チェルシーガール


高校生、謎現代、ベジ×カカ♀
悟空に赤いチェリーのワンピースを着て欲しいという欲求を叶えようとしたらベジカカ♀っていう話になりました。
とても少女漫画になってしまってベジカカとは……?ってなったけど気にしないで下さい。

*本文とはあまり関係のない補足
悟空は昔から拳法をしていてそれで体を鍛えてきてましたが、学校に拳法部はないので空手部にはいっているという設定になっています。
なので拳法と空手が混ざっているのは間違いではないです。

イメソンは田村ゆかりの同名タイトル曲


*   *   *


ワンピースの袖がひらりと靡く。赤いサクランボの柄が可愛らしかった。
女の子らしくしなさいと、母に無理やり着せられた悟空は、風の通りが良くなった下半身に慣れない。母はよく似合うと言うけれど、悟空自身は見慣れない姿に違和感しかなく、自分が着せ替え人形にでもなったような気分になった。
母は随分とお気に入りのようで、隣町に住む祖父に見せてやりなさいと悟空を外に出した。悟空は街の鏡で自分が映るのを見るたびに、不格好な姿が嫌になった。このワンピースを着ていると、拳法で鍛えた体が、いつも以上に逞しく見える。悟空は隠しようがない手足を、少しでも目立たないようにと背中を丸めて歩いた。祖父の家に着いたら、すぐに着替えてしまおう。自身を抱きしめる様に腕を回しながら、悟空は体を縮こめて進んでいく。
電車に乗る際には、悟空の顔は自然と俯いていた。街の人々が自分を見て笑っているような気になったからだ。
乗り換えの駅に着くと、悟空はそそくさと電車を降り、駅の構内を早足で歩いた。ひっそりと、気配を消す様にして歩く悟空を、おい、と誰がが呼び止める。知り合いに見られるなんてとんでもないと、声の主を無視して先を急ぐと、悟空はぐいと腕を引っ張られた。
「聞こえているだろう」
声の主は隣の学校の空手部主将、ベジータだった。いつも難しい顔をしているベジータは、悟空が無視をしたからか、いつも以上に不機嫌そうに言った。
「わりぃ、気付かなかった」
悟空は頭を掻きながら、誤魔化す様にいう。ベジータはフン、と納得いかないように口を結んだが、それ以上は追及しなかった。
「どこに行く」
「じいちゃんのとこだ」
悟空は面倒臭いと思いながら、ベジータの問いに答える。いまだベジータが腕を放さないので、悟空は逃げることができなかった。
ベジータはふうん、と鼻を鳴らすと、悟空の体をじろじろと眺めた。上から下まで舐める様な視線を悟空に注ぐ。
「なんだよ」
悟空はその観察するような視線に耐えられなかった。ベジータが言いたいことなんて分かっている。似合っていないと、馬鹿にされるのがオチだろう。
不貞腐れるように言った悟空の言葉にベジータは何も言わなかった。反応がない、というのも怖いものだ。それなら面と向かって悪口を言われる方がまだマシと思えた。
「似合っている」
ベジータは悟空のワンピースを見つめていった。
ベジータからそんな言葉が飛び出すとは思わず、悟空は呆気にとられる。嬉しいとか、ほっとしたというよりも、ただ驚きが強かった悟空は、おお、と反射的に相槌をうつことしかできなかった。
不意に場内アナウンスが流れると、悟空が乗る予定の電車がホームに滑り込んできた。突風が吹いて、悟空のワンピースがひらひらとはためく。
ベジータは握っていた腕を放すと、気を付けろと悟空に気遣いの言葉を掛けた。悟空はまた驚いて言葉を失った。ベジータが人を気遣うなんて、今日は一体どうしたというのだろう。
風が強く吹いたら、スカートは押さえろ。ベジータはひらひらと揺れるワンピースを差していう。
そんくれえ、わかってるよ。悟空がそういってスカートを掴んだ。
ベジータはふっと小さく笑うと、きさまはそんなことも知らなそうだからな、と馬鹿にしたように言った。折角見直したと思ったのに、悟空のそんな気持ちも一瞬で失せてしまう。
「オラもういくから」
そういって振り返ると、ベジータは黙って悟空の背中を見送った。電車は悟空が乗り込んですぐに扉を閉めた。
慌てて飛び乗ったので、悟空の息は少し乱れていた。呼吸を落ち着けようと、悟空は電車の端に寄り、窓の外を眺めながら何度か深呼吸を繰り返した。
窓ガラスは反射し、うっすらと悟空の姿を映す。やっぱり自分の体は逞しく、悟空はどう見てもこの可愛らしいワンピースと自分が釣り合っているようには思えなかった。
“似合っている”
悟空はベジータの言葉を思い出しながら、反射する自分と見つめ合った。悟空は自分の頬がうっすらと赤くなっていることに気付く。
そんなに激しく走っただろうか。悟空はなかなか落ち着かない胸に手をあてながら、反射する自分を暫く見つめていた。




