火遊び2
二
「怪我でもしたわけ」
隊列を組むと隣は宇佐美だった。
「馬鹿をいうな」
「ふうん」
尾形はじっと見つめていた右手を隠すように下ろす。宇佐美は納得のいかない顔をしながら、訓練の指揮を執る上官に視線を戻した。尾形は谷垣との食事の夜、無意識に伸ばした右手について考えていた。
女たちは与えられた役目が終わると早々に去っていき、尾形は谷垣と二人きりになった。尾形は一人で酒を飲みながら、小さな寝息を立てる谷垣に目を向ける。谷垣は尾形の隣でぐっすりと寝ていた。人に見られる緊張感と、女から受けたとびきりの快感を前に谷垣は疲れ果てていたのだ。
谷垣の衣服は女中によって整えられていたが、軍服の着方も知らぬ女たちが着せたそれは皺ができ、やや不格好であった。見かねた尾形は不格好なそれを整えようと手を伸ばしたのだが、いざ体に触れるというところで手が止まった。部下の衣服の乱れを正すだけだというのに、なぜかその体に触れるのが躊躇われた。尾形は躊躇する自分が理解できず、迷いを断ち切るように谷垣のシャツをぐっと掴んだ。乱れた衣服の下から谷垣の薄紅に染まった肌が見え、尾形はそれを隠すように下履きにしまいこむと、緩んだ帯革をぴっちりと締めて整えた。
あの時伸ばした手は、本当に乱れた服を正そうとしていたのか。尾形ははだけたシャツの下に見えた肌を反芻しながら自分自身に問いかけていた。尾形はその発想を馬鹿げていると思いながら、頭の中には自分を見つめる谷垣の姿が焼き付いていた。
2020/11/29