グレイゾーン12


悟空は気分が悪くなった。父と母に、人は殺してはいけないと懇々と言ってやりたくなった。だがそんなことをしても無駄である。父や母が悟空の話に納得したとしても、この星の中でたった二人が理解しただけでは、この蛮行は止められない。
悟空は無力だった。力づくで遠征を止めようとしても、力の差と、圧倒的な数の差で、到底止めることは敵わない。
悟空は話の途中にゆっくりと立ち上がる。もうここにいたくはなかった。悟空は折角会えた父と母を嫌いになりたくなかった。
初めて地球を出て旅をした悟空にとって、何が正しいかなんて判断ができない。広い宇宙の中で生きていくためには、この星のような蛮行も必要なのかもしれない。そう思うと、父と母を単純な悪人とすることはできない。
だがそれでも、悟空はこの星の蛮行が許せなかった。そしてそれがいかに感情的な発想かもわかっていた。
悟空はこの星の理解しがたい文化に参っていた。自分にはなかった発想と行為が一気に押し寄せ、整理ができず頭の中がぐちゃぐちゃになる。地球と似ているところがある、美味しい食べ物もある、そう思って、悟空はこの星を気に入っていた。自分の知らない故郷を眺めながら”もしずっとこの星で暮らしていたら”そんな妄想さえ浮かべたこともあった。
「オラ、行くとこあんだった」
その言葉は嘘である。行くあてなんてない。
「そうかい? 引き止めて悪かったね。気を付けてくんだよ」
ギネは悟空の身を案じる。その優しさに偽りはない。その優しさが少しでも他所の星に向けられたら。悟空はそう思いながら振り返る。
「行ってくる」
悟空は背を向けて歩き出した。


2020/09/14