「ヒノト、今何飲ませたの…?」

それはキスの合間に流し込まれた甘くてとろみのある液体だった。わたしが吐き出さないようにヒノトはわたしの顎を上げてそれを飲み込むまでキスをやめてくれなかった。

「今日はもっと乱れたコトカを見たいなと思ってさ」
「え?」
「媚薬、だよ」

目を細めて笑うヒノトは相変わらずキレイだけどその言葉に背筋が瞬時に冷えた。
媚薬…いくら恋愛に疎いわたしでもその言葉も、それが引き起こすことも知識として知っている。だからこそ戸惑いを隠せず、声が出なかった。

「ふふ、でも体内に吸収されるまではもう少し時間がかかるから外からも吸収してもらおうかな」

そう言うやいなやヒノトは慣れた手つきであっという間に帯を解いてわたしを肌蹴させた。まだ動かないわたしの体をヒノトはじっと見つめて愛おしそうに口元を緩めた。
恥ずかしさから逃げたいのに、動けない。声もまだ出ない。
それをいいことにヒノトはわたしを押し倒してキレイな瓶の蓋を開けた。

「この流れからなら分かるよね?これも、媚薬だよ」

『体に塗るためのね』と瓶を傾けて中の液体を手のひらに流した。
それを温めるように両手で包み込みヒノトの手のひらに、指に、それが満遍なく絡まっていく。ヒノトの手の中で小さく音を立てるその液体にわたしの心臓は不安からなのか、それともさっき飲まされた媚薬が少しずつ体の中に回ってきているせいなのか、鼓動が速くて、うるさい。

「コトカ、沢山乱れてね?」

するりと胸に這ったヒノトの指先は温かくて、でもぬるっとした感触がいつもと違って変な感じがする。それに、いつもよりなんだか触るのがゆっくりで弱くて、まるで媚薬でどうなるのかを確かめたいっていうヒノトの意思を感じる。

ヒノトは胸からお腹に、足に、背中に。私の全身にゆっくりとその液体を繰り返し丹念に塗っていく。
触れられるだけで体がこんなに反応してしまうのは、媚薬のせい…?

「コトカ、分かる?コトカの体どんどん熱くなって、俺の手火傷しそうだよ」

漏れそうな声を必死で抑えてヒノトを見ると熱を帯びたヒノトの目にはいまにも溶けてしまいそうなわたしの顔が映ってる。やだ、やだ、そんな自分の顔なんて見たくない。
…見たくない、のに。なんで、どうして、ヒノトから視線を外せないの?

「それにほら、そんなに触ってないのにぷっくり起ち上がってるよ、コトカのここ」

熱くなった体にヒノトが冷たい息をかけた。その場所は胸の先。ただ、それだけなのに体に甘い刺激が強く走る。

「ふっ…ん、」
「声、かわいい。それに甘くてもっと聞きたくなる」

面白そうにヒノトは繰り返し息だけをそこにかける。くすぐったくて、もどかしくて、疼いて…徐々に漏れだす自分じゃないみたいな声が羞恥を煽る。

「コトカ、声我慢しないでもっと聞かせて?」

胸の先に触れそうで触れないヒノトの手は胸をやわやわと揉む。そうしながらわたしの耳の形をなぞるように舌を這わせて熱い吐息を聞かせてくる。
わたしの弱いところ、知ってるくせにわざと外してくるのはなんで…?乱す、ってわたしの口から沢山何かを言わせたいってことなの?それとも意識を失うくらいの甘い感覚をわたしに与えるってことなの?ヒノト、ねえヒノト、分からないよ。

「いつも以上に敏感なコトカ、かわいい。もっと沢山その顔も見せて?」
「ひ、あっ、ん…!」

急に弱いところを刺激されて大きな声が出てしまった。
体が自分の体じゃないみたいに熱くて、少し気怠くて、頭がぼうっとする。ああ、飲まされた媚薬が体中に回ってしまったのかな。もう考えるに考えられない。考えなくていい、かな…

「もっとしてほしい?」

分かってるくせに、なんて今は言い返すことさえ出来ない。なら、全部ヒノトが飲ませたり塗ったりした媚薬のせいにしてただただヒノトに身を任せた方がいいのかもしれない。媚薬の効果がいつまで続くかは分からないけど、意識を手放してしまえばその間は何も考えなくて済むよね…?

「……して、」
「ん?」
「…もっと、たくさん、して、ヒノト」

こんなのわたしじゃないみたい。けど言葉も声もわたしで。…理性だけがどこかに置き去りにされたみたいだ。

「さっきみたいに触るだけでいい?」

そんな意地悪な言葉にも腹は立たなくて、ただただ本能に従うようにわたしは言葉を紡ぐ。

「やだ…それだけじゃ、たりない…もっと、あまくしびれさせて、」

ヒノトが足りないと頭も体も訴えている。もどかしいのはもうやめて、ヒノトをもっと感じさせて。そしてこの熱から早く解放して。
その想いをぶつけるようにヒノトを引き寄せて唇を重ねた。ねだるように舌を絡めて、はしたなくヒノトに自分の胸を押し当てて。ヒノトも熱に浮かされてしまえばいい。

