夕暮れが告げている


康露で告白話。ここから康一君が露伴先生を意識していくんだなあ、という気持ちで。
康露、すごく好きでどうしても一度は書いてみたかった
なかなか難しい

*   *   *

露伴先生は売れっ子漫画家だというのに割と暇みたいで、よくぼくを用事に誘った。ぼくは学校があるから殆ど断っていて、たまに土日に隣町へ行くのに付き合ったりする程度だった。そんなに出掛けるほど用事があるのかと思うけど、露伴先生はいつも取材と言った。
写真を撮ったり、資料を買ったりすることもあれば、ただ遊んでるだけじゃないかと思うこともあった。ぼくとご飯を食べて、世間話をして、それだけで終わる日もあった。ぼくは面倒臭いなあと思うこともあったけど、露伴先生がいつも楽しそうにしてるし、どうしてもぼくじゃないと嫌だといわれると悪い気はしないので、時間がある時はなるべく付き合ってあげていた。それに露伴先生の漫画のファンではあるし、ぼくが露伴先生の漫画に何か少しでも影響を与えていると思うと、特別な読者になれた気がして気分がよかった。
そんな日が暫く続いて、大事な話がある、と露伴先生からあらたまった電話が来たのは昨日の夜。いつになく真剣な声色をする露伴先生にぼくは何事があったのだろうと驚いた。しかしぼくがいくら事情を聞いても、直接話がしたいといってきかない。仕方がないので、ぼくは明日の放課後に露伴先生の家に行く約束をした。このことは誰にも言わないで来てくれ、と露伴先生に念を押され、ぼくは気になりながらもその時になるのを待つことにした。


夕方5時15分。露伴先生の家に着き、インターホンを鳴らすと、意外にもいつもと変わらない様子で露伴先生がぼくを迎えてくれた。

「康一くん、待ってたよ」
「露伴先生!一体どうしたんですか?」
「ここじゃ落ち着かないし、中で話そうか」

露伴先生はそういってぼくを招き入れる。

「康一くん、約束通り、誰にも言わないで来てくれたかい?」

階段を上がりながら露伴先生はいう。ぼくがはいと答えると、よかったと嬉しそうに露伴先生はいった。
二階に上がると、露伴先生は仕事場の部屋にぼくを案内した。この部屋に来るのは、露伴先生とのあの事件以来で、ぼくは少し居心地が悪かった。部屋には露伴先生が原稿を書く机と、僕のために置かれただろう簡易的なテーブルと椅子があって、人を招待するには向かない部屋だと思った。露伴先生は机に向かっている椅子をぼくに向けて回し、着席すると、ぼくも椅子に座るよう促された。ぼくと露伴先生はテーブルをはさんで向かい合った状態になった。

「康一くん、単刀直入にいうよ」
「はい」
「ぼくは康一くんのことが好きみたいだ」

露伴先生は真面目な顔をしていった。
ぼくは想像していなかった話に驚きを隠せなかった。

「えっ、露伴先生っ……それは……」
「そのままの意味だよ」

露伴先生の鋭い眼差しにぼくは圧倒される。

「康一くん、気持ち悪いかい?」
「いやっ……気持ち悪いってことは……好意は嬉しいですし……ただ驚いたっていうか……」

しどろもどろになっているぼくに露伴先生はいつもの笑みを浮かべる。なんだか半信半疑だ。またぼくをからかっているだけじゃないのかと思う。

「露伴先生……あの……失礼かもしれないですけど……嘘じゃないですよね……?」
「嘘じゃないよ。本気だよ」
「はぁ……でも、露伴先生……ぼく、男ですよ……?」

ぼくがそういうと露伴先生はむっと顔をしかめた。それがどうしたんだよ、と怒気を込めて露伴先生はいうので、ぼくは少し怖くなった。

「康一くん。君は、ぼくが昨日、誰にも言わないできてくれといった頼みごとを、ちゃんと守ってきてくれた。ぼくが何も話さないにも関わらず、ただぼくを信じてくれた。ぼくは君のそういうところが好きなんだ」

露伴先生は演説するようなはっきりとした声で主張した。ぼくは露伴先生の勢いに呆気にとられた。他人にここまで評価されることが初めてだったぼくは、露伴先生は本当にぼくのことが好きなんだと思った。

「ぼくは君が、ぼくのことを好きじゃないことは分かっている。でもぼくを好きになって欲しい。ぼくが康一くんを好きなことと同じくらいに」

露伴先生は椅子から立ち上がってぼくにゆっくり近付いてくる。ぼくは固まって動けなくなって、ただゆっくり近付いてくる露伴先生を眺めた。露伴先生は目の前に来て、ぼくのことをじっと見つめている。露伴先生はぼくに愛の告白をしたというのに、相変わらず強気な眼差しを向けていて、なんだか少しも可愛げがない。でもその芯のブレないところが露伴先生らしくて、嫌いになれないな、とぼくは思った。
露伴先生はぼくの目の前に立って、ただ黙ってぼくを見つめ続けた。ぼくはその鋭い眼差しに圧倒されながら、なんていえばいいのか分からなくて黙ってしまった。だってぼくは露伴先生のことをそういう目で見たことがなかった。
なんて答えればいいのか悩みながら、ぼくもじっと露伴先生を見つめていた。露伴先生は相変わらず黙ったままだった。いつもなら僕の意見なんて無視して勝手に決めてしまうくらい強引な露伴先生が、じっと黙ってぼくが話すのを待っていることに気付いて、ぼくは露伴先生なりの本気を見た気がした。
僕は男の人を好きになるなんて考えられないし、考えたこともなかったけど、露伴先生の真剣な姿をみて、そういう世界もあるんだと思った。そしてそういう相手は露伴先生だったらありえるのかもしれないと、少しだけ思った。
ぼくはわかりましたと答えた。

「ぼくが露伴先生のことを同じくらい好きになったら、その時は、よろしくお願いします」

ぼくはすごく曖昧な返事をしてしまったと思う。でも何か言わなくちゃいけないと思った。
ぼくは今、露伴先生と同じ意味で、露伴先生のことを好きな訳じゃないけど、でもずっとそうだとは言い切れないと思った。露伴先生の真剣な告白をみて、ぼくの気持ちが変わる可能性があることを露伴先生に教えてもらった気がする。
だからこそぼくは露伴先生を傷付けたくはなくて、何かいわなくてはいけないと思った。ぼくが黙り続ける時間が長いだけ、露伴先生を傷付けてるような気がした。
露伴先生はぼくの返事を聞くと、そうか、と少し悩むように相槌をうった。ぼくは一瞬にして自分のいったことを後悔したが、露伴先生の眼差しは優しくて、悲しんでいるわけではないのだと思った。
そして露伴先生はとても小さな声でありがとう、と言った。

2018/05/31