に反して福富と連絡を取り続けた。
次の休みはいつなのか、いつ会えるのか。言い方こそぼんやりとさせ、さも強い意志のないような書き方をして送っていたが、内心は会えないことに焦りを募らせていた。
金城自身も自分がフラストレーションを溜めていることに驚いていた。原因は何か。いくつか考え、それぞれ試してみたがどれも違っていた。そのうち、原因の一つに数えたくはなかったが、自分の性欲がそうさせているのではないかと考え始めた。
そういえば自分でするのはご無沙汰だった、と思いかえし、久しぶりに男性誌のグラビアページを取り出す。実際にしてみたが、まだもやもやが残った。
いまいち何かが足りないと思いながら、何日かしてみる。やはり満足はできなかった。自慰で使うものが即席で用意したものだからだろうか。そう思った金城は、インターネットで新たな画像を探すことにした。
金城は女性が男性器を銜えて口で愛撫する画像を見つける。その画像に強く惹かれ、暫く眺めた後、自身の股間がむず痒く、熱が溜まっていくのを感じた。金城は同じことをしている動画を探し始めた。

いくつかの動画の中で、一つ気に入ったものを再生する。普段は見ることのない派手な女性が出ている動画だった。金城はその動画に見入っていた。少し肌が黒く、金色の髪を長く伸ばした女性は、仁王立ちする男性に縋りつくように奉仕していた。小さな口から必死に延ばした舌が健気で、しかし手慣れた手の動きがとてもいやらしかった。
金城はおもむろに自身の股間に手を伸ばし、動画を眺めながら扱いた。モザイクごしでも画面の男性器が大きくなっていくのが分かる。じゅるじゅると水音を立てながら吸いつかれ、よほど気持ち良いのだろう。
金城は自身が咥内におさまった時の気持ちよさを生々しく想像することができた。そのあたりでようやく、自分が福富との行為を求めていることを認めた。
動画の女性の揺れる金色の髪が福富を彷彿とさせる。この女性は福富より唇が厚い、しかし口は同じくらいの大きさだ。そんなことを考えながら自身を扱き続けた。画面の男は金城より先に果てた。射精前に口から抜かれた陰茎は、女性の顔面めがけて精液を飛ばす。女性の黒い肌に白い精液がよく映えた。
したことないな、金城は思った。そして直後、頭の中に同じ状態になった福富を想像する。口の中に出された精液をはしたなく口から零す姿もたまらなかったが、あの仏頂面に欲の象徴がまき散らされる様もまたたまらないものがあった。金城は福富の顔が精液にまみれる姿を想像し、そのまま果てた。

それから、金城は自慰をするたびに金髪の女性を探した。福富が好きなわけでもなく、派手な女性が好きなわけでもなかったが、一番興奮した。福富としてきた行為を生々しく想像させるにはそれが一番向いていたのだ。金城は罪悪感を感じながらもやめなかった。画像フォルダに金色の髪の女性が何枚も貯まっていく。
しかし自分で慰めることも代わりでしかなかった。福富と連絡を取り続け、金城は会える日を待ち続けた。福富の為であるという建前も、もはや意味をなさなくなっていた。


春休みに入ってから数日後のある日、ようやく二人は約束を取りつけた。週末の日曜日、二人はいつも通り、金城の家の最寄駅で待ち合わせる。
当日になると、金城は約束の時間より早く着くように家を出た。日頃から、待ち合わせには少し早めに着くように心がけているが、今日はそれよりも早く着く時間だった。
金城は家にいると落ち着かなかった。過去何度もしてきたというのに、今日ここで福富と不道徳なことをすると思うと、下半身に熱が集中してしまい、冷静でいられなかったのだ。

金城は駅前のカフェに入ってコーヒーを飲みながら福富を待った。金城はひどく喉が渇き、おかわり自由の言葉に甘えて何杯もコーヒーを飲んだ。しかし何杯飲んでも喉の渇きは続いた。掌を見ると手汗をびっしりと掻いていた。
カフェから外を眺めると、景色の輪郭がぼんやりとして見えた。色や形を認識できているのに、どこか平面であった。三次元世界のもとのとは思えない非現実的な映像のように見えた。
金城は自分の体が正常に作動していない気がした。ゆえに頭も、瞳が映像を捉えているのに正しく処理できていないのはそのせいだと思った。
金城は自分の体に不具合を感じながら時間が過ぎるのを待った。約束の時間の10分前、ポケットに入れたスマートフォンが唸る。福富が着いたと連絡をよこした。
金城は会計をすませ、待ち合わせ場所へと向かう。バスのロータリーで長身の男が立っていた。遠くからでもそれが福富とわかる。
福富に近付いていくと、ぼんやりとした景色が次第にはっきりと見えてくる。不思議な感覚に戸惑いながら福富を目の前にすると、映像がより鮮明になった。福富だけが鮮明に見える、という方が正しい。金城の体が少し正常に動いたが、それでも喉の渇きと手の汗は続いていた。

