「……コトカ」

イナミが渋い顔をして近づいてくる。ああ、ばれちゃったかあ、という気持ちでそのまま直立していると、するりと手が伸びてきて頬に触れた。ますますイナミの眉間の皺が深くなる。イナミが厳しい顔をすることは普段なかなかないから、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。

「……熱い。コトカなら、自分の体調が分かんなかったなんてことないよね」
「大したことないよ」
「そうやって無理するの駄目だって、いつも言ってるのに」

唇を尖らせそう言うイナミは、ふう、と溜息をつく。イナミがわたしの体調が良くないことがばれてしまうことくらい、分かってはいるんだけど。わたしは自分の仕事に誇りを持っているし、イナミの従者として自分の役目は全うしたい。それに、イナミに言った通り、この程度の熱ならどうってことはない。と、自分の限界を理解したうえで、やっているつもりなんだけれど。

「うわっ」
「部屋に帰るよ」
「ま、待って、もう少し、」
「駄目」

語気が強い。抱え上げられた腕の上でばたついても、鍛え上げられたイナミの体ではびくともしない。おとなしく腕に身を預けて、

「? 部屋、」
「俺の部屋。コトカは大人しく休んでないだろうし、オレが見張っとく」

はあ、とイナミがまた溜息をつく。

「こんなに心配してるのに、どうして分かってくれないのかな」
「イナミが心配性すぎるんだよ」
「コトカが頑張り屋さんすぎるんだよ。命令って言ったって、聞いてくれないんだろうし」

むすりと口を尖らせるイナミがかわいくて。わたしが手間を掛けさせてしまっているんだから、駄目だって分かってるけど。ちょっとだけ、嬉しくなってしまう。

「……イナミがちゃんと座り仕事してるか、見てるね」
「……いいから、ちゃんと寝て」

じっとしているのが苦手なイナミは、ぐっとばつの悪そうな顔をする。思わず笑うと、イナミはじとりとわたしを睨んだ。

「……コトカ、オレ、怒ってるんだよ。わかってる?」
「うん」
「コトカのことだから気付かないことは絶対ないけど、具合悪いことくらい、ちゃんと言って」
「……うーん」

ふいに、イナミの顔が近づいて、ちゅう、と口を吸われる。ここ廊下、と反論する前に、こつりとおでこがぶつかる。

「……いい?」
「……、はあい」

ゆらゆらと、歩くイナミからくる振動で、だんだん眠くなってくる。火照った体を自覚して、ちょっとだけ反省する。「寝てていいよ」優しいイナミの声に揺られて、そっと目を閉じる。

「…おやすみ、コトカ」