晴れた日は鳥の鳴く声が


没落貴族ベジータ×農家カカロットのベジカカです。
完全パラレルワールドです。
街を追われたベジータが一人暮らし農家のカカロットのところに世話になっていく話です。


*   *   *


ロクな雨除けにもならないマントを靡かせ、ベジータは森を彷徨っていた。街を追われた没落貴族は、生きるために食べ物を探す。食べられるかも分からない木の実に手を出し、野山に流れる川で水分を摂る。
いつのまにか家臣たちは逃げ失せて、ベジータはただ一人になっていた。しかしベジータの心は折れることなく、生きるために無我夢中になった。いつか再び栄華を取り戻すその日まで、ベジータは心の炎を絶やさない。
ベジータが着ていたマントはその誇りの証だった。煌びやかな装飾が付いた、マントとしての実用性を失ったそれは、まさに権威の象徴。逃げるように家を飛び出さねばならなかったベジータは、自分の誓いを忘れぬように、逃げる間際にそのマントを抱えていったのだ。
しかし、その不屈の精神があっても、肉体的な問題を解決できるわけではない。もう何日もまともな食事をしていなかったベジータは、全身に力が入らず、歩くのもやっとだった。食べられそうな獣も見当たらず、しかし見つけたとしても、今のベジータには食糧として確保できるほどの力も出なかった。視界はだんだんと小さくなり、もやがかかったようにぼやけていく。
生きるために森を彷徨ったベジータは、不意に目眩に襲われると、そのまま倒れ込んだ。ベジータは悔しくなりながらも、次第に意識が遠のいていった。


特徴的な鳥の鳴き声に起こされ、ベジータはゆっくりと目を覚ました。目の前は青空ではなく、木で作られた家の天井で、ベジータは見知らぬベッドの上にいた。部屋にはテーブルが一つと、小さな棚があるくらいで、とても小さな家だった。
ベジータは一人で、他には誰もいなかった。しかしテーブルには先程まで誰かが飲み物を飲んでいたマグカップだけが置かれていて、誰かがここにベジータを運び込んだのは間違いない。
ベジータは目が覚めて、状況を把握すると、すぐに空腹に襲われた。空っぽの腹は胃酸だけが過剰に分泌され、ベジータはひどい気持ち悪さを覚える。相変わらず体に力は入らないが、ベジータはなんとか体を起こし、家主を探そうと外に出る。
部屋の壁に手をついて、フラフラとした足取りで外に出ると、見慣れた景色が広がっていて、ベジータはこの家が先程いた森の中にあることを把握する。辺りを見渡すと、家のすぐそばに畑があり、そこにはいくつか野菜が実っているようだった。
「気が付いたかー!」
遠くから、ベジータに向けて誰かが声を掛ける。ベジータは声のする方に顔を向けると、そこには首にタオルを巻き、軍手をした男が大きく手を振っていた。おそらくこの家の持ち主だろう。
手を振っていた男は作業の手を止め、ベジータの元に近付いていく。男の全身は土で汚れていた。
「もう歩いて大丈夫なんか?」
男は流れる汗を首に巻いていたタオルで拭いながら、心配そうに言った。首に巻いていたタオルも、ところどころ土で汚れていた。
ベジータはそれを不潔だと思い、男の世話になった自分が情けなくなった。こんな薄汚い男に助けられるくらいなら、死んだ方がマシだとさえ思った。
世話になった、とだけ告げ、ベジータは踵を返す。没落したとはいえ、べジータは貴族であり、まだその誇りは失っていない。情けをかけられる事は許せる行為ではなかった。
………グウ。
男に背を向けた瞬間、べジータの腹から大きな音が響いた。ベジータは恥ずかしさで震えた。自分が心底情けなかった。
「メシ、食ってけよ」
背中越しに男の声が聞こえる。ベジータは顔を赤くし、震えながら振り向いた。
「オラんとこの野菜うめえぞ」
男はベジータの腹の音なんて気にしないように、にこりと笑っていた。

2019/04/13