久しぶりだな。金城が言うと、うむ、と福富は小さく同意した。
二人は打ち合わせもせずに歩き出す。金城の家には行き慣れていた。
横並びで歩いていると、金城が少しだけ先を進んだ。いつもより歩くスピードが速く、急いでいるのかと福富は尋ねた。
全く自覚のなかった金城は恥ずかしくなった。福富のことを見れずに、夕方に用があるから時間がないのだと苦し紛れに嘘を吐いた。

住宅街を歩いて五分、コンクリートの塀に囲まれた青い屋根の家が金城家だった。ちょうど出掛ける家族と玄関で出くわし、福富は挨拶をした。いらっしゃい、と優しく金城の母が言った。
二人は金城の二階の部屋へまっすぐ向かった。福富の先を歩く金城は相変わらず速足だった。
部屋に入るとすぐ鍵をかけた。小さな荷物を壁際に置くと、金城はいつもの椅子に座ってベルトを緩めた。汗で手が滑るのを知られないように、平静さを保って金城はズボンを下ろす。福富は何も言わずとも金城の前にしゃがみこんだ。
あれほど冷静にと心がけていたのに、金城の陰茎はすでに立ち上がり始めていた。金城は気恥ずかしくなり、思わず顔をそらす。
福富は今までやってきたように金城の陰茎を愛撫し始めた。手で支え、唾液を塗りつけるように舐める。だんだんと質量が増していくそれを、上下に手で扱く。
久しぶりの福富の咥内は熱く、ぬるぬるとして柔らかかった。粘膜で強く吸われると、自分の手では得られない快感があった。人の口で刺激されているという状態も、より興奮を煽る。
金城は福富の名前を呼ぶと、咥内におさめられていた自身をずるりと引き出した。先端と福富の口を粘質のある唾液が細い糸でつなぐ。と思うと、そのまま金城は福富の顔面に向かって射精した。福富は驚いて目をむき、しかし入らないように咄嗟に目を瞑った。福富の男らしく黒々とした眉に白く濁った精液が乗る。頬も口も、まんべんなく精液の水だまりが散っていた。
金城はやってしまった、と自らの行動に驚きながらも、想像していた以上に興奮するこの様にドキドキしていた。
吐精したものの、金城の熱はおさまらなかった。その様子に気付いていない福富は、片目を薄く開きながら、周囲を見渡してティッシュのありかを探している。
金城の頭には男性同士でする性行為の話が思い出されていた。

「立ってくれないか」

金城は一度下着を履きなおして言った。顔を拭うこともできないまま、福富は言われた通り立ち上がる。
金城が手をついてというので、指示通りに金城がどいた椅子に向かって福富は両手をついた。自分の腰より低い位置にある場所に両手をつくと、体が前傾姿勢になった。
場所を入れ替わった金城は、福富の腰に手をまわした。不思議に思った福富が疑問の言葉を投げかけたが金城は何も言わなかった。はっきりと言葉にするのがはばかれたのだ。
金城はそのまま福富のベルトをはずし始める。福富は動揺し、びくりと大きく体を揺らしたが、金城に指示された姿勢を崩すことはなかった。
金城は福富が抵抗したらやめようと考えていたが、福富は黙ったまま動かなかった。様子をうかがいながらも、福富は一向に拒絶しないので金城は手を止めなかった。
下着ごとズボンを下ろす。福富の殿部はよく引き締まっていた。同じ競技者としてほれぼれする下半身である。どうみても女性のそれとは違った体をしていた。
金城は福富の肉体を眺めながら躊躇した。本当にするのか。本当にできるのか?急に尻込みする。しかしここまで来てしまったなら、という思いもあった。
ズボンをおろし、下着もおろしたところで、いくら鈍感な福富でもこれから何をしようとしてるか気付いているだろうと金城は思った。分かりやすいように福富の尻をなで、ほぐすように揉んだがそれでも福富は何も言わないのだ。
金城は意を決した。福富の尻を掴み、左右に広げる。掌に硬い筋肉を感じながら、肌はとてもなめらかだと思った。左右に開かれた殿部の中央に、きゅっと閉じられた小さな入口。排泄に使うそこは、とても男性器がおさまる様には見えなかった。しかし実際に使われているのを金城は見たことがあった。女性だと思って再生した動画の登場人物が、手術前の男性、いわゆるニューハーフだったのだ。女性にしか見えない美しい男性は、立派に勃起させ、相手の性器を肛門で受け入れていた。とても気持ちよさそうに喘いでおり、そんな世界があるのだと学んだのだ。
しかし実際に見ると、とてもじゃないができる姿が想像できない。指で福富の入り口を撫でてみたが、かたく閉ざされ広がる様子もない。
金城は下着から自身を取り出した。まだ熱が残っているそれを手で擦る。勃起し、それなりの形となった。先走りである程度は濡れている。
足を開いてくれ。金城は小さく言った。福富は言われた通り足を開いた。
金城は福富の肛門に勃起した自身の性器をあてた。潤滑油代わりに先端からあふれるカウパー液を塗りつける。少し押してみたがやはりびくともしない。
金城は自分の指を舐めた。唾液でたっぷりと濡らす。今度は人差し指で押してみたが変わらない。
力を入れて無理やり押し込んでみる。先ほどより少しだけ開いたが、挿入されるとはいかない。