「はっ…コトカの要望には応えてあげないとね」

妖しく笑って、今度はヒノトから唇を重ねてくる。わたしがしたそれよりも深くて、息が出来ないくらい苦しくて。でもその苦しさの中に甘さがあって、求めてしまう。
口づけしながらヒノトの指はわたしの弱いところを強弱をつけながら責めてくる。くぐもった声がわたしたちの唇の隙間から漏れ出す。

「コトカ、すごいね。もうお尻まで濡れちゃってるよ」
「っ、ああっ、ひ、のとぉ…」

ヒノトの指がわたしの中に入ってくる。わざと大きな音を立てて聴覚さえ狂わされる。

「こっちの方も硬くなってる…コトカ、やらしい」
「んんっ、やぁ、」
「もっと甘く痺れたいんだよね?」

刺激が強すぎて言葉が出ない。言葉の代わりに何度も頷けばヒノトは指を増やしわたしの中を甘く解していく。
びりびりと全身に走る甘さが気持ちいい。ヒノトの与えてくれる甘さと言葉がわたしの頭を、体をどんどん別人にしていく。

「コトカの甘い。もっとちょうだい」

指を舐める仕草は色っぽくて、視覚が狂わされる。
ヒノトはわたしの両膝の裏に腕を回して下半身を持ち上げ、自分の方に引き寄せた。そしてその不安定な状態のままさっきまでヒノトの指が入っていたところに今度は舌が入り込む。
恥ずかしい体勢なのに、今のわたしにはそれすらも甘さに変わってしまう。ヒノトの柔らかな髪の毛がヒノトの動きとあわせて足をくすぐる。ずるい、全部、気持ちいい。

「ひぁ、ん、うぁ…」

ヒノトの舌も、体も熱い。ヒノトも理性、なくなってきてる…?
そうなら嬉しい、な。一緒に気持ち良くなりたい。

ヒノトの舌は中を這うだけじゃなくて溶けだしたそれを掬いあげて時折飲み込む。まるでわたしが溶けたアイスか何かになってしまったような感じだ。

ぴちゃぴちゃと小さく聞こえる音は絶え間なく続くかと思っていたのに、不意に聞こえなくなったと思ったらわたしの視線からヒノトが消えて枕が目の前にあった。
あっという間に変えられた体勢に驚く暇もなく、ヒノトの熱くなった胸板がわたしの背中を覆って、わたしの胸の先に刺激を与えながら耳元で甘く囁いた。

「コトカ、1番甘く痺れさせてあげる」
「っ、ああっ…!」
「いつもと違うとこに当たって気持ちいいでしょ?」

あまりの刺激に私はシーツを握りしめた。だめ、これ、だめだ。

「っ、コトカの中熱くて、とろとろで気持ちいい、」
「ひの、とっ、ひぅ、あ…っ!」
「はっ…そんなに締めつけたら、あとが持たなくなるよコトカ」

そんなこと言ったって体が勝手にそうしてしまうんだから、どうすることも出来ない。
それにそう言いつつ動きを止めないヒノト。ヒノトが動く度にわたしは声をあげて、呼吸を乱して、シーツを握る手に力が入る。だらしなく開いた口からは唾液が垂れてしまってシーツに染みを作っていた。

ヒノトはわたしが意識を失わないように意地悪く動きに緩急をつける。意識を手放したいのに手放せないもどかしさに、いつも見えているはずのヒノトの顔が見えない寂しさに、力の抜けた体で少しだけ後ろを向く。そこには汗をかいて、熱い吐息を漏らしているヒノトがいて、視線があうと微笑んでくれた。

「ひ、のと、」
「なに、コトカ」

『ヒノトのかおをみながら、いっしょにいきたい』
水分の少なくなった喉から絞り出すように発した言葉にヒノトは目を少し見開いた後、嬉しそうに笑って、くるりと器用にわたしをひっくり返して、わたしの視線にはヒノトがしっかり入り込んだ。

「コトカ、かわいすぎて反則」

胸と胸がくっついて、唇と唇もくっついて、全部がヒノトに埋められている。

「じゃあ、一緒にいこっか」

ぐっとお腹の奥深くを押されるような刺激が何度もあって、その合間にわたしの弱いところも忘れずに刺激されて、視界が薄れていく。
擦れあう胸の先がじんじんと熱くて少し痛い。けど、甘い痺れの方が何倍もあって、わたしはその痺れに身を任せて声を出しながらヒノトの首に両腕を回して1番近くでヒノトを感じた。

「っ、コトカあいしてる…」

ヒノトのその言葉を聞いてわたしは意識をようやく手放した。











意識を失ったコトカの身支度を整えて、新しく敷きなおしたシーツの上に寝かせた。
小さく寝息を立てながら眠るコトカの頭を優しく撫で、さっきの乱れたコトカと今のコトカの違いに口元が緩む。

「かわいかったよ、コトカ」

でも1つだけ内緒にしてたことがあるんだ。
飲ませたのも体に塗ったのも媚薬じゃないんだよ、本当は。とろみのある甘いお酒とマッサージオイルが正解。
プラシーボ効果ってやつを期待してたんだけど、予想以上で驚いた。人の思い込みってすごい。騙すようなことしてごめんね、コトカ。…このことはこの先も内緒にするけど。
でもかわいいコトカが沢山見れて俺はすごく嬉しくて幸せだったよ。

「おやすみ、コトカ」

コトカを抱きしめてその温もりを感じながら目を閉じた。