[newpage]
雲一つない青空は眩しく、真夏を思わせる陽気だった。体に浴びる風は冷たくて、今がまだ五月だということをベジータに思い出させた。
ベジータは部活の対外試合の為、隣町のD市に向かっていた。土曜日の街は出足が遅く、平日は人でいっぱいの電車はガラガラに空いていた。乗り換えの駅に着くと、社内の殆どの人が一斉にホームへ降りていく。ベジータもその一人だった。
ベジータが市営線へ乗り換える途中、特徴的なくせ毛をした人物が目の前を横切った。背中を丸め、顔を伏せるようにして歩いていたが、ベジータはそれが誰だか一目で分かった。ライバル校の空手部員の一人、孫悟空だ。ベジータは幼馴染のよしみから、カカロットと呼んでいる。
悟空は見慣れないサクランボ柄のワンピースを着ていた。ベジータはその姿が珍しく、悟空を視線で追いかける。
悟空が歩いて行った方向は、C県に向かう路線だ。悟空はベジータと同じS市に住んでいるが、S市内でも随分田舎に住んでいた。この乗り換えの駅に来るにも、二時間はかかる場所だった。
ベジータはわざわざこんなところまで一人で出てきた悟空のことがますます気になった。それも、お洒落とは無縁の、色気のない悟空が妙にめかしこんでいる。誰か特別な人に会う約束でもあるのだろうか。
そう思うと、ベジータは自分の用事も忘れ、足が動いていた。早足で進む悟空に向かって、ベジータはおいと声を掛ける。
悟空は一瞬ぴくりと肩を揺らした。ベジータの声が聞こえたようだが、足を止めることはなかった。
人のことを無視して先を急ぐほど、会いたい人だというのか。ベジータはすっかり悟空が誰かに合うと信じ込んでいた。ベジータは苛立つ心を抑えながら、悟空の腕を強引に掴んだ。
「聞こえているだろう」
ベジータは冷静を装ったつもりだったが、怒気のはらんだ声は隠せない。悟空はばつの悪そうな顔をしながら、気付かなかった、と平謝りした。ベジータはそれが嘘だと分かっていたが追及はしなかった。口論になって、本当に訊きたいことを答えなくなったら困るからだ。
「どこに行く」
ベジータは一呼吸置いたあと、悟空に尋ねた。
「じいちゃんのとこだ」
悟空はあっさりと答える。
悟空の祖父は名だたる武道家だった。だいぶ歳をとり、指導者としては引退したようだが、今も鍛錬を続けていると聞く。悟空が向かう電車は、武道家孫悟飯が修行していると噂の町に向かう電車だった。
悟空のいうことは本当のようだ。ベジータはほっと胸を撫で下ろしたが、悟空がなぜ可愛らしいワンピースを着ているかは説明がつかなかった。悟空は孫悟飯の弟子の一人でもあり、そんな相手に会いにいくというのであれば、悟空の性格上、家から道着で出歩いてもおかしくない。
ベジータは今日のこの日まで、悟空がスカートを穿いている姿を見たことがなかった。悟空とは学校が違うため、制服を見る機会がないし、顔を会わせるのは空手の試合の時だけで、殆どが道着姿だ。幼い頃に何度か私服姿を見たことがあるが、その時もいつも緩めのズボンを穿いていた。
ベジータは悟空の体を上から下までじっと眺めた。いつもは道着の下に隠されている足は、筋肉の筋がはいるほど鍛えられ、日に当たらない為にやけに白かった。悟空は女性の中でも特別逞しい体をしているが、数多の屈強な男たちを見てきたベジータにとって、いくら強くても悟空は女性の体をしていた。捕まえた悟空の腕も逞しいものだったが、握ってしまうとやたらと細く感じた。こんな細腕でも、戦えばほとんどの男が相手にならないほど強いというのだから不思議なものだ。
「なんだよ」
ベジータが暫く黙っていると、悟空は不満そうな顔をしながら投げやりにいう。なぜか少し怒っているように見えた。
急いでいるところを無理やり引き止めたからだろうか。そう思ったところで、ベジータは自分の用事を思い出した。これから対外試合があって、ベジータもこうしてゆっくり話している暇はない。
「似合っている」
不機嫌そうな悟空に、ベジータはせめて褒め言葉の一つでも贈ってやろうと思った。この言葉は怒らせてしまった悟空への償いでもあったが、なによりベジータが感じた事実であった。鮮やかな赤色をしたサクランボ柄が、色白の悟空の肌によく映えた。鍛えられた体は健康的で、スカートから伸びる足が綺麗だった。なぜか今日は姿勢がよくないが、いつも通り背筋を伸ばせば、そのスタイルの良さに人々は目を奪われることだろう。
悟空は道着がよく似合う。だが、今日のワンピース姿も、同じくらい似合っていた。ベジータが悟空にやたら突っかかってしまったのも、今日の悟空を可愛いと思ったからだ。
悟空は嬉しそうな顔一つせず、おお、と素っ気なく返した。悟空の返事は、まるで試合前の日常の一コマのようだ。
可愛くない奴だ。
ベジータは反応の悪い悟空をみて、内心悪態をつく。一瞬でも可愛いと思った自分が馬鹿らしく思えた。
不意に場内アナウンスが流れると、一つの電車がホームに滑り込んできた。突風が吹いて、悟空のワンピースがひらひらと揺れる。
ベジータは慌てて握っていた手を放した。風でスカートが煽られ、下着が見えてしまうなんてあってはならない。
ベジータは手を放してすぐ、悟空のワンピースに指を差しながら、スカートを抑えろと言い放つ。悟空はムッとしながらワンピースの裾を抑えた。直前までベジータに腕を取られていたのでは、悟空だってやりようがない。
わかってるよと返す悟空をみて、ベジータは自分のせいだったことに気が付いたが、自分の間抜けさを誤魔化す様に小さく笑った。きさまはそんなことも知らなそうだからな、と言い訳のように言えば、悟空はハァ、と小さく溜息を吐く。
「オラもういくから」
悟空は掴まれた腕が解放されると、すぐさま背を向け、逃げる様に走り出した。ベジータは自分の過ちでいたたまれなかったので、悟空のことを呼び止めることはしなかった。パタパタと小走りで去っていく悟空のワンピースは、ゆらゆらと誘うように揺れていた。

2019/05/19