ぴんぽん、と。響くのは平凡なインターホンの音。起き抜けで部屋着のままだったコトカは、半袖にショートパンツという出で立ちのまま玄関へと向かった。実家から荷物が届くかもしれないと連絡が来ていたばかりで、コトカはその荷物が届いたのだと信じて疑わなかった。ドアホンを覗くこともなく、印鑑だけを持って。そのまま扉を開けたのが運の尽きだったと、後に彼女は思うことになる。
「…コトカ?」
そう、宅急便のお兄さんがいるのだと信じて疑わなかった先に、上司であり恋人であるヒノトの姿を認めたその瞬間に。
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「何か言い訳があったら聞いてあげるよ?」
コトカは部屋着のまま正座を強いられていた。それは精神的なもので、ヒノトが直接強いたというよりは、コトカが本能的に「するべきだ」と感じた、というのが最も正しい。うっかり判子を取り落しそうになるくらい動揺したコトカを、目を見張って見つめていたヒノトは、無言の二人の空間に裂け目を入れるように目を細めて、「入ってもいい?」口元にだけ笑みを湛えた彼に、コトカが反論する余地は全くと言っていいほどなかった。
コトカは冷や汗をかき何も言えないまま、ヒノトの怒りの原因について考えていた。否、大方の答えは分かっている。そんな薄着で外に出て、何かあってからじゃ遅いんだよ。そんなところではないだろうか、と。自分に非があることは勿論分かっている。しかし今回は間が悪かったという他にない。家族からの連絡があって、コトカの頭の中には来客イコール荷物の式しかなかったのだ。普段アポなしの来客だってそんなにないし、そもそも時間早いし、と心の中でボヤく。
「……家族からの荷物が届いたと思いました」
「判子持ってたもんね」
見てたのか、とまたボヤく。
部屋着はヨルシカがくれたお洒落な部屋着。薄手でモコモコした可愛いやつ。部屋着と銘打って売り出している人気のお店のものだから、百歩譲ってこれで外に出たことは大丈夫だと言いくるめることができるだろう。くたびれたTシャツとか着てなくてよかった、とコトカは内心溜息をつく。コトカの中での問題は、部屋着のその下、つまり下着、その上、つまりブラジャーをつけていないということだった。コトカは就寝の際、上を身に着けないのが常なのだ。寝苦しいしワイヤーが痛いしといつしか外すようになって、それが習慣化してしまった。別にそれはいいだろう。そこまで文句を言われる筋合いはない。ヒノトとの無言の駆け引きをしながらコトカは思う。ただそのまま、そのままの状況で男性の、たとえそれが宅急便のお兄さんだとしても。出るということをこの、目の前にいる恋人が、許すだろうかということで。
「…ヒノトさん、あの、わたしパジャマなんで、着替えてきてもいいですか」
いいですよね、という雰囲気を醸し出しながら立ち上がるべく腰を浮かせると、しっかりと腕を掴まれて、ヒノトの鋭い視線がコトカを射抜く。ああ、と。諦めの感情を帯びた鳥肌が、コトカの体中を駆け巡った。
「一人暮らしなんだし、もっと気を付けないと駄目だよね」
するりとヒノトの手がコトカの太腿を探る。ショートパンツ着用でむき出しの脚に、柔らかさを確かめるような手つきで触れて、コトカはびくりと体を揺らした。ごつごつした手が脚をまさぐる手つきに、やばい、とコトカは顔を青くする。咄嗟に彼の手首を押えても、力の差で相手にされない。左手は脚を擽るように触ったまま、右手がどんどん上に上がってくる。ヒノトの左手を押さえていた右手もヒノトの右手への抵抗に移しても、有無を言わさぬ力加減で、ヒノトの右手がコトカの服にかかる。