「力を抜いてくれ」

金城は焦った。左手で福富の殿部を広げるようにより強くひっぱる。福富は金城の指示に従い力を緩めるが、多少収縮するだけで状況は変わらなかった。その後も金城は何度かこじ開けるように指をねじ込んだが、全く入る様子はない。そのうち、金城は福富が痛みを我慢するように息を吐いてることに気付いた。
金城は福富の尻を掴む手を放した。足を閉じてくれ。金城は再び小さく言った。福富は指示通り足を閉じる。
金城は福富の閉じられた足の間に、勃起した自身を挿入した。一瞬整えられた福富の足がゆるくなる。

「しっかり閉じるんだ」

金城はそういって、腰を動かした。
福富の両太ももの間に、金城の陰茎が出たり入ったりしている。福富はその勢いに負け、度々太ももの力を抜いてしまいそうになったが、金城の動きが続くので必死に耐えていた。自分の睾丸の下で金城の陰茎が動き、擦れる。福富は混乱していたが、金城がいいと言うまでは体勢を崩さないように努めた。
金城のピストン運動は暫く続き、だんだんとスピードが上がっていく。福富の臀部と金城の体が叩きつけられ、肉体の擦れる音が激しくなる。
福富は下を向きながら、金城の陰茎が出し入れされている感覚で頭がいっぱいになっていた。セックスではないが、それにとても近いものだった。スマタというものはこんなものだった気がする。背中から金城の荒い息遣いが聞こえてきて、気持ち良いのだな、と福富は思った。自分の顔についたままの精液の匂いが、やたら鼻についた。
金城はほぼ無言のまま射精した。床と、福富が手をついていた椅子に精液がとんだ。ずるり、と福富の足の間から陰茎は引き抜かれ、福富はそこでようやく顔を上げた。
金城はズレた眼鏡を正しながら、ベッドに置いていたテッシュで自身の陰茎を拭った。福富もそのティッシュを手に取り、ようやく顔についた精液を拭う。しかしすでに渇いていて、うまく拭うことができなかった。
金城ははあはあと肩で息をしていたが、福富は冷静にその様子を見つめていた。
金城は福富の様子を見て少しずつ冷静さを取り戻す。そして自分が何をしたのか思い返し、ぞっと背中に脂汗を掻いた。

「悪い、そろそろ時間なんだ」

金城は自分がひどいことを言っていると分かっていたが、これ以上福富の顔を見ていられなかった。きまりの悪さから、何でもいいから早くこの場からいなくなって欲しかった。
シャワーは貸す。金城は続けてそう言ったが、福富は断った。

「……気持ち悪くないのか?」
「時間がないのだろう」

福富は鋭い眼差しで切り返す。金城は凄まれたような気がした。福富は怒っているのかもしれない。しかしそうなっても当然のことをしたのだと金城は思った。
福富は顔を洗うだけで十分だといい、金城は洗面台を貸した。洗顔料とタオルを渡し、リビングで待つ。福富の姿を見るだけで自責の念で胸が痛かった。
福富は洗面所から戻るとすぐに自分の荷物を持って玄関に向かった。金城は玄関まで見送る。いつもなら最寄りの駅まで送っていたのだが、それも福富は断った。
福富が出ていき、家で一人になった金城は大きくため息を吐いた。体が鉛のように重く、自分が泥になってしまったかのように、力が入らなかった。