「あ、っあ、やめ、やだ…っ」
シャツの前はすっかり開けられて、イヌイさんの手が、わたしのいろんなところに触れてしまう。 わたしは与えられるものに溺れていっぱいいっぱいなのに、イヌイさんはわたしを暴いていってしまう。ぼやけて合わなくなっていく焦点の先、わたしを見る目が優しい。言うことはいじわるなのに、声がやさしい。くるしいのに気持ちがいい、息ができない。目まぐるしく与えられる感覚に、わたしはついていけない。
「なんかっ、へん、やだ、」
「ん、」
「イヌイさ、やめて…っ」
「大丈夫」
棘のない穏やかな声。わたしを宥めるように唇を落としながら、イヌイさんの指がわたしのなかにあって、耳を塞ぎたくなるような音がする、
「ここ、気持ちいいだろ?」
「あっ、やだ…ッ!イヌイさん、」
「なあ、一個教えとくけど、そんな顔して泣きながら名前呼ぶとか、煽ってる以外の何でもないからな?」
イヌイさんの指がぐ、とお腹の中で動いた感じがして、わたしはもう口を閉じられない。がくがく震えるからだが怖くて、必死にイヌイさんにしがみついた。
「ひ、……っあ、は、」
「……っは、可愛い」
わたしに与えている張本人であるイヌイさんに助けを請うように、額を押し付ける。
「イヌイ、さ…?」
「お前ハジメテだし。いっぱい気持ちよくなってから、本番しような」
ちゅ、ちゅ、と、わざとらしいリップ音を立てて、いたるところに唇が落ちる。
「本、番……?」
「そ」
「今は…?」
「前戯?」
「だ、む、むりです、しんじゃう、」
本番の前の戯れで、こんなに息も絶え絶えなのに。必死にイヌイさんの腕に縋ったら、両方の手を絡め取られる。右手の指先にキスをされて、色っぽく吊り上がった口角に寒気がした。
「じゃ、一緒に死んでみるか」
:
目が覚める。起き上がる。時計を見る。さっき、わたしが起きたのは10時。今、17時。うそだ。時計と睨みあったまま、こちこちと一定の秒針の音を聞いている。わたしは、はだかの上に見覚えのない黒いTシャツを着ていた。
「起きた?」
これまたイヌイさんがいいタイミングでやって来たなあ、と思うわたしと、ぼんやりと彼に視線をやるだけのわたし。疲れからなのか、体と思考が伴わない。ひどく体がだるい。こっちに来る彼をぼんやりと視線で追って、わたしが彼を見上げるくらい近くなる。いぬいさん、とようやく反応すると、立ったままのイヌイさんは腰を追ってわたしの唇にキスをした。
「声ちょっと枯れてる。色っぽい」
ぎし、と。イヌイさんがベッドに膝を乗せて、わたしを覗き込むように背中を丸める。髪を撫でる
「あ、あの」
「ん?」
「ち、ちかいです」
「は?いいだろ別に。恋人なんだから」
「え?」
「は?」
「……イヌイさんとわたし、恋人なんですか」
「…何、お前そこまで鈍いの?」
はあ、と息をついたイヌイさんは、「まあ、でも、大事だよな」と誰に言うでもなく呟いて、わたし両頬をそっと包み込んだ。
「コトカ」
「は、はい」
「好きだ」
かあ、と頬が熱を持ったのが、このままだとばれてしまうんではないかと思う。身じろぎしようとしても遮られて、「お前は?」わたしに向けられる声は低くて甘い。
「わ、わかりません」
「はあ!?」
「わ、わかんないんですわたし、そういうの…!」
「へえ、」
イヌイさんがわたしを抱き込んで、ベッドに押し戻される。衝撃に耐えるようにつむっていた目に柔らかい感触がしてぱっと瞼を開けると、イヌイさんのドアップ。
「わ、」
「もういいわ。お前が俺のこと好きって言うまで抱き潰してやる」
「む!むりです、」
「知るか」
どこか楽しそうにわたしにキスをしたイヌイさんは、わたしのことを思いっきりだきしめて、くれた。