グレイゾーン14
ベジータは王宮敷地内にある中庭にいた。整備された木々の中に、飾り細工がついた立派なベンチが並べられている。ベジータはその一つにゆったりと座り、一人の時間を過ごすのが好きだった。その場所はベジータ以外誰も立ち入らないようにきつく周知されており、その日もまた、ベジータは一人でデスクワークの休憩を取っていた。
「よお!」
突然現れた来訪者は先日不時着した下級戦士だった。無作法にも勝手に王宮内に立ち入ると、王子であるベジータに対し気安く話しかける。その無礼な振る舞いに対し、ベジータは返事の代わりに気弾の一つでも放ってやろうと思った。だが小さく舌打ちをしただけで、ベジータはその男の無作法を黙認した。
「カカロット。きさまなぜここがわかった」
ベジータがいた中庭は王宮地図内には存在しない、隠された場所だった。そこはごく一部の人間しか知らない王族用の避難場所である。スカウターで位置を探られないために特殊な電磁波が流れていて、ベジータが秘密裏に作らせた空間だった。
「おめえの気を探ったんだ」
ベジータは悟空のいうキというものが何かは分からなかったが、この男がスカウターも使わずに人の位置を探ることができるということは理解した。ベジータは悟空が底知れぬ力を持っているとはわかっていたが、予想もつかない能力がまだあることに驚いていた。
「なんのようだ」
ベジータは腕を組み、じろりと悟空を睨みつける。男は急いできたのか、ハアハアと息を切らせていた。
「おめえ偉いんだよな? 悪ぃけどよ、よその星に行くのやめてくんねえか」
突然の来訪の上、男は無茶苦茶な頼みごとをする。まだ息も整わない悟空は、汗を拭いながら言い放ち、まるで人にものを頼む態度とはいえなかった。ベジータは激しく苛立ったが、悟空の特殊能力を奪うまでは殺すわけにはいかない。ベジータは己の怒りを落ち着かせるように目を伏せると、悟空の頼みごとを冷静に断った。
「ふざけたことをいうな」
「ふざけてねえよ! オラ本気だ。よその星に行って殺し合いしたり、他人(ひと)のもん盗ったりしちゃいけねえ」
ベジータは話にならんと一蹴したが、悟空は全く引かなかった。殺しや略奪はよくない、今すぐやめろと言ってきかなかった。
だが悟空がどれほどしつこくいってもベジータには何も響かなかった。ベジータにとって強き者が生き残るのは当然であり、死にゆく弱い者たちから何を奪おうと勝手である。それどころか、宇宙随一の強さを誇る戦闘民族に滅ぼされることを名誉に思うべきだとさえ思った。
「そんなことねえ。他人(ひと)のもんは他人(ひと)のもんだ。命を奪うのもダメだ」
悟空の目は真剣だった。本当に殺しや略奪に対して怒りを持ち、止めようとしている。
だがベジータにしてみれば悟空の主張は滑稽であった。下級戦士の考えることなんてその程度かと、子供が語る夢のように現実味のない話だった。
2020/12/06