グレイゾーン11
「けっ、ガキなんか相手にするかよ」
男はそう言って悟空に背を向ける。相手にする気は全くないようだった。
男はギネに顔を合わせると、途中になっていた話の続きを喋り出した。遠征先で主要拠点を潰し、その数は今回の遠征メンバーの中で一番だという。
「すごいじゃないか!」
「拠点のリーダーってヤツが大したことなくてよ。なのにイキがりやがって。部下を何人か消してやったら、ヤツの顔の変わりようったらないぜ」
悟空は男の報告を聞きながら疑問を持った。部下を消すという意味は、悟空の知る意味と同じだろうか。
「なあ、」
悟空は愉快に話す男の言葉を遮る。男は途端に不機嫌そうに悟空を睨みつけ、ああ?と低い声を出して凄んだ。
「消しちまったって、その部下ってヤツ、殺しちまったのか?」
「ああ? 当たり前だろうが。それ以外に何があんだよ」
男は悟空の質問をうざったそうに答えた。
「殺すことねえだろ。おめえの話じゃ、相手はもう負けてんじゃねえか」
「何言ってんだてめえ。頭おかしくなったか?」
「オラおかしいこと言ってねえ」
食い下がる悟空に男は苛立つ。話にならないと声を荒げた。
久しぶりの再会だというのに、険悪になってしまった二人の間にギネが割って入る。カカロットは外の星で育ち、幼い頃に記憶を失ってることを男に説明した。
「だからそんな変な喋り方なのか? ったくそんなにデカくなっても、手が掛かるのは変わらねえ」
「そんなこと言うんじゃないよ。ここの暮らしになれたら、きっと昔のことも思い出すさ」
ギネは男を宥めすかす。それでこの件は解決したかに思えたが、悟空の疑問はさらに増えていた。男の発言に対して、ギネは何も否定しないのだ。
「か、母ちゃん……。母ちゃんは、人を殺しちまったこと、何も思わねえんか?」
悟空は恐る恐る尋ねた。優しい母から、自分の想像する最悪の答えを聞くのが怖かった。
ギネは悟空の言葉に驚いていた。それは男が悟空に対してするような、想定してない発想への驚きだ。
「思わねえってなんだい……?」
ギネは悟空の質問の意図さえ分からなかった。それはこの星では人を殺すことが当たり前だという証であった。
悟空はそれ以上、男の行為について尋ねたりはしなかった。その代わり、遠征がどんなものかを尋ねた。
惑星ベジータで行う遠征とは、文明の高い星を征服し、高く売り飛ばすことだった。遠征先の征服の仕方はその星によって異なるが、抵抗次第では住人を一人残らず滅ぼすことも珍しくはない。それがこの星で一番稼げる商売であり、政策だという。
悟空はギネの話を聞くたびに動悸が激しくなった。信じがたい行為は日常的に行われており、この星にとって遠征に選ばれることは名誉でもあった。戦闘員は憧れであり、かつてギネも遠征に参加したことがあるという。時折、男がギネの話に口を挟み、武勇伝を語れば、悟空は汗を掻くほど胸がドキドキした。男は蛮行を誇らしげに語り、ギネはその話を嬉しそうに聞いていた。二人の話の中で一体いくつの住人たちが死に、星が滅んだのか。考えれば考えるほど、悟空は悲しみで胸が苦しくなった。
だが二人の表情に悲しみはない。地球とは違う文化なのだ。よくないことだと説いても何も響かない。なぜ悪いかが理解出来ない。この星では強さが絶対的で、弱きものが淘汰されることは当然なのだ。
ギネは悟空に言った。強く産んであげれなくてごめんねと。強く産むことができたなら、悟空は飛ばし子にならなくてすんだと。
悟空はギネから母親の愛情を感じながらも、弱い者は死んで当然だと言う文化が根付いていることも感じた。だからこの星で生きていくためには、強い子供を産まなくてはならないのだ。
2020/09/14