あと少し出会うのが早ければ


ヴィランの攻撃によって過去に飛ばされたホークス。
その時代は炎司が高校生の時代だったというお話。
二人が過去の時代に出会ってあれこれします。
ゆくゆくは現代に戻りたいところ。

11/24のイベントで無配しました。
当日は手に取っていただきありがとうございました。


*   *   *

湿った土に無造作に生えた草。青臭い匂いが鼻をかすめると、ホークスは目の前の景色に驚いた。地面に倒れていたホークスが目を覚ました場所は木々に囲まれた山の中だった。
先ほどまで、ホークスは都市で暴れまわるヴィランと対峙していた。無事捕獲出来たと思った矢先、不意に受けた攻撃によってホークスは意識を失った。ようやく目を覚ましたというところ、なぜか知らない場所で倒れている。
幸いにも備わっていた飛行能力で地上を離れ、空から世界を見渡せば、そこが都会にほど近い場所なのだと分かった。ホークスは安心しながらも、先ほど捕獲したはずのヴィランが近くにいないことを心配した。自分が意識を失った後にまた暴れているのではないかと、ホークスは人の多そうな街の方向へ飛んでいく。
様子を窺うように地上を眺めると、街の中は賑やかで、ヴィランに怯えている様子はなかった。どうやらホークスが倒れている間、サイドキックや警察、もしくは他のヒーローが、無事ヴィランを捕獲したようだ。このまま事務所に戻ろうと、翼をはためかせながら飛んでいると、ホークスは大きな違和感を覚えた。
どうやらここは、地元である福岡ではないということだ。おそらく東京。それも、ホークスがいた筈の時代ではなさそうである。
街中にある看板が、どれもこれも時代遅れなのだ。ファッションも、芸能人も、ヒーローだって、随分前に流行したものばかりだった。街を歩く人々も、ホークスからみればおかしな格好をした人ばかりだ。しかしそう思うのはホークスだけで、人々は楽しそうに過ごしている。
おそらくこれがあのヴィランの個性なのだ。実際に過去に飛んでいるのか、幻覚を見ているのかは分からない。辺りを見渡す限り、この不思議な世界を作り上げている原因のようなものは見えず、どうやったらもとの世界に戻れるかも分からなかった。
ホークスは頭を掻きながら、この状況に頭を抱える。少し頭を悩ませたあと、ひとまずコンビニに行くことにした。おそらく新聞が売っているはずで、まず今の時代がいつなのかを知ることから始めることにした。


コンビニに着き新聞の発売日を覗くと、××××年○○月□□日と書いてあった。ホークスが生まれる八年前だ。どうやら三十年前の時代に飛ばされているらしい。どおりで、と納得しながら、ホークスは背中に汗を掻いた。頼れるものが何もない、という絶望感だ。コンビニでは何も買わずに店を出た。現金の手持ちが僅かしかないし、この現金もこの時代に使えるかどうかも怪しい。確か一部紙幣が一新されていた気がする、という曖昧な記憶が脳を巡り、呆然としたまま再び空へ飛びたった。
ホークスがふらふらと力のない浮遊を続けていると、広大な敷地を有した建物が目に入った。見慣れたマークがついていて、ホークスはそれが雄英高校であることを理解する。馴染みのあるものに出会うと、ホークスは少し心が軽くなった。雄英高校の出身でなくても、知っている場所に出会うと安心した。
ホークスは空を飛ぶのをやめ、地上に降りることにした。三十年前の雄英高校という貴重なものが見れるかもしれないと思うと、不安より好奇心が勝り、ホークスの気持ちは更に明るくなった。
授業中なのか、雄英の周りはとても静かだった。高い壁に囲まれて、外からは何も見えない。見ようと思えば上から覗くことも可能だが、それは悪いような気がしてホークスはあたりをうろついた。
暫くすると、正面玄関から何人かの生徒がパラパラと出てきた。どうやら下校の時刻らしい。日が長いのであまり気にしていなかったが、夕方の時刻になっていたようだ。
なんとなく見たことあるヒーローがいるような、いないようなという曖昧な気持ちを抱えながら、校門から出ていく生徒たちの様子を眺める。下校の時刻のピークを越え、次第に出ていく生徒がいなくなっていくと、そろそろここで時間を潰すのは終わりだな、とホークスは考えた。途端、再び直視しなければいけない現実に、ホークスはげんなりした気持ちになった。
飛ぶ気が失せて、踵を返してその場を去ろうとすると、一際大きな体をした深い赤色の髪の男がホークスの目に飛び込んできた。三十年前の姿とはいえ、ホークスはそれが誰だか一目で分かった。ホークスの憧れたヒーロー、エンデヴァーの姿である。
ほかの学生と比べると、既に一回りも大きな体をしているが、それでもホークスの知るエンデヴァーと比べると、まだ細く、幼さも残る。学生とは思えない威圧感のあるオーラをまとっているが、それでもまだ若さを感じ、エンデヴァーとはいえ、そこは高校生といったところだ。
ホークスは立ち去るのをやめ、自然とエンデヴァーの背中を追った。この世界では自分より年下とはいえ、それでもホークスにとって憧れの人であることに違いはない。気軽に声を掛けることが憚られ、黙って後をつけることしかできなかった。
ホークスは静かに上空に身を移すと、そのまま気付かれないような距離をとって、エンデヴァーの後を付けた。ストーカーじみていると思いながら、どうせこの世界に自分は存在していないのだと思うと怖いものなんてなかった。静かに羽を動かしながら、エンデヴァーの姿を追うと、学校からほど近いアパートに向かっていった。エンデヴァーの地元は雄英から遠かったという記憶を思い出しながら、上京して一人暮らしをしているのだろうと推測する。ヒーローの下積み時代を見ているような気持ちになりながら、ホークスはエンデヴァーがアパートに入っていくのを見守った。


ホークスは今夜の宿を探しながら、自分の行く末を考えた。自分さえ存在しない過去の世界に飛んでしまった状態じゃ、ホークスは無力に近い。現実世界の仲間たちが自分を救ってくれることが一番の解決策だろうと思った。
とはいえ、今の自分でも何かできることがある、と考えれば、それは生き延びることだ。僅かしかない資金をやりくりし、あるかもしれない現実世界への戻り方を探しながら、ホークスはこの世界で信じて待ち続ける。
まずは明日、管理局に行き、事情を説明することにしようとホークスは考えた。ヴィランの個性によってこの世界に飛ばされてしまったと、正直に伝える。一応、免許証は持っているし、自分がヒーローである証明になるかもしれない。事情を考慮し、うまくいけば資金の援助をしてもらえることもあるだろう。もちろん、こっちの世界で市民を守ってもいい。それの対価として貰うことだってかまわない。ホークスはそんなことを思いながら、沈んでいく夕日に負けぬように、空を飛び続けた。
ホークスは人気の少ない公園で野宿をすることに決めた。今は一円でも無駄にできない。幸いにも、今の季節は温かく、自前の羽を巻きつければ風邪を引くことはないだろう。
ホークスはそう前向きに考えながら、公園のベンチに横たわった。自分を鼓舞するように思いを巡らせたものの、このまま元の世界に戻れなかったらと思うと、なかなか眠りにつくことはできなかった。

2018/11/28