×年ぶりの恋人


昔イイ仲だった天津飯と悟空。
でもどっちも恋愛に疎かったから進みそうで進まないまま大人になって自然消滅し、でも忘れているわけではなくて久々に会いたくなったり話したくなったりな話。


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連絡もなく突然帰ってくるのはいつものことで、しかし悟空のパワーアップの仕方が人間離れしていたものだから、地球に残っていたみんなは大口を開けて驚いていた。
見慣れない衣服もヤードラットという星のものらしい。とても不思議なデザインの服だった。
瞬間移動を披露し、散々地球の事情を話したあと、それぞれは約束の時まで別れていく。悟空もまずは心配するチチの元へ帰ったが、再会を堪能した後すぐ、用があるといって出ていった。
すぐ戻るから。悟空の言葉にチチが悪態をつく。悟空の言葉は信用がないのだ。だがそれを引き留められるほど悟空は何かに縛られたりはしない。
「さて、と……」
悟空はおもむろに二本指を額にあてて集中する。瞬間移動をする仕草だった。
行き先は天津飯がいる場所だ。チャオズと山で修行しているという話を聞いていたので、ある程度のあたりはついている。意識を集中させ、天津飯の気を探る。馴染みのあるそれはすぐに見つかって、「じゃあな」とチチたちに手を振って、悟空はパオズ山から消えていった。

不意の来訪者に天津飯とチャオズが困惑する。さきほどまで半径十キロ以内に人らしい気配はなかったはずだった。よお、といつもの調子で挨拶をするのは悟空で、さきほど見せてもらった瞬間移動の脅威を、天津飯は身をもって実感する。
「ちょっといいか?」
悟空は到着するなり天津飯を見て、外を指差す仕草をする。二人で話がしたいということらしい。
ちょっと出てくる。天津飯はチャオズにそう言い残し、悟空と共に家を出た。
何の用だ。舞空術で移動中、訝しげに天津飯が尋ねる。
久しぶりだからよ。みんなのとこ回ってんだ。
朗らかにいう悟空に、そんなものかと天津飯は思った。
二人は昔、キスをした仲だった。お互いそのキスが友人を越えたものである認識があったもののそれ以上進むことはなく、いつもの調子でお互いが修行の旅に出てしまったと同時に、二人の仲は自然消滅した。
再会とほぼ同時に悟空はチチと結婚する。約束事があったわけでもない天津飯は二人の間に口を挟めなかった。
そして悟飯が生まれ、サイヤ人が襲来。
その間、天津飯は一人残され、置いてきぼりをくらったような状況にいた。
悟空は山の中で少し拓けた場所に下りると、ホイポイカプセルを投げていつも使っている仮のねぐらを建てる。ここならゆっくり話せると招待したが、天津飯は気が進まなかった。
「つれねえな」
悟空は寂しそうな顔をする。天津飯はムッとして、ますます気が進まなくなった。いつも都合よく扱うのはお前のほうじゃないか、と思って憤っていた。
「チャオズとそういうことしてんのか」
そういうこととは、昔悟空と天津飯の間にあったような関係を指す。いっそ忘れていてくれたらよかったと天津飯は思った。
「するわけないだろ」
「そうか。オラはてっきり」
ハハ、と悟空が渇いたように笑う。
――なんでだよ。なんで気になるんだよ。
天津飯は悔しかった。今になって、こんなに心がかき乱されるなんて思わなかった。
「じゃあ、オラは帰るよ」
悟空は満足そうな顔をしていた。天津飯とチャオズの仲を確認したらそれでいいのだろうか。
天津飯は拳を握った。「待てよ」言葉が口からついて出た。
「もう少しいいだろう。久しぶりなんだ」

都会から離れた山奥はすぐに太陽が沈んで暗くなかった。二人は特に盛り上がる会話もなかったが、帰るのは夜が明けてからにしようという話になった。
二人はその夜一緒のベッドに寝た。悟空の仮眠施設だったため、来客用のベッドなんて用意されていなかった。
二人は一つのベッドに並んで寝ているだけで特に何もしなかった。
天津飯は何もできなかった。寝ることもできなくて、ふと隣を見ると悟空と視線がかち合った。驚きで体が揺れると天津飯の手と悟空の手がこつんとぶつかる。天津飯はその手を握ることはできなかったが、くっついた手を離すこともできなかった。
じっと見つめ合う時間が長くなって、天津飯はどうしたらいいのか分からなくなった。ドッドッドッと胸を打つ速度が上がると体温が上がって、天津飯はほんのりと汗を掻いた。
「してくれねえんか」
悟空の小さな口が動く。
「いつも、おめえがしてくれただろ」
天津飯は何のことを言ってるのか分からなくて固まったが、その後すぐに悟空はキスのことを言っているのだと気付いた。悟空はドアの前に足を止めた時に見せた寂しそうな表情をしていて、あの時の気持ちは嘘じゃないんだと天津飯は思った。
天津飯はそっと体を傾けて近付くと、悟空に顔を寄せて何年振りかのキスをした。恥ずかしいな、と悟空は言って、天津飯は損したような気持ちになった。悟空が求めたんじゃないのかよって悪態をついて、同時にお前にはチチがいるだろう、と天津飯は出かかった言葉を飲み込んだ。
天津飯は悟空が好きだった。だがキスをしていた当時、悟空が自分をどう思っているのか、何を考えているのか分からなくて、天津飯は気持ちを伝える勇気がなかった。それは今も同じで、悟空の考えていることは何一つ分からず、しかし分からなくても、天津飯は一方的に悟空が好きだとあらためて思った。
キスをして、顔が離れた後も、悟空はじっと天津飯を見つめていた。なぜ自分を見つめてくれるのか、なぜ俺と触れた手を払わないのか。
悟空からだって、キスをしてもいいはずだって、天津飯はさきほどのキスが妙に虚しく思えた。
狭いベッドの中、お互いの承諾を得てキスもする仲なのに、何も進展しない悟空との関係に情けなくなった。きっとヤムチャや、クリリンが同じ状況なら、押し倒したり、迫ったりしたんだろう。
俺はどうしたらいいかわからないんだ。天津飯は自分を自嘲するように心の中で呟いて、触れたまま動かせない手の行き場を探していた。

2021/12/15