グレイゾーン15


「フフ……いいだろう。きさまがオレに勝てたら考えてやってもいい」
ベジータは悟空のいうことなんてまるで相手にしていなかった。ゆえに、ベジータの提案は守る気のない口約束だ。
「サンキューベジータ! やっぱおめえは話の分かるヤツだ!」
だが悟空はその言葉を信じた。もともとベジータと本気で戦いたいと思っていたところ、目的と同時に実現できるとあれば悟空にとっても都合がいい。
それから二人の展開は早かった。ベジータは身に着けていたマントを脱ぎ捨て身構える。先ほど笑っていた悟空もまた、間髪も入れず戦闘の態勢に入った。中庭は狭く、戦闘には不向きだったが、戦いに意識が向いた二人には関係なかった。
一定の距離をとっていた二人は互いの呼吸を読み、動き出す。双方の腕と足が飛び交い、受け止め、交差する。互いの力が拮抗すると、はじけ飛ぶように二人の間に距離ができた。ベジータが反射的に手を重ねると、その手のひらの中に光が宿る。悟空の背中にゾクリと冷や汗が走ると、悟空もまた手を重ねてかめはめ波の構えをとった。だが一瞬早かったベジータの手のひらから閃光が放たれると、悟空はわずかにできた気弾でベジータの巨大な閃光を受け流すことしかできなかった。なんとか身をかわした悟空だったが、ベジータの放った閃光は悟空の背後から見える範囲を丸ごと消し飛ばしていた。
ハハ……。悟空は呆気にとられて笑う。ベジータは巨大な気弾を放った後でもまだ多くの力を残していた。
悟空はベジータと出会った時、少しだけ手合わせをしたあの感触が忘れられなかった。あの時、ベジータは本当に悟空のことを殺すつもりだった。悟空はそう気付いた上で、ベジータが何らかの理由で自分を生かし、手を抜いたことまでわかっていた。
だが悟空は本気のベジータと戦ってみたかった。それはこうして条件を付けることで実現することとなる。
悟空はベジータに勝てると思っていたわけではない。寧ろ無謀な戦いとすら思っていた。こうして対峙していても、その気の大きさは悟空が今まで出会った人物の中で飛び抜けている。そこまで理解していたはずなのに、その力の差は悟空が想像していたよりも大きいものだった。
「めえったな……」
この星の蛮行を止めるためには、人々を一人ずつ説得していくことよりも、王子であるベジータに勝ち、政治的にルールを変えてしまうことのほうが現実的である。サイヤ人と戦いを繰り返していては、命がいくつあっても足りないからだ。
だがあらためて手を合わせ、ベジータとの力の差を思い知ると、ベジータを倒すまでにどれくらいの時間がかかるか測り知れなかった。
「まだやるか?」
ベジータは不敵に笑う。悔しいが、今の悟空では到底敵いそうにもなかった。
いますぐにでも蛮行を止めることが理想的ではある。しかし元より、悟空はこの問題がそう簡単に解決できるとは思っていない。
二人の戦いは終わった。殆ど傷付くことなく終わったが、その結果は言葉がなくとも明白なものだった。
悟空は諦めたわけではない。無理を承知で頼んだ願いを受け入れられただけでも十分な収穫だった。
力が抜けた悟空は小さく息を吐く。その朗らかとした表情とは裏腹に、強くなりたいという思いが燃え上がっていた。
ベジータはやる気に満ちる悟空を見て愉快な気持ちになっていた。近い未来、殺されるとも知らない悟空を間抜けなヤツだと笑っていた。


2020/12/06