病弱なわたしを、那由多さまは助けてくれた。色んな温泉を紹介して、毎週のように温泉に通うわたしの頭を撫でて、がんばろうな、と笑ってくれた。あの太陽みたいにあたたかい人にたくさんたくさん救ってもらって、わたしはずっと生きてきたのだ。

「な、なゆたさま、やめてください」

「いいだろ?」

「だめです、わたしまだお仕事が」

「俺が休憩したいから。な?」

ごろごろと勝手に喉が鳴る。那由多さまにするりと首の下を撫でられて甘ったるい声が出ると、那由多さまは楽しそうに微笑んだ。恥ずかしいのに、思考はどんどん奪われて、耳が出ちゃうんじゃないかってくらい体から力が抜ける。

那由多様の手に振りかけられているのはまたたびの香水。その手で頬を撫でられるとふわりと溶けるような香りがして、頭がふわふわしてしまう。那由多さまは500年くらい生きているし、とても強くい人でいらっしゃるから、この程度のまたたびはもう効かない。だからこれで酔っぱらってしまうわたしは那由多さまにされるがままで、ああ、もう、だめだ、喉が鳴る。

「那由多さま…」

「ああ、耳が出ちゃってる。かわいいな」

「ひう」

溶けたところに、猫の耳まで優しく撫でられてはたまらない。ぞわぞわと肌が逆立って、やめてほしいと思う理性はまだあるはずなのに、那由多さまのあたたかいてのひらに耳を、頬を、擦り付けてしまう。

「なゆ、」

那由多さまの舌がわたしの耳に触れて、わたしの思考はそこからぷっつりと途絶えている。



那由多さまは。廻天の王子で、とっても大事にされていらっしゃる。猫のように(いや、わたしたちの一族は皆猫又だけど)自由で、優しくて、とにかく素敵なかたなのだ。わたしの面倒をずっと見てくれていた那由多さまはいつかわたしを側近として迎え入れて、入浴剤を作る仕事を与えてくれた。「お前はずっと色んな温泉に入ってきたし、いい香りに敏感だからな」そう言ってわたしに仕事を与えてくれた那由多さまに本当に感謝しているし、わたしは那由多さまが大好きだ。大好き、なのだけれども。

「那由多さま!」

「あはは、かわいいかわいい」

那由多さまはわたしに仕事を与えてから、お忙しいだろうにわたしの仕事場にひょいとやって来てくれることが増えた。そりゃあ、那由多さまは仕事熱心なお方だし、入浴剤の出来だとか、新作のチェックとか、そういう公務だってあるとは思うけど。最初はわたしの体調を心配しているのかと思って、「温泉のおかげで元気です」なんて言っていたのだけど、わたしの顎の下を撫でたりじゃらしたりしてくる那由多さまは、わたしで遊びに来ているようにしか思えなくなった。那由多さまのことは大好きだけれど、170歳の若輩をからかって遊ぶのはやめてほしいのである!